第104話:歓迎の白雪
因縁の王都を去り、愛する北方の離宮へ。
降りしきる白雪と領民たちの温かな声が、戦い抜いた二人を優しく包み込みます。
馬車の窓の外、景色はいつしか王都の華やかさを脱ぎ捨て、見渡す限りの純白の世界へと変わっていた。
北方の境界を越えた瞬間、鼻腔をくすぐる冷たく澄んだ空気。それは、王都の毒にさらされていた私の魂を、一瞬で清めてくれるような懐かしい匂いだった。
「……降ってきたな。お前を歓迎しているようだ、アイリス」
リュカ様が窓の外を見つめ、低く穏やかな声で言った。
空からは、綿菓子のように柔らかな白雪が舞い落ち、私たちの帰還を祝うように馬車の屋根を優しく叩いている。
離宮の正門が見えてくると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
厳しい冬の最中であるにもかかわらず、多くの領民たちが道に集まり、私たちが乗る馬車に向かって歓声を上げ、色とりどりの毛糸の束を振っていたのだ。
「おかえりなさい、辺境伯様!」「アイリス様、私たちの誇り!」
魔法の光など一つもない。けれど、その力強い声と笑顔は、王宮のどんな豪華な演出よりも温かく、私の胸を熱くさせた。
「……あ。皆様……」
「お前の成し遂げたことは、すでに北方の隅々にまで伝わっている。……王都の奴らが何と言おうと、この地の民にとって、お前は自分たちの価値を世界に知らしめた英雄なのだ」
リュカ様は私の肩を引き寄せ、独占欲を滲ませた熱い瞳で私を見つめた。
離宮にたどり着き、馬車の扉が開かれる。
一歩、雪を踏みしめた瞬間の、心地よい抵抗感。
王都で「不貞の女」と罵られた私。
けれど今、この雪深い地で、私は「愛される伴侶」として、そして「一人の誇り高き職人」として迎えられている。
「……ただいま戻りましたわ、リュカ様。私の、私たちの家に」
「ああ。……もう、どこへも行かせん。この雪の檻の中で、一生俺に愛されていろ」
リュカ様は私の手をとり、手のひらに残るあの「傷跡」を私の頬に寄せた。
降り積もる白雪。
それは、過去のすべての汚れを覆い隠し、私たちの新しい物語を純白に染め上げていく、天からの祝福だった。
第104話をお読みいただきありがとうございます。
離宮への帰還……領民たちの歓迎に、アイリスが自分の居場所を再確認するシーンでした。
魔法がないからこそ、人の温もりが何よりも贅沢に感じられます。
「アイリス、本当におかえり!」「リュカ様の安堵した顔が目に浮かぶ」と思ってくださった方は、
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次話、第105話「秘密の結婚式(前)」へと物語は繋がります。




