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契約の姫と呼ぶ者

「――契約の姫。」


白銀の仮面の男がそう口にした瞬間。


戦場の空気が変わった。


レシティアは静かに城壁の上から男を見下ろしている。


騎士団は一斉に姫の前へ出た。


剣士騎士はガルドとの斬り合いを一瞬で終わらせ、そのまま城壁まで駆け戻る。


女性騎士が盾を構える。


諜報騎士は男の背後へ回ろうとする。


しかし。


「そこまでです。」


仮面の男が杖で地面を軽く叩いた。


カン……


乾いた音。


その瞬間だった。


諜報騎士が空中で止まる。


「……っ!」


身体が動かない。


足元に、いつの間にか巨大な魔法陣が展開されていた。


「転移封殺。」


男が静かに告げる。


「速さだけでは届きません。」


女性騎士が眉をひそめる。


「厄介ですね。」


ルミエルも驚いていた。


「あの術式……。」


「神代魔法です。」


ゼフィールが苦々しく笑う。


「古代研究機関め。」


「そこまで復元したか。」


ガルドは剣を肩へ担ぎながら笑った。


「先生。」


「ようやく出番ですか。」


先生。


その呼び方で敵兵たちの空気が引き締まる。


この男が指揮官。


いや。


黒幕。


レシティアは穏やかに尋ねた。


「あなたは誰?」


仮面の男は一礼する。


「失礼しました。」


「私はアーク。」


「古代研究機関・第一研究院院長。」


「現在は"契約王計画"の責任者を務めております。」


騎士団の視線が鋭くなる。


契約王計画。


初めて聞く名だった。


レシティアだけが、その言葉にわずかに反応する。


「……契約王。」


夢の中で聞いたことがある。


何度も。


アークはレシティアを見つめる。


その視線は研究者のものだった。


獲物を見る目ではない。


未知を見る目。


「あなたは不思議ですね。」


「竜王と言葉を交わせる。」


「結界に拒まれない。」


「古代種から敬意を払われる。」


「そして。」


少し笑う。


「神代文字を、無意識に読める。」


騎士団全員がレシティアを見る。


「……読めるのですか?」


女性騎士が聞く。


レシティアは首を傾げる。


「読めるというより……。」


「なんとなく意味が分かるの。」


「昔から。」


全員が黙った。


また"なんとなく"だった。


アークは嬉しそうに頷く。


「やはり。」


「間違いありません。」


「あなたは。」


そこで言葉を止めた。


レシティアは真っ直ぐ男を見る。


「私は?」


アークは静かに首を横へ振った。


「まだ早い。」


「今ここで答えを知れば、あなたは迷う。」


「それでは困る。」


「……?」


意味が分からない。


レシティアはますます首を傾げた。


その時だった。


城の奥から兵士が駆け込んでくる。


「隊長!」


「大変です!」


老騎士が振り向く。


「どうした!」


兵士は青ざめていた。


「地下神殿です!」


「封印庫が……!」


最後まで言えなかった。


ズズズズズ……


城全体が揺れ始めた。


地震。


違う。


もっと深い場所から響いてくる振動だった。


アークは静かに笑う。


「始まりました。」


レシティアの表情が変わる。


「何をしたの?」


「私は何も。」


「ですが。」


杖を城へ向ける。


「あなた方の城が、長い眠りから目覚めようとしているだけです。」


次の瞬間。


城の中央広場。


巨大な石畳が音を立てて崩れ落ちる。


その地下から姿を現したのは。


一本の白い塔。


いや。


塔ではない。


白銀に輝く、一本の巨大な剣だった。


地面へ深々と突き刺さりながら、なお城よりも高くそびえ立っている。


兵士たちは呆然と見上げる。


老騎士は膝をついた。


「まさか……。」


「封印の聖剣……。」


ルミエルの顔色が変わる。


ゼフィールも笑みを消す。


セラフィナは息を呑む。


そして。


巨大な聖剣は、ゆっくりと光を放ち始めた。


その光は一直線に伸び――


レシティアだけを照らしていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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