第14話:月明かりの庭園散歩
月光と雪が織りなす、銀色の庭園。
リュカから贈られたのは、凍てつく冬に咲く「強さ」の象徴でした。
針仕事を終えた後の指先には、まだあの深い赤い糸の熱が残っているようだった。
ふと窓の外を見れば、北方の澄んだ夜空に、鋭い刃物のように研ぎ澄まされた月が浮かんでいる。
「……少し、歩かないか」
背後からかけられた声に振り返ると、そこには日常着のままのリュカ様が立っていた。
私は驚きながらも、貸し出されている厚手のカシミアショールを肩に掛け、彼の後に続いた。
離宮の庭園は、王都のそれのように幾何学的に整えられたものではない。雪に耐える力強い樹木と、月光を浴びて銀色に輝く石畳が広がる、野生に近い美しさを持っていた。
吐く息が白く、ピリリとした冷気が頬を撫でる。けれど、隣を歩くリュカ様の存在が、その寒さを心地よいものに変えていた。
「王都の庭園とは、随分と勝手が違うだろう」
「ええ。ですが……こちらのほうが、ずっと好きですわ。無理に飾られていない、ありのままの気高さを感じますもの」
私の言葉に、リュカ様は足を止めた。
彼は無言のまま、雪を被った生垣の陰へと手を伸ばす。そこには、極寒の中でひっそりと、けれど燃えるような真紅の花弁を広げる「冬の薔薇」が咲いていた。
「……君に似ている」
リュカ様はその花を折り取ると、私の手元に差し出した。
魔法のないこの地で、雪の中で咲く花は奇跡に近い。それは、過酷な運命に耐え、それでもなお美しさを捨てなかった私自身を肯定してくれているようだった。
「リュカ様……」
「受け取れ。……そして、忘れるな。俺は、温室で守られた花など興味はない。雪の中で咲き誇る、その強さを愛しているのだと」
差し出された花を受け取った瞬間、指先が触れ合った。
冷たい空気の中で、そこだけが火が灯ったように熱い。
リュカ様の瞳には、月光よりも深い色が宿り、私を真っ直ぐに見つめていた。
「……はい。この花のように、私も、貴方の隣で強くありたいと思いますわ」
私は花を胸元に抱き、彼を見上げた。
不器用な贈り物。飾らない言葉。
エドワード様から贈られたどんな高価な宝石よりも、この一輪の花が、私の心を深く、甘く、支配していく。
月明かりの下、二人の影が石畳の上で静かに重なり合っていた。
第14話をお読みいただきありがとうございます。
「雪の中で咲き誇る強さを愛している」……リュカ様のストレートな言葉に、アイリスの心も熱くなります。
「冬の薔薇が目に浮かぶ!」「二人の距離感に悶える」と思ってくださった方は、
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次話、平穏を壊す「招かれざる客」が離宮を訪れます。




