第19話:夜のバルコニーで
迫りくる追手の足音。
しかし、それがかえって二人の想いを強く結びつけます。
リュカの剥き出しの独占欲が、アイリスの心を奪います。
王都からの不穏な知らせを聞いてから、私の心は千々に乱れていた。
窓の外を見れば、北方の冬の星座が冷たく光っている。私は居ても立ってもいられず、カシミアのショールを羽織って、あの夜と同じバルコニーへと向かった。
そこには、既にリュカ様の姿があった。
彼は夜風に吹かれながら、暗い森の向こう、王都へと続く街道をじっと見据えている。その背中は、以前よりもずっと険しく、寄せ付けない威厳を放っていた。
「……リュカ様」
私の呼び声に、彼はゆっくりと振り返った。アイスブルーの瞳に宿る鋭い光が、私を認めた瞬間にだけ、わずかに和らぐ。
「こんな夜更けにどうした。……王都の噂に、怯えているのか」
「いいえ……。ただ、私のせいで、貴方にご迷惑がかかるのではないかと思うと……」
私が俯くと、リュカ様は力強い足取りで近づき、私の言葉を遮るように両肩を掴んだ。
「迷惑だと? まだそんなことを言っているのか」
至近距離で見つめられる。冷たい夜気の中で、彼の吐息だけが白く熱く、私の頬を掠めた。
「アイリス。あの日、雨の中にいたお前を拾い上げたのは俺だ。泥にまみれたお前の価値を見抜き、この地へ連れてきたのも俺だ。……今更、王都の無能どもに返してくれと言われて、頷く道理がどこにある」
「でも、もし騎士団が……」
「来ればいい。一歩でもこの門を潜れば、ヴォルテール家の敵として葬るだけだ。……お前は、もう俺の所有だ。その指先も、その瞳も、その心も。誰にも、指一本触れさせはしない」
リュカ様の声が低く、熱く、私の鼓動に響く。
それは傲慢なまでの独占欲。けれど、何よりも私を求めてくれているという、この上ない甘い告白に聞こえた。
彼は私の腰を引き寄せ、もう一方の手で私の顎をそっと持ち上げた。
月光に照らされた彼の顔が近づく。魔法のないこの世界で、これほどまでに強烈に「熱」を感じさせる男が、他にいるだろうか。
「アイリス……。俺の傍から、離れるな」
「……はい。離れません。……どこへも」
私は彼の胸に顔を埋めた。
不穏な影が迫っていようと、この腕の中にいる限り、私はもう一度「アイリス」という名前を、自分自身の誇りとして抱いていける。
闇の中で重なる二人の鼓動が、静かな夜の静寂を塗り替えていった。
第19話をお読みいただきありがとうございます。
「お前は俺のものだ」……リュカ様のストレートな独占欲に、胸が熱くなります。
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次話、アイリスがある「決意」を胸に、自らの手で運命を切り拓き始めます。




