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無色の令嬢と氷の辺境伯 〜魔法のない世界で、貴方の瞳に映る私だけが本物でした〜  作者: 寝不足魔王


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第23話:冬の陽だまりのティータイム

嵐の前の静けさのような、温かなティータイム。

リュカの「あーん」と、彼が抱く一抹の不安が描かれます。


 前夜の激しい独占欲が嘘のように、今日のリュカ様はどこか落ち着いた雰囲気を纏っていた。

 連日の針仕事で根を詰める私を見かねたのか、彼は「少しは目を休ませろ」と、離宮の温室へと私を誘ったのだ。


 外は粉雪が舞う極寒だが、ガラス張りの温室内には北方の貴重な冬の陽光が溜まり、春のような暖かさに満ちている。

 円卓の上には、マーサが用意してくれたハチミツたっぷりの紅茶と、この地で採れるベリーを煮詰めた小さな焼き菓子が並んでいた。


「……アイリス。これを食べろ」


 リュカ様が、不器用にフォークで切り分けたタルトを差し出した。

 驚いて顔を上げると、彼のアイスブルーの瞳は少しだけ気まずそうに逸らされている。


「あの、リュカ様? 自分でいただけますわ」

「……お前は集中すると食事を忘れる。俺が監督すると言ったはずだ。ほら、口を開けろ」


 王都の社交界では、淑女が公衆の面前で男性から食べさせてもらうなど、はしたない行為とされていた。けれど、ここには私たち二人と、温かな陽だまりしかない。

 私は羞恥に頬を染めながらも、促されるままにそっと口を開いた。


「……っ。……甘くて、とても美味しいですわ」

「そうか。お前には、そのくらい甘いものが丁度いい」


 リュカ様は満足げに目を細めると、今度は自分の紅茶を一口啜った。

 魔法のないこの世界で、こうしたささやかな「甘さ」を分かち合うことは、宝石を贈り合うことよりもずっと贅沢な儀式に思える。


「リュカ様は、いつも私のことばかり……。貴方こそ、お忙しいのではありませんか?」

「俺のことはいい。……ただ、最近のお前を見ていると、時折どこか遠くへ行ってしまいそうな気がしてな」


 リュカ様が、テーブル越しに私の手に自分の手を重ねた。

 大きな、節くれ立った、戦う男の手。けれど、その指先が私の甲をなぞる動きは、壊れ物を扱うように繊細だ。


「ドレスを完成させれば、お前は王都へ戻る。……その時、俺が引き止めても、お前は頷いてくれるか?」


 陽だまりの中で、彼の問いが重く、甘く響く。

 私は彼の手をそっと握り返した。

 エドワード様には決して見せなかった、心からの真実を瞳に宿して。


「……私は、私を見つけてくれた場所を、忘れたりはいたしません。リュカ様、私は貴方の傍にいたいのです」


 リュカ様はそれ以上何も言わなかったが、握られた手の力が、僅かに強まった。

 ベリーの甘い香りと、紅茶の湯気。

 穏やかな冬の午後は、二人の想いを静かに、けれど確実に溶かし合っていく。


第23話をお読みいただきありがとうございます。

独占欲全開のあとの、この甘いギャップ……!

リュカ様の不器用な「あーん」に、

「尊すぎて語彙力が死ぬ」「リュカ様の不安が切ない」と思ってくださった方は、

ぜひ【★★★★★】評価やブックマークで応援をよろしくお願いします!

次話、ついにドレスが形を成し、二人は「秘密の試着室」へ。


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