第15話:招かれざる噂
平穏な離宮に現れたのは、誇り高いリュカを狙う隣領の令嬢。
アイリスに向けられる「下女」という蔑みに対し、彼女は自らの誇りで立ち向かいます。
穏やかな朝の静寂を切り裂くように、離宮の門前に見慣れない豪華な馬車の車輪音が響いた。
現れたのは、隣領を治める伯爵家の令嬢、カトリーヌだった。彼女はリュカ様の遠縁にあたり、以前から彼への懸想を隠そうともしない女性として、この地では知られた存在だった。
「まあ、リュカ様! 突然の訪問をお許しくださいませ。……あら、そこにいるのは?」
サンルームで針仕事をしていた私に、カトリーヌの鋭い視線が突き刺さる。
彼女は、王都の流行を無理に北方の気候に持ち込んだような、薄手の絹に毛皮をあしらった派手なドレスを纏っていた。その姿は、周囲の静謐な空気の中で浮き上がって見える。
「……アイリスと申します、カトリーヌ様」
私が礼儀正しく頭を下げると、彼女は扇で口元を覆い、取り巻きの侍女たちと顔を見合わせてせせら笑った。
「アイリス? 苗字も名乗れないような、卑しい身分の方なのかしら。リュカ様も困ったものですわ。こんな小汚い下働きの女を、客間同然の場所で働かせるなんて。……ねえ、貴女。私のドレスの裾に泥が飛んだの。今すぐ跪いて拭き取りなさいな」
投げつけられたのは、無実の罪で王都を追われた時と同じ、理不尽な悪意だった。
マーサが慌てて割って入ろうとしたが、私はそれを手で制した。
魔法のないこの世界で、女性を際立たせるのは家柄と、そして「装い」だ。
カトリーヌのドレスは確かに高価だが、北方の湿り気を帯びた風には不向きな、糸の選定が甘いものだった。
「……カトリーヌ様。そのドレスの生地は、王都で流行りのペルシャ絹とお見受けいたします。ですが、この地の冬の空気では繊維が強張り、無理に拭えば糸が死んでしまいますわ」
私は静かに立ち上がり、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「身分を語る口をお持ちなら、まずはその身に纏うものの声を聞くべきですわ。それが、真に高貴な方の嗜みではありませんこと?」
「なっ、なんですって……!? この、生意気な下女が!」
カトリーヌが顔を真っ赤にして叫び、今にも手を上げようとしたその時。
背後の重厚な扉が開き、冬の嵐のような冷気を纏ったリュカ様が姿を現した。
そのアイスブルーの瞳には、カトリーヌを射殺さんばかりの鋭い光が宿っていた。
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カトリーヌの嫌がらせに対し、ドレスの知識で切り返したアイリス。
「アイリス、よく言った!」「リュカ様、早く助けて!」と思ってくださった方は、
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次話、リュカ様がアイリスへの「本当の想い」を、公然の前で示します。




