第110話:アメジストの瞳が見つめる未来
ついに迎える、物語の終幕。
過酷な運命を乗り越えたアイリスとリュカ。
北方の春の陽光の下、二人は揺るぎない幸福の中で、共に歩む未来を見つめます。
北方の冬が終わりを告げようとしている。
離宮のバルコニーから見下ろす庭園では、かつて雪の下に見つけたあの小さなスノードロップが、今や誇らしげに群生し、春の訪れを告げていた。
魔法という奇跡が存在しないこの世界において、季節が巡ることは、私たちが積み重ねてきた時間が「真実」であったことを何よりも雄弁に物語ってくれる。
「アイリス、寒くはないか」
背後から現れたリュカ様が、私を包み込むように漆黒の外套を広げた。
その左手の掌――今はもう傷跡も薄くなったが、私にとっては一生消えない愛の証であるその手が、私の指先を優しく、けれど独占欲を込めて強く握りしめる。
「ええ、旦那様。貴方の熱が、私をずっと温めてくださっていますもの」
私は、彼の腕の中で静かに瞳を閉じた。
公爵令嬢として、誰かのための人形でいた頃には想像もできなかった景色が、今、目の前に広がっている。
一針一針に誇りを込め、自分自身で選び取った「愛」という名の居場所。
ふと視線を落とせば、私の薬指には、あの日リュカ様が贈ってくれた銀の指輪が、春の柔らかな陽光を浴びてアメジストのように輝いていた。
「アイリス……。お前が俺の元へ来てから、この北方の景色がどれほど鮮やかに変わったか、お前は分かっていないだろう。……俺の瞳に映るのは、一生、お前が紡ぎ出す色彩だけでいい」
リュカ様は私の髪に顔を埋め、深く、永遠を誓うような溜息を吐いた。
王都の虚飾も、過去の痛みも、すべてはこの輝かしい日常のための前奏曲に過ぎなかった。
魔法なき世界の、不器用で、けれど烈火のように熱い私たちの愛。
それは、これから何度季節が巡ろうとも、決して解けることのない一筋の糸となって、未来へと続いていく。
私は彼のアイスブルーの瞳を見上げ、愛を込めて微笑んだ。
アメジストの瞳が見つめる未来。
そこには、私を誰よりも深く愛し、誰よりも激しく独占する一人の男と、彼のために一針を紡ぎ続ける、幸福な私の姿が、確かに、そして永遠に刻まれていた。
第110話、そして本作品をお読みいただき、本当にありがとうございました。
泥の中から立ち上がった針子と、彼女を救い出した辺境伯。魔法のない世界だからこそ際立つ、二人の「肌の熱」と「魂の気高さ」を最後までお届けできたことを光栄に思います。
「リュカ様、最後まで重厚な愛をありがとう!」「アイリス、本当にお幸せに!」と思ってくださった方は、ぜひ最後に【★★★★★】評価やブックマークをいただけますと、執筆の最高の締めくくりとなります!
これにて、物語は完結です。
またどこか、新しい物語の色彩の中でお会いできる日を楽しみにしています。




