選ばれなかった姫
白銀の光が空へと伸びる。
巨大な聖剣は、まるで誰かを探すように淡く輝いていた。
その光は一直線にレシティアを包み込む。
兵士たちが息を呑む。
「聖剣が……。」
「姫様を選んだ……!」
老騎士は震える手を組み、深く頭を垂れた。
「伝承は本当だった……。」
騎士団も思わずレシティアを見る。
女性騎士が小さく笑う。
「やはり姫様でしたか。」
剣士騎士もどこか誇らしげだった。
当然だと思っている。
姫様なら。
そう思っていた。
しかし――
レシティアだけは困った顔をしていた。
「……違うわ。」
全員が顔を上げる。
「姫様?」
レシティアは光へそっと手を伸ばす。
その瞬間。
ブゥン――
聖剣の光が突然弱まった。
そして。
ゆっくりと消えていく。
静寂。
誰も動けない。
レシティアは手を引っ込め、小さく苦笑した。
「ほら。」
「私じゃない。」
老騎士が目を見開く。
「そんな……!」
アークだけは静かに笑っていた。
「ええ。」
「そうです。」
「あなたではありません。」
その言葉に騎士団の空気が変わる。
諜報騎士が低く問う。
「どういう意味です。」
アークは聖剣を見上げる。
「この聖剣は『王』を選ぶ剣ではありません。」
「契約を継ぐ者を選ぶ剣です。」
「ですが。」
レシティアへ視線を向ける。
「あなたは、継ぐ者ではない。」
「だから選ばれない。」
レシティアは首を傾げる。
「じゃあ光ったのは?」
「歓迎です。」
「歓迎?」
「ええ。」
アークは静かに頷いた。
「この剣は、あなたを知っている。」
「だから反応した。」
「しかし。」
「主にはできない。」
その説明に、誰も納得できなかった。
知っているのに選ばない。
そんなことがあるのか。
ズズズズ……
再び地面が揺れる。
今度は聖剣ではない。
地下。
もっと深い場所から。
重い音が響いてくる。
老騎士の顔色が変わった。
「封印庫……!」
「第二封印が!」
アークは静かに杖を構える。
「ようやく目覚めます。」
「神代最後の守護者が。」
その言葉と同時に。
聖剣の根元に巨大な亀裂が走った。
白い石畳が崩れる。
地中から、ゆっくりと巨大な腕が姿を現した。
石でできた腕。
いや。
鎧だった。
人の形をしている。
しかし大きさは城壁ほど。
兵士たちが悲鳴を上げる。
「巨人だ!」
「違う!」
ルミエルが叫ぶ。
「あれはゴーレムではありません!」
「神代の守護兵です!」
巨人の両目に青い光が灯る。
ゴォォォ……
低い唸り声。
城全体が震えた。
女性騎士が盾を構える。
「姫様。」
「少し下がってください。」
「ええ。」
レシティアは素直に一歩下がる。
だが、その視線だけは守護兵から離れない。
「変ね。」
小さく呟く。
剣士騎士が聞き返す。
「何がでしょう。」
レシティアは目を細めた。
「怒ってない。」
「……え?」
「助けを呼んでる。」
その瞬間だった。
守護兵の巨大な頭部がゆっくりとレシティアの方へ向く。
騎士団が一斉に前へ出る。
だが。
守護兵は攻撃しなかった。
代わりに。
巨大な身体をゆっくりと片膝つき。
大地を震わせながら、深く頭を垂れた。
誰もが息を止める。
アークですら、その光景に目を見開いた。
「……馬鹿な。」
「命令系統は失われているはずだ。」
守護兵は静かに口を開く。
千年以上誰にも使われることのなかった声が、大地を揺らした。
『契約者……』
レシティアは一歩前へ出る。
『違うわ。』
優しく微笑む。
「私は契約者じゃない。」
守護兵は数秒沈黙した。
そして。
『……失礼、いたしました。』
『よく……似て、おられたので。』
その一言だけを残し。
守護兵の身体から光が消え始める。
巨大な身体はゆっくりと石へ戻り、再び眠りについた。
戦場に残されたのは、誰にも説明のつかない静寂だけだった。
そしてアークは、初めてレシティアを見る目を変えた。
研究対象ではなく――
「予想を超える存在」として。
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姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。
それでは、次の物語でまたお会いしましょう。
姫様、御覚悟を──




