表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
59/61

フィオナの秘密

翌朝。


レシティアは怒られていた。


「姫様」


「はい」


「なぜ外出の準備を?」


「散歩よ」


「どちらへ?」


「城下町」


「却下です」


「まだ何もしてないでしょう?」


「するところでした」


レシティアは旅用の靴を履いたまま、女性騎士を見上げた。


その後ろには剣士騎士。


さらに魔法騎士。


廊下の奥には諜報騎士までいる。


完全包囲だった。


「……みんな暇なの?」


「姫様を休ませるという重要任務中です」


「私、元気よ?」


「魔力総量が十分の一減少しています」


「九割あるわ」


「そういう問題ではありません」


レシティアは黙った。


どうやら今日は勝てそうにない。


「じゃあ、お菓子だけ」


「買ってまいります」


「自分で選びたいの」


「一覧を作らせます」


「そこまで?」


本気だった。


その時。


廊下の向こうから声がした。


「お姉様」


全員が振り返る。


フィオナだった。


侍女に支えられているものの、自分の足で歩いている。


「フィオナ!」


レシティアが駆け寄ろうとする。


しかし。


肩を掴まれた。


「姫様」


「……歩くわ」


ゆっくり歩いた。


女性騎士が満足そうに頷いた。


「よろしいです」


「誰が姫なのか分からなくなってきたわ」


フィオナの部屋。


二人の王女は向かい合って座った。


騎士団。


リベル。


老騎士。


ルミエルとセラフィナもいる。


フィオナが自ら全員を呼んだのだ。


テーブルの上には、一枚の地図が広げられていた。


アステリア周辺ではない。


もっと広い。


大陸全土。


その地図には。


十三個の赤い印があった。


レシティアが尋ねる。


「これは?」


フィオナは答えた。


「古代生物が出現した場所です」


空気が変わった。


巨大な恐竜型生物。


古代研究機関。


これまで戦ってきた異形たち。


すべて。


「過去二年間」


フィオナは地図を指差す。


「確認できただけで十三件」


「ただし」


「これは自然発生ではありません」


魔法騎士が地図を見る。


「人工的に?」


「はい」


フィオナは頷いた。


「誰かが眠っていた古代生物を起こしています」


「古代研究機関ね」


レシティアが言う。


「私もそう思っていました」


フィオナは首を横へ振った。


「ですが」


「違ったのです」


全員がフィオナを見る。


「古代研究機関も」


「探している側でした」


沈黙。


レシティアが眉を寄せる。


「待って」


「じゃあ、あの人たちは古代生物を復活させているんじゃないの?」


「復活させている個体もあります」


「研究も」


「実験も」


「兵器転用もしている」


フィオナの声が少し強くなる。


「彼らが危険な組織であることは間違いありません」


「でも」


「最初に古代生物を目覚めさせた者たちではない」


リベルが反応した。


「……では」


「誰が?」


フィオナは少し躊躇した。


そして。


地図中央。


誰も赤印を付けていない場所を指差す。


そこには。


山も。


国も。


街もない。


ただ。


何も描かれていない土地。


「ここです」


レシティアが地図を見る。


「何もないけど」


「はい」


フィオナは答えた。


「何もないことになっています」


その言葉。


全員が意味を理解するまで数秒かかった。


「三か月前」


フィオナは話し始める。


「私はアステリア古代遺跡調査隊と共に地下遺跡へ入りました」


目的は。


神代文明の調査。


そこで。


壁画を発見した。


「巨大な生物」


「空を飛ぶもの」


「海を泳ぐもの」


「大地を歩くもの」


「そして」


フィオナの指が震える。


「それらすべてが」


「一つの場所から逃げていました」


セラフィナが小さく聞く。


「逃げて?」


「はい」


「古代生物たちは」


「何かに追われていたのです」


リベルの顔色が変わった。


「壁画の年代は?」


「測定不能でした」


「神代より?」


「古いです」


リベルが黙った。


神代以前。


また。


その言葉。


フィオナは一枚の紙を取り出した。


壁画を模写したものだった。


巨大な恐竜。


翼竜。


海竜。


無数の古代生物。


すべて。


同じ方向へ走っている。


その後ろ。


黒く塗り潰された何か。


形がない。


人でもない。


獣でもない。


ただ。


巨大な黒い影。


レシティアが見つめる。


「……これ」


何か。


引っかかった。


どこかで見た?


いや。


違う。


知っている?


そんなはずがない。


「姫様?」


剣士騎士が気づく。


「大丈夫?」


「ええ」


レシティアは額へ触れた。


一瞬。


頭の奥が痛んだ。


だが。


すぐに消える。


「続けて」


「壁画の最後に」


フィオナがもう一枚。


そこには。


一人の人物。


黒い影の前に立っている。


小さい。


あまりにも小さい。


しかし。


古代生物たちは。


その人物の後ろへ集まっている。


まるで。


守られているように。


「この人物が何者なのかは分かりません」


「名前も」


「種族も」


「ただ」


フィオナは壁画の端を指差す。


文字。


古い。


神代文字ですらない。


リベルも読めない。


管理者でも解析できなかった文字。


だが。


レシティアは。


自然に読んだ。


「――帰れ」


全員が彼女を見る。


レシティア自身が。


一番驚いていた。


「……え?」


リベルが立ち上がる。


「読めるのですか?」


「いや」


レシティアは文字を見る。


「今……」


「読めたような」


もう一度見る。


分からない。


ただの記号。


「……読めない」


リベルの表情が険しくなる。


フィオナが続ける。


「私たちは遺跡の最奥で」


「ある物を発見しました」


小さな箱を取り出す。


老騎士が慌てる。


「フィオナ様!」


「大丈夫です」


箱を開ける。


中には。


石。


黒い。


何の変哲もない小さな石。


しかし。


レシティアが見た瞬間。


ドクン。


心臓が大きく鳴った。


同時に。


図書館。


遠く離れた神代図書館で。


全ての本が。


一斉に閉じた。


バタン!!


管理者の本に文字が浮かぶ。


『警告。』


『警告。』


『警告。』


星見の神殿。


フェンリオが突然立ち上がる。


『……まさか。』


星泉が激しく波打つ。


そして。


大陸地下。


何万もの鎖に縛られた巨大な存在。


その両目が開いた。


『……それを。』


『見つけたか。』


部屋。


黒い石は。


何もしていない。


魔力もない。


呪力もない。


ただの石。


しかし。


レシティアだけが。


目を離せなかった。


「フィオナ」


「はい」


「これをどこで?」


「壁画の人物の足元です」


「その瞬間」


フィオナの表情が曇る。


「古代研究機関が現れました」


全員の表情が変わった。


「彼らもこの石を探していました」


「調査隊は襲撃され」


「私は石を持って逃げました」


「その時」


胸元へ触れる。


「呪いを受けました」


ようやく。


繋がった。


フィオナの呪い。


古代研究機関。


アステリアへの侵攻。


すべて。


この石。


「でも」


レシティアが聞く。


「どうして私を探したの?」


フィオナは。


しばらく黙っていた。


そして。


「石に触れたからです」


「え?」


「逃げている途中」


「私は一度だけ、この石に触れました」


「その瞬間」


フィオナの瞳が震える。


「声を聞きました」


部屋が静まり返る。


「何て?」


レシティアが尋ねる。


フィオナは答えた。


「――紫の娘を探せ」


誰も動かなかった。


「それだけ?」


「いいえ」


フィオナは首を横へ振る。


「もう一つ」


そして。


レシティアを見る。


「――あの子だけは、ここへ来させるな」


矛盾している。


探せ。


しかし。


来させるな。


レシティアが首を傾げる。


「どこへ?」


フィオナの指が。


地図中央。


何も描かれていない場所へ向く。


「ここです」


大陸中央。


存在しない土地。


リベルが立ち上がる。


「この場所」


震える指で地図を見る。


「昔は何が?」


「分かりません」


「地図にも記録にもありません」


リベルは首を横へ振った。


「違います」


「記録がないのではありません」


「消されています」


レシティアが見る。


「どうして分かるの?」


「神代図書館にも」


リベルの顔が青ざめる。


「この部分だけ」


「書架番号が飛んでいるのです」


本がない。


ではない。


本が存在していた痕跡だけがある。


誰かが。


歴史から抜き取った。


その時。


黒い石が。


カチ。


小さく鳴った。


全員が見る。


石に。


一本の亀裂。


カチ。


二本目。


レシティアが立ち上がる。


「離れて!」


騎士団が即座に動く。


女性騎士がフィオナを守る。


剣士騎士がレシティアの前。


魔法騎士が結界。


諜報騎士が出口を確保。


完璧な連携。


黒い石が。


割れた。


パキン。


中から。


何かが落ちる。


小さな。


金属片。


違う。


鱗。


黒い鱗。


そして。


その表面に。


文字が浮かんだ。


今度は。


全員が読めた。


《封印残存率》


数字。


《99.9997%》


沈黙。


数字が変わる。


《99.9996%》


減っている。


魔法騎士が呟く。


「封印……?」


リベルが青ざめる。


「これが」


「何かの封印を監視している?」


《99.9995%》


少しずつ。


確実に。


下がっている。


その時。


レシティアが言った。


「これ」


全員が見る。


「封印が弱くなってるんじゃない」


「姫様?」


レシティアは鱗を見つめる。


理由は分からない。


でも。


なぜか。


分かった。


「内側から」


「何かが食べてる」


静寂。


そして。


遥か地下。


巨大な存在を縛る鎖。


一本。


その表面に。


小さな歯形があった。


ガリ。


暗闇から。


音。


ガリ。


ガリ。


巨大な存在が。


ゆっくり視線を動かす。


自分ではない。


鎖を壊している。


何かがいる。


『……やめろ』


初めて。


巨大な存在が命令した。


音は止まらない。


ガリ。


ガリ。


そして。


暗闇の奥から。


子どものような声がした。


「だって」


「もうすぐ来るんでしょう?」


巨大な存在の瞳が細くなる。


「紫の子」


鎖の一本が。


千二百年以上ぶりに。


切れた。


――バキン。


その振動は。


大陸の誰にも感じられなかった。


ただ一人。


レシティアだけが。


突然。


何もない床を見た。


「……今」


「何か切れた?」


誰も。


その意味を理解できなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ