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姫様は真実に近づく

王宮の一室。


窓はなく、音も外へ漏れない構造。


その中央に、縛られた男が一人。


黒装束の襲撃者。


すでに抵抗する力はなく、ただ荒い呼吸を繰り返している。


レシティアは、ゆっくりとその前に立った。


騎士たちは、背後に控える。


誰も口を挟まない。


すべてを、姫に委ねている。


(……さて)


椅子に座ることもなく、ただ見下ろす。


それだけで、場の空気が変わる。


「あなた」


静かに声をかける。


「誰に頼まれたのかしら」


男は、答えない。


当然だ。


訓練されている。


拷問にも耐える類の人間。


だが――


「別に、無理に聞くつもりはないわ」


姫は、あっさりと言った。


男の目が、わずかに揺れる。


「言わなくてもいい」


一歩、近づく。


「ただ――」


視線を合わせる。


「あなたは、“どこまで理解しているのかしら”」


沈黙。


男の喉が、わずかに動く。


「自分が、何に手を出したのか」


その一言で。


空気が、重く沈む。


圧。


だが、力で押さえつけるものではない。


理解させるような、静かな重さ。


「……はっ」


男が、かすかに笑う。


「姫、様……か」


掠れた声。


「ただの……人間、だろう……」


その言葉に、姫は一瞬だけ目を細める。


(……そうね)


それは、正しい。


だが。


「ええ。そうよ」


あっさりと肯定する。


「ただの人間」


それでも。


「――だからこそ、怖いのではないかしら」


男の表情が、固まる。


「理解できない存在より、理解できる存在の方が恐ろしいものよ」


一歩。


さらに近づく。


「あなたは今、“ただの人間”に捕まっている」


「計画は失敗し、仲間も動けない」


「そして――」


わずかに、微笑む。


「ここは、王宮の中」


逃げ場はない。


すべてが、確定している。


男の呼吸が、乱れる。


「……誰が」


ぽつりと、漏れた。


「どこまで、知っている……」


(出たわね)


姫は、内心で小さく頷く。


「それを知りたいのは、こちらよ」


静かに返す。


「あなたたちは、どこまで関わっているのか」


沈黙。


だが、もう遅い。


一度崩れた防御は、戻らない。


男は、歯を食いしばり――


「……上、だ」


吐き出す。


「上層……貴族……」


そこまで言って、口を閉ざす。


だが、十分だった。


姫は、ゆっくりと息を吐く。


(……やっぱり、内側ね)


予想通り。


外敵ではない。


王宮の中。


それも、かなり上。


「ありがとう」


穏やかに言う。


男は、驚いたように目を見開く。


「これで、十分よ」


その言葉に。


背後の騎士たちが、わずかに動いた。


すでに次の行動に入る。


情報の整理、裏取り、対象の特定。


すべてが、一瞬で動き出す。


姫は、それを見届けながら――


(……これで)


(動く理由は、できたわね)


数日後。


王宮の空気は、どこか慌ただしかった。


命令が飛び交う。


人が動く。


だが、その流れには――違和感があった。


「遠征命令?」


騎士の一人が、静かに問い返す。


伝令の兵は、形式的に頷く。


「北方で魔物の大規模発生が確認されました。即時対応が必要です」


「……急だな」


「はい。しかし、放置はできません」


正しい。


誰が聞いても、正しい理由。


だが。


(……早すぎる)


騎士は、わずかに目を細める。


同じ頃。


別の騎士にも命令が届く。


「西方の交易路にて不穏な動きが。調査を」


さらに別の騎士には。


「王都内部の警備強化。配置転換」


一つ一つは、正当な命令。


だが――


(分けられている)


気づく者は、気づく。


だが、拒否はできない。


王命。


あるいは、それに準ずる命令。


従うしかない。


その結果。


姫の周囲から、騎士たちが少しずつ減っていく。


そして。


「姫様」


最後に残った騎士が、静かに頭を下げる。


「南方の件、確認してまいります」


「……ええ」


姫は、ゆっくりと頷く。


止めない。


止められない。


(……なるほど)


すべて、理解していた。


これは偶然ではない。


意図的な配置。


「気をつけて」


それだけを、告げる。


騎士は一礼し、迷いなく去っていく。


足音は、すぐに消えた。


静寂。


広い廊下に、姫は一人立っている。


(……本当に)


小さく、息を吐く。


(見事にやってくれるわね)


完璧な分断。


誰も、不自然だとは言えない形で。


だが。


「――いいわ」


ぽつりと、呟く。


その声は、静かで。


それでいて、どこか楽しげだった。


「なら」


ゆっくりと、歩き出す。


「こちらも、好きに動かせてもらいましょう」


もう、守られるだけではない。


騎士がいないのなら――


自分が動く。


その瞳に、わずかな光が宿る。


(……久しぶりね)


誰にも見られない戦い。


誰にも知られない行動。


姫は、静かに笑った。


王宮の影へと、足を踏み入れる。


その頃。


地下の一室では、男たちが報告を受けていた。


「騎士団、分断完了」


短い言葉。


それだけで、十分だった。


「……これで、ただの姫だ」


誰かが、そう言う。


だが。


その言葉は――


ほんの少しだけ、早すぎた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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