第20話:再起の誓い
絶望の淵から這い上がったアイリス。
彼女の指先が紡ぎ出したのは、過去への決別と、未来への強き誓いでした。
リュカ様の腕の中で過ごした一夜が明け、私はかつてないほど澄んだ気持ちで作業机に向かっていた。
手元にあるのは、リュカ様のために刺し続けてきた漆黒の外套。そこには、あの深い赤の糸で、ヴォルテール家の紋章が今まさに完成を迎えようとしていた。
「……できたわ」
最後の一針を通し、糸を引く。
漆黒の生地に浮かび上がったのは、冬の雪山を制する猛禽の意匠。そしてその羽の隙間に、私は密かに「冬の薔薇」の棘を模した刺繍を忍ばせた。それは、この厳しい地で私を見つけ、救ってくれた彼への、言葉にできない愛の証。
「アイリス。顔つきが変わったな」
部屋に入ってきたリュカ様が、完成した外套を見て、驚いたように目を細めた。
彼はその外套を羽織り、鏡の前ではなく、私の前に立った。
「見事だ。王都のどの宮廷仕立て屋も、これほど魂を揺さぶる一着は作れまい」
「……ありがとうございます、リュカ様。でも、これで終わりではありませんわ。私は、この技術を使って、貴方をお守りしたいのです」
私はリュカ様の瞳を真っ直ぐに見つめ、一歩踏み出した。
「王都が私を不貞の女と呼び、貴方を反逆者に仕立て上げようとしているのなら……私は、私の『装い』で、その嘘を暴いてみせます。魔法も身分も持たない私が、貴方の隣に立つに相応しい人間であることを、世界に知らしめるために」
私が提案したのは、リュカ様と共に王都の夜会へ乗り込むことではない。
この北方の地で培った最高の布地と技術を用い、王都が決して真似できない「真の美学」を体現した一着を、私自身の新しいドレスとして作り上げること。
それが、私を捨てたエドワード様とセレーナへの、最大の「ざまぁ」になると確信していた。
「……ふ。面白い。いいだろう、アイリス。お前がその針で道を拓くなら、俺は剣としてその横に立つ。……誰にもお前を蔑ませはしない」
リュカ様は私の手をとり、その指先に誓いを立てるように唇を寄せた。
かつて愛に裏切られ、雨の中に捨てられたアメジストは、今、北方の冷気の中でダイヤモンドよりも硬い輝きを放ち始めている。
私は、もう逃げない。
この指先にある技術と、この胸にあるリュカ様への恋心を盾にして、奪われた誇りを取り戻してみせる。
白銀の夜が明け、新しい運命の幕が上がる音がした。
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アイリスの「再起の誓い」。守られるだけでなく、自ら戦う決意をした彼女に、
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次話より、アイリスが自分を磨き上げ、敵を圧倒するための「反撃」の物語が始まります。




