姫様を消したい者たち
王宮の地下――
光の届かない一室。
重い扉が閉ざされ、外界の気配は完全に遮断されている。
その中に、数人の男たちが集まっていた。
貴族。
軍の上層。
そして、名を出してはならない者たち。
「……報告は以上です」
低い声が響く。
「第三姫レシティア・パープル。現在、王宮内外において絶大な影響力を持ち始めています」
静寂。
誰も、軽く受け流す者はいない。
「魔物討伐、領地安定、外交成果。すべてにおいて、異常な速度で結果を出している」
「……異常、か」
一人が呟く。
その言葉には、苛立ちが混じっていた。
「“戦っていない”はずの姫が、なぜここまでの結果を出せる」
答えは、誰も持っていない。
だが。
「だからこそ、危険だ」
別の男が言い切る。
「正体の見えない力ほど、恐ろしいものはない」
その通りだった。
騎士たちがやっている、などという発想は出てこない。
なぜなら――
それでは説明がつかないからだ。
「あれは“個”ではない」
静かな声が落ちる。
「“現象”だ」
空気が、冷たくなる。
「姫がいるだけで、事象が収束する」
「問題が、解決する」
「人が、従う」
「……もはや、王族の枠を超えている」
沈黙。
その沈黙が、すべてを肯定していた。
「放置すれば、どうなる」
一人が問う。
誰もが、同じ未来を思い浮かべる。
やがて――
「……王が、いらなくなる」
その言葉が、落ちた。
重く、確定的な未来として。
「民はすでに、姫を“救い”として見ている」
「貴族も、領主も、次々と取り込まれている」
「このままでは――」
そこまで言って、男は口を閉ざす。
言うまでもない。
結論はひとつだ。
「……排除する」
誰かが、静かに言った。
反対する者はいない。
「事故でもいい。失脚でもいい。暗殺でもいい」
「形は問わん」
「ただし――」
一人が、指を組む。
「“直接”は避けるべきだ」
視線が集まる。
「失敗すれば、それだけで“伝説”になる」
確かに。
もし暗殺が失敗すれば。
“姫は死すら退けた存在”になる。
それは最悪だ。
「ならば――分断だ」
別の男が口を開く。
「騎士団」
空気が、わずかに揺れる。
「姫の“手足”であるあれらを切り離す」
「力を奪えば、ただの姫に戻る」
その言葉に、何人かが頷いた。
「遠征命令、配置転換、別任務の付与」
「表向きは正当な理由で、少しずつ削る」
「同時に、姫の評価を揺るがす噂を流す」
「“すべては騎士の力だった”と」
静かに、計画が組み上がっていく。
「そして孤立させる」
「最後に、処理する」
簡潔で、無駄がない。
そして――冷酷だった。
「……よかろう」
最も奥に座っていた男が、口を開く。
これまで一言も発していなかった存在。
「始めろ」
その一言で、すべてが決まった。
その頃。
王宮の廊下。
レシティアは、いつものように静かに歩いていた。
夜。
灯りは少なく、人の気配もまばら。
(……静かね)
ふと、足を止める。
違和感。
ほんのわずかな、空気の歪み。
(……いる)
気配は薄い。
だが、確かにある。
壁の影。
柱の裏。
視線の死角。
複数。
そして。
「――遅いわね」
ぽつりと、呟く。
次の瞬間。
影が動いた。
黒い布に包まれた影が、音もなく距離を詰める。
刃が、閃く。
だが――
その刃が届くよりも早く。
影が、止まった。
いや。
止められた。
どこからともなく現れた騎士が、すでに腕を抑えている。
もう一人は背後に回り、もう一人は逃げ道を断つ。
完璧な制圧。
一瞬だった。
「……やっぱり」
姫は、軽く息を吐く。
(気づいていたのね)
当然かもしれない。
むしろ、気づかない方がおかしい。
「どうしますか」
騎士の一人が、静かに問う。
その足元には、すでに動けなくなった襲撃者たち。
姫は、少しだけ考え――
「生かしておいて」
と答えた。
「話を聞きましょう」
その声は、いつも通り穏やかだった。
だが。
その瞳には、わずかな光が宿っている。
(……始まったわね)
ただの偶然ではない。
これは、意図されたもの。
王宮の中で起きた襲撃。
それが意味するものは――
明らかだ。
騎士たちは、無言で頷く。
すでに次の動きに入っている。
拘束、移送、尋問、情報抽出。
すべてが、流れるように。
姫は、その様子を見つめながら。
ほんの少しだけ、笑った。
(……さて)
(誰が、何を考えているのか)
(ちゃんと、見せてもらいましょうか)
その背後で。
静かに、闇が動き始める。
王宮の裏側で。
そして、表でも。
姫様を巡る物語は――
少しずつ、“戦い”へと姿を変えていく。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。
それでは、次の物語でまたお会いしましょう。
姫様、御覚悟を──




