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翼ある者たち

森に静寂が戻る。


拘束された暗殺者たち。


倒れた大木。


そして、純白の翼を持つ女性。


彼女はレシティアたちの前で、静かに頭を下げた。


「突然の訪問、お許しください。」


その所作は美しかった。


王族にも劣らない。


いや、それ以上に気品がある。


騎士団は武器を下ろさない。


女性もそれを理解していた。


「私は敵ではありません。」


剣士騎士が一歩前へ出る。


「証明を。」


女性は静かに頷いた。


「当然です。」


すると彼女は背中の翼をゆっくりと広げた。


光が舞う。


しかし、それは魔力ではなかった。


羽根の一枚一枚から柔らかな粒子が零れ落ち、倒れていた草花へ触れる。


踏み荒らされていた花が、ゆっくりと起き上がる。


折れた若木が元に戻る。


森が少しだけ息を吹き返した。


セラフィナが目を丸くする。


「……同じ羽なのに。」


自分にはできない。


女性は少し寂しそうに笑う。


「あなたは、まだ知らないだけです。」


「申し遅れました。」


女性は胸へ手を当てた。


「私は天翼族第一守護隊隊長――」


「ルミエルと申します。」


凛とした声だった。


騎士たちも、その名を覚える。


レシティアは優しく微笑んだ。


「よろしくね、ルミエル。」


その笑顔を見た瞬間。


ルミエルは、ほんの一瞬だけ息を止めた。


(……噂以上。)


この姫は。


どうしてこんなにも、人を安心させるのだろう。


諜報騎士が静かに尋ねる。


「目的は。」


ルミエルの表情が引き締まる。


「セラフィナ様の保護です。」


セラフィナが驚く。


「私?」


「はい。」


ルミエルは深く頷いた。


「あなたを狙う者が増えています。」


「先ほどの暗殺者たちも、その一部です。」


レシティアが目を細める。


「やっぱり。」


「何か知っているの?」


ルミエルは一瞬だけ迷った。


「……本来は話してはいけません。」


「ですが。」


視線をレシティアへ向ける。


「あなたになら、お話ししても構わないでしょう。」


騎士たちが少しだけ反応する。


"あなたになら"


その言葉が引っ掛かった。


ルミエルは空を見上げる。


「今から千年以上前。」


「神代の終わり。」


「世界には七つの"鍵"が造られました。」


誰も口を挟まない。


「竜王も、その鍵の一つでした。」


レシティアが静かに頷く。


「やっぱり。」


ルミエルは少し驚く。


「予想されていましたか。」


「ええ。」


「竜王にしては、不自然な封印だったもの。」


騎士団は心の中で思う。


(そこまで見ていたんですか……。)


「七つの鍵は、それぞれ違う役目を持っています。」


「竜王は"力"。」


「そして――」


ルミエルはセラフィナを見る。


「彼女は"命"。」


セラフィナの瞳が揺れた。


「命……?」


「神代の生命技術、その最後の結晶。」


「だから多くの者が狙っています。」


レシティアは静かにセラフィナを見る。


少女は不安そうだった。


羽を小さく畳み、俯いている。


レシティアは優しく頭へ手を乗せた。


「大丈夫。」


セラフィナが顔を上げる。


「あなたは、一人じゃない。」


その一言だけで。


少女の瞳から涙が零れた。


「……はい。」


その瞬間だった。


諜報騎士が森の奥を見た。


「来ます。」


全員の空気が変わる。


だが。


現れたのは暗殺者ではなかった。


一羽。


真っ黒な翼。


漆黒の羽根を持つ青年が木の上へ降り立つ。


その瞳は金色。


口元には笑み。


「ようやく見つけた。」


ルミエルの顔色が変わる。


「まさか……!」


青年は楽しそうに笑った。


「久しぶりだね、ルミエル。」


「堅いなぁ、相変わらず。」


そして。


セラフィナを見る。


「迎えに来たよ。」


最後に。


レシティアへ視線を向けた。


その瞬間だけ。


青年の笑みが少し消える。


「……なるほど。」


「君が噂の姫か。」


騎士団が武器を構える。


しかし青年は笑ったまま両手を広げた。


「安心して。」


「今日は戦いに来たんじゃない。」


「――交渉に来た。」


森に、張り詰めた静寂が流れた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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