第109話:愛という名の檻の中で
リュカの激しすぎる独占欲と、それを「最高の救い」として受け入れるアイリス。
二人の関係は、誰の手も届かない、閉ざされた幸福の深淵へと至ります。
王都の社交界という喧騒も、セレーナの悪意も、エドワード様の身勝手な後悔も、今はもう遠い冬の幻影に過ぎない。
離宮の最奥、厚いカーテンで外界を遮った寝室は、世界で最も静かで、最も閉ざされた「檻」だった。
「アイリス……、お前は本当に、俺だけのものだな。どこへも行く気はないな」
深夜。背後から抱きしめるリュカ様の声は、祈りにも似た切実さを孕んでいた。
彼は私の腰を砕けんばかりの力で引き寄せ、その逞しい胸板を私の背中に押し付ける。魔法のないこの世界において、この抗いようのない「重さ」こそが、私をこの場所へ縫い止める唯一の確かな力。
「はい、旦那様。……私は、貴方の腕の外で生きる術など、もう忘れてしまいましたわ」
私が微笑み、彼の手のひらに指を絡めると、リュカ様は満足げに、けれど追い詰めるような熱を持って私の耳元に唇を寄せた。
かつて王都で感じていた「檻」は、誰かの期待に応えるための透明な牢獄だった。けれど、リュカ様が私に与えた「檻」は、私のすべてを肯定し、守り抜くための聖域。
リュカ様のアイスブルーの瞳は、暗闇の中で激しい独占欲に燃えている。
彼は私の首筋に顔を埋め、所有権を刻み込むように深く、その香りを吸い込んだ。
「お前の一針も、そのアメジストの瞳も、俺以外の誰にも触れさせん。……一生、この北方の雪の中に閉じ込めて、俺の体温だけを与え続ける。……それでいいな?」
「ええ……。それが私の、至上の幸福ですわ」
魔法の奇跡など、今の私たちには必要なかった。
重なり合う鼓動、混ざり合う吐息。
逃げ出す隙間など一寸もないほどに密着したこの空間こそが、私がようやく見つけた、真実の自由。
私は彼という名の檻の中で、一羽の鳥のように翼を休め、静かに瞳を閉じた。
外では雪がすべてを白く塗り潰していく。
けれど、この腕の中にある愛という名の檻は、春が来ても、夏が過ぎても、決して壊れることのない永遠の約束だった。
第109話をお読みいただきありがとうございます。
「愛という名の檻」……リュカ様の重い愛と、アイリスの全面的な信頼が交差する、濃厚な一夜でした。
「独占欲の塊のようなリュカ様、最後までブレない!」「二人の密着感が伝わってくる」と思ってくださった方は、
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次話、ついに最終回。第110話「アメジストの瞳が見つめる未来」へ。




