表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の令嬢と氷の辺境伯 〜魔法のない世界で、貴方の瞳に映る私だけが本物でした〜  作者: 寝不足魔王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
108/110

第108話:騎士と針子の日常

北方の離宮で過ごす、甘やかな朝と穏やかな午後。

主としての重責を背負うリュカが、アイリスの前でだけ見せる「ただの男」の顔を描きます。


 北方の朝は早い。

 窓の外、白銀に染まった針葉樹林から、冷たく澄んだ空気が離宮の寝室へと忍び込んでくる。

 だが、私の周囲だけは、冬の寒さを忘れるほどの熱に包まれていた。


「……ん。……リュカ様、もう朝ですわ」


 背後から回された逞しい腕。リュカ様は私のうなじに顔を埋めたまま、独占欲を隠そうともせず、さらに強く私を抱き寄せた。魔法という奇跡がないこの地で、男の腕の強さは、そのまま愛の深さとして私の肌に刻まれる。


「……あと少し。この部屋から出れば、俺はヴォルテールの主として、お前を狙う不埒な公務や来客と戦わねばならん。ここだけが、俺がただの男でいられる場所だ」


 騎士として戦場を駆けてきた男の、あまりに甘い我慢。

 私は彼の手の上に自分の手を重ね、手のひらに残るあの「傷跡」をそっとなぞった。


 朝食の後、リュカ様は執務室へ、私は工房へと向かうのが、私たちの新しい日常だ。

 けれど、リュカ様はことあるごとに理由をつけては工房を訪れる。


「アイリス、糸を切らしたのではないか?」「その針は研がなくていいのか?」

 

 不器用な問いかけと共に、彼は私の作業を中断させ、しばしば私を膝の上に座らせる。針子の仕事は繊細なもの。けれど、彼の大きな掌に包まれていると、不思議と一針の迷いも消えていく。


「リュカ様、これでは仕事になりませんわ。……皆様、北方の主がこれほどまでに甘えたがりの騎士だとは、夢にも思っていないでしょうね」


「……お前にだけだ。他の誰に、俺のこの喉元を晒すというんだ」


 リュカ様はアイスブルーの瞳を細め、私の指先に、かつての戦場を思わせる熱情を込めて口づけた。

 王都のような豪華な宝石も、偽りの称賛もない。

 けれど、私の針が紡ぎ出す一本の糸。リュカ様が振るう一本の剣。

 それらが交差するこの場所こそが、世界で最も気高く、そして愛おしい私たちの「日常」だった。


 騎士と針子。

 異なる生き方を持つ二人は、今、一つの家の中で、決して解けない結び目で縫い合わされていた。



第108話をお読みいただきありがとうございます。

執務の合間にアイリスの様子を見に来るリュカ様、独占欲が日常に溶け込んでいますね。

「不器用な甘え方がたまらない!」「二人の距離感が理想的」と思ってくださった方は、

ぜひ【★★★★★】評価やブックマークで応援をよろしくお願いします!

次話、逃げ出す隙もないほどに深い、愛の重さ。第109話「愛という名の檻の中で」へ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ