帰路に潜む影
「……戻りましょうか。」
レシティアの一言で、森にいた全員が動き出した。
騎士団は周囲を警戒しながら隊列を組む。
その中心にはレシティア。
そして、その隣にはセラフィナがいた。
初めて見る王国の騎士団。
初めて見る王女。
少女はどこか落ち着かない様子で歩いていた。
「緊張してる?」
レシティアが優しく尋ねる。
「……少しだけ。」
「みんな怖そうだから。」
その言葉に、一番近くを歩いていた女性騎士が苦笑する。
「申し訳ありません。」
「職業柄、この顔になってしまうんです。」
剣士騎士も静かに口を開く。
「警戒しているだけです。」
「セラフィナ殿を疑っているわけではありません。」
諜報騎士も珍しく頷く。
「姫様のお客様です。」
「私たちが守ります。」
セラフィナは目を丸くした。
「……守る?」
「私を?」
レシティアは笑う。
「ええ。」
「もう仲間でしょう?」
その一言で、セラフィナは少しだけ笑顔になった。
「……はい。」
その様子を少し後ろから見ていたルミエルは、小さく微笑む。
「やはり……。」
ゼフィールが隣で肩をすくめた。
「人を惹きつける。」
「噂どおりだ。」
「だから面倒なんだよ、この姫。」
「放っておけない。」
ルミエルは否定しなかった。
むしろ、その言葉が一番しっくりきた。
昼過ぎ。
一行は街道へ出た。
王都まであと半日。
ようやく安心できる。
そう思った、その時だった。
諜報騎士が足を止める。
「……おかしい。」
全員が止まる。
森は静かだった。
鳥の声も聞こえる。
風も吹いている。
何も異常はない。
だが。
諜報騎士だけは周囲を見渡していた。
「静かすぎます。」
剣士騎士も目を閉じる。
「……確かに。」
女性騎士が剣へ手を添えた。
「鳥が逃げています。」
レシティアも空を見上げる。
そして。
小さく呟いた。
「来るわ。」
次の瞬間。
街道の両側から土煙が舞い上がった。
「囲めぇぇぇ!」
怒号。
百人を超える武装集団。
鎧も旗も統一されていない。
傭兵。
盗賊。
逃亡兵。
様々な集団が混ざっていた。
その先頭に立つ大男が叫ぶ。
「女だけは殺すな!」
「紫髪の姫は生け捕りだ!」
騎士団の空気が一変した。
剣士騎士が静かに剣を抜く。
「……姫様。」
「はい。」
「少しだけ離れていてください。」
レシティアは困ったように笑う。
「また?」
「またです。」
即答だった。
「今日は私たちの仕事です。」
「姫様は見ていてください。」
女性騎士も頷く。
「たまには頼ってください。」
レシティアは少し考えてから、小さく頷いた。
「……わかったわ。」
その返事を聞いた騎士団全員の表情が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
「では。」
剣士騎士が前へ出る。
「十息で終わらせます。」
敵側が笑った。
「たった五人で何ができ――」
言い終わる前だった。
騎士団が消えた。
「なっ!?」
最初の十人が一瞬で武器を落とす。
悲鳴すら上がらない。
剣士騎士が剣の腹で大男を吹き飛ばし、女性騎士が盾ごと敵を押し倒す。
諜報騎士は姿すら見えない。
気づけば弓兵全員が縄で縛られていた。
セラフィナは呆然と立ち尽くす。
「速い……。」
ルミエルが苦笑する。
「これでも姫様の前だから手加減しています。」
「えっ?」
「本気だと周囲の地形が変わります。」
セラフィナは騎士たちを見る。
(これで……手加減?)
その時だった。
レシティアだけが、街道のさらに先を見つめていた。
「……おかしい。」
彼女の表情が曇る。
「どうかしましたか?」
剣士騎士が振り返る。
レシティアは敵ではなく、街道脇に停まる一台の馬車を見ていた。
豪華な装飾。
しかし、護衛がいない。
窓は閉じられたまま。
「誰も出てこない。」
レシティアはゆっくり歩き出す。
騎士たちも異変を感じ、すぐ後に続いた。
馬車の扉を開く。
中には――
一人の少女が座っていた。
年はセラフィナと同じくらい。
豪華なドレスを着ている。
だが、その瞳は虚ろだった。
そして少女は、レシティアを見るなり、小さく震える声で呟いた。
「……ようやく。」
「見つけました。」
「レシティアお姉様。」
その場にいた全員が息を呑む。
レシティアも目を丸くする。
「……私を知っているの?」
少女はゆっくりと微笑んだ。
「もちろんです。」
「私は、あなたを迎えに来ました。」
その言葉が、新たな事件の始まりを告げていた。
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姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。
それでは、次の物語でまたお会いしましょう。
姫様、御覚悟を──




