世界確定率
《世界確定率》
《0.0001%》
誰も。
意味を。
理解できなかった。
ただ。
一人を除いて。
非常口の向こう。
黒髪の女。
「見返しちゃ駄目!」
遅い。
レシティアは。
巨大な瞳を。
見ている。
巨大な瞳も。
レシティアを。
見ている。
視線。
交わる。
そして。
《0.0002%》
数字。
上がった。
「姫様!」
セラフィナが。
レシティアの前。
飛び込む。
翼。
広げる。
視線。
遮る。
巨大な瞳。
見えなくなる。
「見ないでください!」
レシティア。
「もう見ちゃったわ」
「これ以上です!」
「分かった」
素直。
セラフィナ。
少し。
驚く。
「……今日は素直ですね」
「私だって」
「危ないって分かれば」
「言うこと聞くわよ」
リベル。
「本当でしょうか」
「何?」
「何でもありません」
巨大な瞳。
セラフィナへ。
視線。
移る。
《神性混成》
《観測済》
次。
ルミエル。
《天翼系》
《観測済》
リベル。
《人類種》
《観測済》
エリシア。
《境界固定体》
《観測済》
しかし。
数字。
《0.0002%》
動かない。
エリシア。
気づく。
「……レシティア」
「何?」
「あなたを見た時だけ」
リベル。
顔色。
変わる。
「確定率が上昇した」
レシティア。
「私だけ?」
「恐らく」
セラフィナ。
「どうして!?」
非常口。
向こう。
黒髪の女。
「違う!」
全員。
声。
見る。
女。
白い扉を。
叩く。
「その子だからじゃない!」
レシティア。
「じゃあ何?」
黒髪の女。
「見返したから!」
沈黙。
レシティア。
「……見返した?」
「そう!」
「そいつは」
「一方的に見るだけなら」
「観測じゃない!」
リベル。
「では」
「相互認識」
黒髪。
「そう!」
「見る」
「見られる」
「互いに」
「相手が存在すると認める」
「そこで初めて」
一拍。
「観測が成立する」
巨大な瞳。
動く。
レシティアを。
探す。
セラフィナ。
必死。
遮る。
瞳。
右。
セラフィナ。
右。
左。
セラフィナ。
左。
「見せません!」
巨大な瞳。
止まる。
《遮蔽物》
セラフィナ。
「遮蔽物!?」
少し。
傷ついた。
レシティア。
「私はちゃんとセラフィナって呼ぶわよ」
「姫様ぁ……」
「今泣くところ?」
《遮蔽物排除》
文字。
出る。
セラフィナ。
表情。
変わる。
レシティア。
即座。
「駄目」
剣。
抜く。
エリシア。
「レシティア!」
巨大な瞳。
中心。
細くなる。
光。
ではない。
線。
セラフィナへ。
伸びる。
ルミエル。
割って入る。
「させない!」
しかし。
線。
攻撃ではない。
触れた。
瞬間。
《遮蔽物》
《個体》
《セラフィナ》
《位置》
《固定》
セラフィナ。
止まる。
「……え?」
翼。
動かない。
腕。
動かない。
足。
動かない。
時間停止。
ではない。
空間固定。
でもない。
ただ。
そこにいる。
という事実が。
確定した。
レシティア。
「セラフィナ!」
走る。
「来ないで!」
セラフィナ。
声だけ。
動く。
「見ちゃ駄目です!」
レシティア。
止まる。
歯。
噛む。
巨大な瞳。
ゆっくり。
セラフィナの横から。
覗く。
レシティア。
顔。
逸らす。
《観測拒否》
文字。
浮かぶ。
《対象》
《観測拒否》
《理由検索》
《恐怖》
レシティア。
「違うわ」
文字。
止まる。
《訂正》
《理由》
レシティア。
瞳を。
見ないまま。
答える。
「見たら」
「あなたの思い通りになるから」
《……》
初めて。
文字が。
止まった。
地下。
剣士騎士。
上。
見ている。
ガルド。
その顔。
見る。
「見るなよ」
「姫様が上にいる」
「だからだ」
「何が起きている」
「観測」
ガルド。
一つ目。
閉じる。
「世界の外に」
「いろんなやつがいる」
「俺みたいなの」
「掃除屋」
「境界喰い」
「でも」
「観測者は」
「種類が違う」
剣士騎士。
「神か?」
「違う」
「では」
ガルド。
「神っていうのは」
「世界の中にいるだろ」
一拍。
「あれは」
「世界があると」
「決める側」
剣士騎士。
黙る。
「決める?」
「見つける」
「見る」
「記録する」
「名前をつける」
「形を決める」
ガルド。
「そして」
「一度」
「完全に観測された世界は」
「変われなくなる」
魔法騎士。
「……未来まで?」
ガルド。
「最後まで」
女性騎士。
「それは」
「どういう意味です」
ガルド。
「例えば」
「明日」
「国が滅びる」
「そう観測されたら」
一拍。
「滅びる」
ゼフィール。
「変えられない?」
「変えられない」
「逃げても?」
「滅びる」
「戦っても?」
「滅びる」
「じゃあ」
ガルド。
「確定する前なら」
「変えられる」
全員。
理解。
《世界確定率》
それが。
一〇〇%になれば。
この世界の。
始まりから。
終わりまで。
全て。
決まる。
剣士騎士。
穴。
見る。
「戻る」
ガルド。
「だから見るなって」
「見る必要はない」
「どうする」
「姫様のところへ行く」
「それだけだ」
ガルド。
少し。
笑う。
「ほんと」
「お前ら」
「それしかねえな」
女性騎士。
「十分です」
魔法騎士。
「我々は」
「そのためにおりますので」
地下。
助手。
「待って!」
錠前。
押さえながら。
叫ぶ。
「こっちは!?」
剣士騎士。
振り返る。
「直せ」
「一人で!?」
「壊したのはお前だ」
「正論が痛い!」
大きいおじさん。
『私がいる』
助手。
巨大な存在。
見る。
「手伝ってくれる?」
『見張る』
「手伝ってよ!」
『腹が痛い』
少女。
「やっぱり!」
『今は黙れ!』
上。
《世界確定率》
《0.0002%》
動かない。
黒髪の女。
「いい」
「そのまま」
「絶対」
「見返さないで」
レシティア。
「分かった」
巨大な瞳。
動く。
正面。
右。
左。
どうにか。
レシティアの視界へ。
入ろうとする。
レシティア。
器用に。
逸らす。
「しつこいわね」
《観測必要》
「嫌」
《観測必要》
「嫌よ」
《世界》
《未確定》
「それでいいでしょう?」
文字。
止まる。
《未確定》
《不安定》
「そうね」
《未来》
《不明》
「当たり前でしょう?」
《結果》
《不明》
「だから?」
長い。
沈黙。
そして。
《恐怖》
レシティア。
少し。
笑う。
「あなたが?」
《否定》
「じゃあ誰?」
《世界》
レシティア。
「世界が怖がってる?」
《否定》
《観測対象》
レシティア。
「私?」
《肯定》
レシティア。
少し。
考える。
「未来が分からないことを?」
《肯定》
「別に」
一拍。
「普通でしょう?」
巨大な瞳。
止まる。
黒髪の女。
扉の向こう。
ぽかん。
エリシアも。
レシティアを見る。
リベル。
「……レシティア様」
「何?」
「もう少し」
「重大な話をしている自覚を」
「あるわよ」
「本当に?」
「失礼ね」
巨大な瞳。
《未来》
《不明》
レシティア。
「うん」
《死亡時刻》
《不明》
「知らないわ」
《世界終端》
《不明》
「知らない」
《幸福》
《不明》
レシティア。
少し。
止まる。
「それも」
「分からないわね」
《不安》
レシティア。
「あるわよ」
《恐怖》
「ある」
《確定を推奨》
「嫌」
即答。
《理由》
レシティア。
少し。
考える。
「だって」
「決まってたら」
「つまらないじゃない」
巨大な瞳。
完全に。
止まった。
黒髪の女。
吹き出す。
「……ふっ」
エリシア。
「笑うところ?」
「いや」
黒髪。
口元。
押さえる。
「私」
「昔」
「同じこと言った」
レシティア。
「あなたと?」
嫌そう。
黒髪の女。
「その顔やめて」
「似てないって言ってたでしょう?」
「そこだけ!」
「嫌」
「ひどい」
巨大な瞳。
文字。
変わる。
《不確定性》
《許容不能》
レシティア。
「あなたが嫌なだけでしょう?」
《不確定性》
《危険》
「危険でしょうね」
《排除》
「それは困る」
《観測》
「嫌」
《確定》
「嫌」
《観測》
「嫌よ」
巨大な瞳。
少し。
震える。
まるで。
苛立っている。
その時。
足元。
影。
声。
「……変」
レシティア。
小さく。
「何が?」
影。
「あなた」
「怖いのに」
「嫌って言う」
「怖いからって」
「好きになる必要ないでしょう?」
影。
沈黙。
「……分からない」
「ゆっくり考えればいいわ」
影。
「時間」
「ある?」
レシティア。
一瞬。
答え。
止まる。
世界確定率。
観測者。
地下。
二つ目の扉。
掃除屋。
問題。
山ほど。
「……作るわ」
影。
「時間を?」
「そう」
「どうやって?」
レシティア。
「分からない」
影。
「変」
「三回目よ」
巨大な瞳。
その会話。
見ていた。
《未登録存在》
レシティアの影。
震える。
《観測開始》
影。
「嫌!」
レシティア。
即座。
自分の影。
踏む。
「見ないで」
影。
「……?」
「私の影なんだから」
レシティア。
巨大な瞳。
見ず。
剣。
横。
構える。
「勝手に見ないで」
《観測必要》
「本人が嫌がってるでしょう?」
《個体認定》
《未完了》
「本人よ」
《名称》
「まだない」
《分類》
「知らない」
《起源》
「知らない」
《定義》
レシティア。
「本人」
《定義不足》
「十分よ」
影。
足元。
小さく。
震える。
「本人」
「そう」
「私」
「そう」
「あなたじゃない?」
「違う」
「世界でもない?」
「違うわ」
「私」
「そうよ」
影。
初めて。
小さく。
笑った。
「私」
その瞬間。
神殿。
銀色の光。
走る。
エリシア。
驚く。
「……境界が」
影と。
レシティア。
間。
今まで。
曖昧だった線。
一本。
生まれる。
影。
別。
レシティア。
別。
影自身が。
違いを。
認めた。
巨大な瞳。
《個体発生確認》
《自他境界形成》
《自発的定義》
《観測――》
レシティア。
「見ないでって言ったでしょう?」
《……》
また。
止まった。
そして。
初めて。
巨大な瞳が。
レシティアから。
少し。
離れた。
エリシア。
呆然。
「……そんな」
リベル。
「何が?」
「境界喰いが」
「自分で」
「境界を作った」
「それは」
「あり得ないのですか?」
エリシア。
「あれにとって」
「自分と他人を分けることは」
「死ぬのと」
「同じ」
足元。
影。
「死んでない」
エリシア。
見る。
影。
「私」
「いる」
エリシア。
何も。
言えなくなる。
レシティア。
「ほら」
「いるでしょう?」
影。
「うん」
その瞬間。
《世界確定率》
《0.0002%》
数字。
点滅。
そして。
《0.0001%》
下がった。
黒髪の女。
「……え?」
ガルド。
地下。
同時に。
目。
開く。
「は?」
大きいおじさん。
『どうした』
「確定率」
『見えるのか』
「外のやつだからな」
『それで』
ガルド。
信じられない。
「下がった」
巨大な瞳。
激しく。
動く。
《異常》
《確定情報》
《変動》
《矛盾》
《再観測》
レシティア。
眉。
寄せる。
「だから」
「見ないで」
《確定情報》
《変動不能》
影。
レシティアの足元から。
少しだけ。
顔の形。
出す。
「変わった」
《否定》
影。
「変わった」
《否定》
「私」
影。
笑う。
「変わった」
《否定》
巨大な瞳。
震える。
《確定情報は変動しない》
レシティア。
少し。
考える。
そして。
「ああ」
「あなた」
「間違えたこと」
「ないのね」
巨大な瞳。
止まる。
《観測は正しい》
「でも」
「今」
「間違えたでしょう?」
《否定》
「この子を」
「境界を持たない存在だと思った」
《観測時点では正しい》
「今は違う」
《変動は》
文字。
止まる。
《……》
レシティア。
「ほら」
「未来なんて」
「決められないでしょう?」
長い。
沈黙。
世界。
静か。
地下。
白いものたちまで。
動かない。
黒髪の女。
口。
半開き。
ガルド。
地下で。
「……やべえ」
ゼフィール。
「何が」
ガルド。
笑う。
「姫」
「観測者と」
「口喧嘩してる」
剣士騎士。
「勝っていますか?」
ガルド。
「そこ気にする?」
「重要だ」
「……今んとこ」
一拍。
「押してる」
剣士騎士。
「なら急ぐ」
「何で!?」
「姫様が」
「調子に乗る前に戻る」
女性騎士。
「同意します」
魔法騎士。
「全面的に」
ゼフィール。
「お前ら姫の扱い雑じゃね?」
神殿。
巨大な瞳。
《再定義》
《未来》
《未確定》
《変動》
《可能》
レシティア。
「そう」
《観測》
《不完全》
「そうね」
《世界》
《……》
文字。
止まる。
《世界》
《未知》
レシティア。
少し。
笑う。
「でしょう?」
巨大な瞳。
完全に。
動かなくなる。
初めて。
それは。
世界を。
分からないものとして。
見た。
だが。
次の瞬間。
黒髪の女。
顔。
変わる。
「まずい」
レシティア。
「何?」
「納得させちゃった」
「いいことじゃないの?」
「違う」
ガルドも。
地下。
同じこと。
気づく。
「あ」
ゼフィール。
「何だよ」
「観測者って」
ガルド。
嫌そう。
「分からないものを」
「どうすると思う?」
剣士騎士。
「調べる」
「そう」
巨大な瞳。
文字。
一気に。
増える。
《未知対象》
《優先観測対象へ変更》
《長期観測》
《開始》
レシティア。
「……」
黒髪の女。
頭。
抱える。
「気に入られた!」
レシティア。
「嫌なんだけど」
《対象》
《レシティア・パープル》
《観測継続》
「嫌」
《観測継続》
「嫌よ」
《観測継続》
「話を聞いて」
巨大な瞳。
ゆっくり。
閉じる。
消える。
レシティア。
ほっと。
息。
吐く。
「帰った?」
黒髪の女。
「……違う」
「え?」
「直接見るのを」
「やめただけ」
リベル。
「では」
「今後は?」
黒髪の女。
答えない。
代わりに。
神殿の壁。
文字。
浮かぶ。
《観測方法変更》
《間接観測》
レシティア。
「間接?」
遠く。
王都。
朝。
パン屋。
店主。
窓。
開ける。
「今日はいい天気だな」
空。
見る。
何もない。
いつもの空。
ただ。
店の前。
新聞。
一枚。
落ちている。
拾う。
見たことのない新聞。
日付。
明日。
店主。
眉。
寄せる。
一面。
大きな。
記事。
そこには。
まだ。
起きていない出来事。
書かれている。
別の町。
少女。
夢。
見る。
紫色の姫。
知らない。
会ったこともない。
なのに。
名前。
知っている。
「レシティア」
目覚める。
母。
聞く。
「誰?」
少女。
「分かんない」
辺境。
老人。
昔から。
書いている日記。
朝。
開く。
最後のページ。
自分の字ではない。
一文。
増えている。
『紫の姫は、明日――』
そこで。
文章。
途切れている。
神殿。
黒髪の女。
青ざめる。
「まずい」
レシティア。
「今度は何?」
女。
ゆっくり。
世界。
見渡す。
「観測者」
一拍。
「自分で見るのを」
「やめた」
「じゃあ」
「誰が見るの?」
黒髪の女。
レシティアを見る。
「この世界の」
「人間」
沈黙。
《間接観測》
《観測点生成》
数字。
増える。
《1》
《17》
《284》
《3,901》
《52,840》
リベル。
「……これは」
黒髪の女。
「人の目」
「夢」
「記録」
「噂」
「物語」
「全部」
レシティア。
顔。
変わる。
「私を」
「世界中の人に」
「見させるつもり?」
「違う」
黒髪の女。
首。
横。
「もっと悪い」
「あなたを見せるんじゃない」
「あなたについて」
「何かを」
「信じさせる」
レシティア。
「信じさせる?」
「観測は」
「目だけじゃない」
女。
声。
低くなる。
「こういう存在だって」
「大勢が」
「同じものを信じたら」
一拍。
「それが」
「あなたになる」
その瞬間。
王都。
最初の新聞。
文字。
完成。
店主。
読む。
『第三王女レシティア・パープル』
そして。
その下。
まだ起きていない。
一文。
『彼女は明日、星見の神殿にて――』
神殿。
レシティアの身体。
一瞬。
透ける。
「……?」
エリシア。
叫ぶ。
「読ませないで!」
黒髪の女。
同時。
「記録を止めて!」
しかし。
すでに。
世界中。
夢。
日記。
新聞。
壁。
水面。
占い。
子どもの落書き。
誰かの。
寝言。
あらゆる場所に。
同じ文章が。
現れ始めていた。
《観測点》
《103,881》
《確定準備》
《対象未来》
《生成》
レシティア。
自分の手を見る。
輪郭。
一瞬。
別の形。
変わる。
未来の。
自分。
血。
服。
破れ。
胸。
剣。
刺さっている。
一秒。
元へ。
戻る。
セラフィナ。
顔。
真っ青。
「姫様……」
レシティア。
静かに。
自分の胸。
見る。
そして。
まだ。
何も刺さっていない場所。
手で。
触れる。
壁。
最後の文字。
浮かぶ。
《暫定未来》
《レシティア・パープル》
《死亡》
《明日》
レシティア。
それを見る。
今度は。
瞳ではない。
文字。
だから。
見てしまった。
長い。
沈黙。
そして。
レシティアは。
眉を寄せた。
「……嫌ね」
一拍。
「明日」
「予定あるんだけど」
その瞬間。
地下から。
剣士騎士の。
怒鳴り声。
「姫様ぁぁぁぁぁ!!」
レシティア。
少し。
安心した顔。
「帰ってきた」
しかし。
壁。
その下。
新しい文字。
一行。
追加。
《死因》
《騎士団》
レシティアの。
笑みが。
消えた。




