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幻の王国への道

王都へ戻る予定は、その場で変更された。


姫直属騎士団は街道沿いに陣を敷き、急ぎ野営の準備を始める。


「本日中の王都帰還は中止。」


剣士騎士が静かに指示を出す。


「明朝より進路を北東へ変更。」


「目的地、アステリア公国。」


「了解。」


誰一人、異論はなかった。


姫が助けると決めた。


それだけで十分だった。


夜。


焚き火を囲み、全員が地図を広げている。


しかし、不思議なことが起きた。


何度見ても。


アステリア公国へ続く道が存在しない。


「……ありません。」


諜報騎士が静かに言う。


「古い地図。」


「軍用地図。」


「王国保管資料。」


「どれにも載っていません。」


ゼフィールが肩をすくめた。


「当たり前だ。」


「見えないから。」


「見えない?」


セラフィナが首を傾げる。


ルミエルが説明する。


「アステリアは結界国家です。」


「神代から続く隠蔽魔法。」


「入口を知る者しか辿り着けません。」


女性騎士が感心する。


「なるほど。」


「それほどの技術なら隠れ続けられるわけですね。」


しかし。


レシティアだけは地図を眺めていた。


黙って。


ずっと。


「姫様?」


剣士騎士が声を掛ける。


レシティアは地図の一点を指差した。


「ここ。」


全員が見る。


そこはただの山脈だった。


「ここに入口があるわ。」


沈黙。


ルミエルが驚く。


「……なぜわかるのです?」


「なんとなく。」


騎士団は思った。


(また始まった。)


姫様の”なんとなく”は大体当たる。


翌朝。


一行は山脈へ向かう。


道なき道。


人の踏み跡もない。


普通なら迷う。


だが。


レシティアだけは迷わない。


まるで知っている場所を歩くように。


「右ね。」


数分後。


崖へ行き止まり。


誰が見ても壁だった。


「姫様。」


剣士騎士が困った顔をする。


「行き止まりです。」


「ううん。」


レシティアは崖へ近付く。


手を伸ばす。


岩肌へ触れた。


その瞬間。


ブゥン――


空気が震えた。


岩壁が波打つ。


幻だった。


巨大な結界がゆっくり消えていく。


全員が息を呑む。


その向こうには。


一本の石畳。


そして。


雲を突き抜けるほど巨大な白い城壁が姿を現した。


セラフィナが目を見開く。


「きれい……。」


ルミエルは完全に言葉を失っていた。


「結界を……。」


「解除した?」


ゼフィールも苦笑する。


「いや。」


「解除じゃない。」


「結界の方が姫を通した。」


静寂。


誰も否定できない。


その時だった。


城壁の上。


見張り塔から鐘が鳴る。


ゴォォォン――


重い音が山へ響く。


「侵入者だ!」


「武器を構えろ!」


「結界を通過したぞ!」


次々と兵士が城壁へ集まる。


その数、およそ百。


弓兵。


魔導兵。


重装騎士。


全員が一斉に武器を向ける。


女性騎士が剣へ手を掛けた。


諜報騎士はいつでも動ける姿勢。


セラフィナも羽を広げる。


だが。


レシティアは一歩前へ出た。


「待って。」


騎士団が止まる。


レシティアは武器を持たず。


両手を軽く広げる。


敵意がないことを示すために。


城壁の上から老人が叫ぶ。


「名を名乗れ!」


レシティアは空へ届くような声で答えた。


「私はレシティア。」


「王国第三王女です。」


「助けを求められたので来ました。」


その瞬間。


城壁の上がざわつく。


兵士たちの表情が変わる。


「レシティア……?」


「あの名前は……。」


「まさか……。」


一人の老騎士が、震える手で城壁から身を乗り出した。


そして。


レシティアを見た瞬間。


持っていた槍を落とした。


カラン……


乾いた音が響く。


老騎士は目を潤ませながら、小さく呟く。


「……姫君。」


「本当に……戻ってこられたのですか。」


騎士団全員が固まる。


レシティアも目を瞬かせた。


「……え?」


誰も知らない。


この老人は、誰なのか。


そして。


なぜレシティアを見て、


「戻ってきた」


と言ったのか――。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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