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姫様の騎士団は最強である

それは、同時に起きた。


北方。


西方。


王都周辺。


そして――王宮内部。


各地で、魔物の大規模発生。


いや、それだけではない。


武装した集団。


明らかに統率された動き。


内と外から、同時に王国を揺るがす“意図的な戦火”。


(……来たわね)


王宮の高台から、レシティアはそれを見下ろしていた。


煙が上がる。


遠くで爆ぜる音。


兵たちが動き出している。


だが――


(少し、遅いわね)


騎士たちが、いない。


分断されたまま。


通常なら、この状況は致命的だった。


だが。


「……いいえ」


姫は、静かに目を閉じる。


そして。


「――戻りなさい」


小さく、呟いた。


その言葉は、誰にも届かない。


だが――


それでも。


“届いた”。


北方。


巨大な魔物の群れを前に、騎士の一人が立っていた。


単独。


だが、退く気配はない。


(……妙だな)


違和感は、ずっとあった。


あまりにも、都合がいい配置。


あまりにも、揃いすぎた発生。


そして――


胸の奥に、微かな感覚。


(……呼ばれている?)


次の瞬間。


剣が、わずかに震えた。


迷いが、消える。


「……そうか」


短く呟く。


そして。


振り向いた。


「戻る」


それだけを言い残し――


群れへ突っ込んだ。


一閃。


二閃。


三閃。


魔物の群れが、まるで道を開けるように崩れていく。


突破。


そのまま、駆ける。


王都へ。


西方。


交易路を塞ぐ武装集団。


その中心で、騎士の一人が剣を抜いた。


(……終わらせる)


長引かせる意味はない。


一歩。


消える。


視界から。


次の瞬間。


後方で、音がする。


振り返る間もなく、数人が倒れる。


連撃。


止まらない。


気づいたときには、もう遅い。


全員、地に伏していた。


「……遅れたな」


呟き。


そのまま、進路を変える。


王都へ。


王都内部。


潜伏していた者たちが、一斉に動く。


だが。


その影よりも速く、別の影が動いた。


音もなく。


気配もなく。


ただ――消える。


現れる。


その繰り返し。


気づけば、誰もいない。


残るのは、倒れた者たちだけ。


「……終わりだ」


短く告げて、騎士は振り返る。


やはり。


向かう先は、ひとつ。


王宮前。


最も激しい戦場。


巨大な魔物と、武装兵が入り混じる混沌。


兵たちは押されていた。


数が違う。


質も高い。


このままでは、崩れる。


そのとき。


風が、吹いた。


誰も気づかなかった。


ただ。


一瞬で。


状況が変わった。


前線の魔物が、崩れる。


後衛の指揮が、消える。


側面からの包囲が、切り裂かれる。


「……なんだ?」


兵の一人が呟く。


見えない。


何が起きたのか、わからない。


ただ――


敵が、減っていく。


「援軍か!?」


「いや……違う……」


見えない。


だが、確かに“何か”がいる。


そのとき。


王宮の階段に、一人の影が立った。


レシティア・パープル。


その姿を見た瞬間――


「姫様だ!!」


歓声が上がる。


「姫様が出られたぞ!」

「これで勝ちだ……!」


空気が、変わる。


絶望が、希望に変わる。


その中心で、姫は静かに立っている。


(……間に合ったわね)


視線を巡らせる。


すでに。


“揃っている”。


見えない場所に。


誰にも気づかれずに。


騎士たちが。


(……本当に)


わずかに、笑う。


(優秀すぎるのよ)


「行きましょう」


小さく、告げる。


その一言。


それだけで。


戦場が、動いた。


騎士たちが、一斉に解放される。


今まで抑えていた力が、解き放たれる。


一瞬で、戦線が押し返される。


圧倒。


魔物は斬られ。


敵兵は制圧され。


抵抗は、意味を失う。


そして。


中央。


最も巨大な魔物。


すべての核。


それが、咆哮を上げる。


空気が震える。


だが。


姫は、一歩前に出た。


「――そこまでよ」


静かに。


その声だけで。


魔物の動きが、止まる。


いや。


止まった“ように見えた”。


実際には――


背後から、騎士の一撃が決まっている。


横から、別の騎士が動きを封じている。


そして。


正面から。


姫が、踏み込む。


誰にも見えない速度で。


一撃。


核心を貫く。


音もなく。


崩れる。


巨大な存在が、沈む。


静寂。


そして――


「……終わった」


誰かが、呟く。


次の瞬間。


歓声が、爆発した。


「姫様が……!」

「姫様が倒された!」

「一言で……あの魔物を……!」


完全な誤解。


だが――


否定する者はいない。


できない。


その“結果”を見てしまったから。


姫は、静かに振り返る。


背後。


誰にも見えない位置に、騎士たちが並んでいる。


視線が、合う。


言葉はない。


だが。


それで、十分だった。


「……ありがとう」


小さく、呟く。


その声は、誰にも届かない。


だが。


確かに、伝わっていた。


王国は、救われた。


そして。


姫様の騎士団は――


最強である。


その事実だけが。


静かに、世界に刻まれていく。

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