第101話:月下の告白、再び
夜会を抜け出し、二人きりの月下で交わされる誓い。
アイリスは、王都のすべてを捨て、リュカの「独占」という名の救いを選び取ります。
喧騒の残響が、閉ざされた扉の向こうへと遠ざかっていく。
王宮の最上階、夜の静寂が支配する月下のバルコニー。冷たい夜風が、アメジストのベルベットを優しく撫で、アイリスの銀灰色の髪を揺らした。
魔法という奇跡が存在しないこの世界において、青白い月光は、嘘偽りのない真実を暴き出す唯一の灯火だ。
「……アイリス。こちらを向け」
リュカ様が背後から私を包み込むように抱き寄せた。
漆黒の正装が私の肌に触れ、そこから伝わる彼の鼓動は、先ほどまでの怒りを含んだ嫉妬とは違い、深淵のように静かで重い。
「お前は今日、あの場所で過去のすべてを焼き尽くした。……もう、お前を縛る鎖は王都のどこにも残っていない」
彼のアイスブルーの瞳が、月光を反射して鋭く、そして狂おしいほどの情愛を湛えて私を射抜く。
リュカ様は包帯の巻かれた左手で、私の指先をゆっくりとなぞった。あの傷跡の感触が、私たちの間にある「契約」を思い起こさせる。
「俺は、お前を連れて帰る。……あの日、雨の中で拾ったお前を、今度は俺の妻として、生涯俺の瞳の中に閉じ込めておくために」
独占欲を孕んだ、あまりにも熱い告白。
私は彼に向き直り、その逞しい胸板にそっと手を添えた。私が刺した「猛禽」の刺繍が、私の指先に確かな手応えを返してくる。
「……リュカ様。私、あの日雨の中で貴方に拾われた時、自分にはもう色彩など残っていないと思っていましたわ。……でも、貴方の熱が、私にアメジストの輝きを取り戻させてくださった」
私は彼を見上げ、月光の下で、これまでで最も深い微笑みを向けた。
「私の魂は、あの日からずっと、貴方のものです。……王都の称賛も、王妃の座も、今の私にはこのリボン一本ほどの価値もありませんわ。私は、貴方の檻の中で、貴方のためだけに一針を紡ぎ続けたいのです」
リュカ様は呻くような声を漏らし、私の言葉を飲み込むように激しく唇を重ねた。
魔法の光など必要ない。
重なり合う吐息と、肌を焦がすような愛撫。
月光の下で、私たちは「過去の再会」ではなく、「永遠の帰属」を再び誓い合った。
夜が明ければ、私たちは北方の安息へと帰る。
王都の虚飾を焼き尽くした後に残ったのは、アメジストのように決して色褪せない、二人の剥き出しの愛だけだった。
第101話をお読みいただきありがとうございます。
月下のバルコニーでの濃厚な誓い……リュカ様の「妻として閉じ込めておく」という言葉の重みがたまりません。
魔法のない世界だからこそ、言葉と肌の熱が何よりも確かな約束になります。
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次話、アイリスを縛っていた公爵家との最終決戦。第102話「呪縛からの解放」へ。




