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無色の令嬢と氷の辺境伯 〜魔法のない世界で、貴方の瞳に映る私だけが本物でした〜  作者: 寝不足魔王


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第21話:私のためのアメジスト

自分自身を取り戻すための、新しいドレス。

アイリスが選んだのは、かつて否定された「自分自身の瞳の色」でした。


 作業机の上に広げられたのは、リュカ様が密かに取り寄せてくれた、北方の深奥で織られた最高級のシルクベルベットだった。

 その色は、あの日雨に濡れて泥にまみれたドレスと同じ、けれどそれよりもずっと深く、強い輝きを秘めたアメジスト・パープル。

 指先でなぞれば、滑らかな毛足が吸い付くように肌に馴染み、魔法のないこの世界で「布」がいかに力強い意志を持つかを無言で語りかけてくる。


「……今度は、お前自身のために。好きなように仕立てるがいい」


 背後で腕を組み、その進捗を見守るリュカ様の声は、どこまでも深く、優しい。

 私はかつて、エドワード様が好む「清楚なラベンダー」や、流行に合わせた「淡い藤色」ばかりを選んできた。自分の瞳の色と同じこの濃密な紫は、王都では「主張が強すぎる」と遠ざけてきた色だ。


 けれど、今は違う。


「ありがとうございます、リュカ様。私……この色で、今の私を認めさせてみせますわ」


 私は迷いなく鋏を入れた。

 型紙を当てる際、かつての自分を縛っていた「王妃としての窮屈な規範」をすべて捨て去った。

 立ち居振る舞いを美しく見せるための曲線ではなく、私の身体を、そしてリュカ様が「美しい」と言ってくれたこの魂を、最も自由に、最も誇り高く見せるためのラインを引いていく。


 作業の間、リュカ様は時折、私の指先に触れるか触れないかの距離まで近づき、真剣な眼差しでその手元を見つめていた。

 彼の放つ微かな熱と、上質な布地の香りが混ざり合い、私の集中力は研ぎ澄まされていく。


「アイリス、その首筋のライン……。お前の肌には、この深い色がよく映える」


 不意に落とされたリュカ様の低い呟きに、胸の奥が熱く疼く。

 彼が私の「本質」を見ている。装飾品や身分という飾りを剥ぎ取った、裸の私を肯定してくれている。

 

 私は、解体したあのドレスから救い出した「銀糸のレース」を、新しい襟元に添えた。

 過去の痛みも、屈辱も、すべてはこの一着を完成させるための糧。

 針を通すたびに、布が喜びをあげるように光を反射する。


 誰のためでもない、私のためのアメジスト。

 それが形を成していくにつれ、私の心から最後の迷いが消えていった。


第21話をお読みいただきありがとうございます。

自分自身のカラーを誇りに変えるアイリスの姿に、

「ドレスの完成が待ち遠しい!」「リュカ様の褒め方が甘い」と思ってくださった方は、

ぜひ【★★★★★】評価やブックマークで応援をよろしくお願いします!

次話、アイリスの美しさに、リュカ様の独占欲がさらに加速します。


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