天使の正体
森の中。
倒れた暗殺者たちは、すでに騎士団によって拘束されていた。
縄ではない。
魔力封印。
二度と動けないよう、完全に封じられている。
騎士たちは慣れた手つきで周囲を調べていた。
「生存者十二名。」
「逃走者なし。」
「狙撃地点も制圧済みです。」
淡々とした報告。
数分前まで命のやり取りをしていたとは思えないほど冷静だった。
一方。
レシティアは少しだけ肩をすくめていた。
「……ごめんなさい。」
剣士騎士が静かにため息をつく。
「姫様。」
「はい。」
「単独行動は禁止と、お伝えしました。」
「……はい。」
「護衛を置いて出歩くのも禁止です。」
「はい……。」
普段、敵を圧倒する姫が小さくなっている。
周囲の騎士たちは何も言わない。
だが、その目は優しかった。
叱っているというより、心配しているのだ。
セラフィナはその様子を見て、思わず吹き出しそうになる。
(さっきまであんなに強かったのに……。)
姫様、騎士様には弱いんだ。
その時だった。
諜報騎士が、一人の暗殺者を連れてきた。
「姫様。」
「どうしたの?」
「この者だけ、最後まで何かを守ろうとしていました。」
男の胸元から、小さな水晶が見つかる。
諜報騎士が水晶へ魔力を流す。
すると。
空中へ映像が浮かび上がった。
黒い部屋。
複数の黒衣の人物。
そして、一人の老人。
レシティアは目を細める。
「この人……。」
先日の会議にいた老人だった。
映像の老人が静かに言う。
『第一段階は失敗した。』
『だが問題ない。』
『我々は確認したかっただけだ。』
誰も言葉を発さない。
老人は続ける。
『姫は一人でも騎士団級。』
『……いや。』
少し間を置き。
『騎士団以上だ。』
セラフィナがレシティアを見る。
本人は困ったような顔をしていた。
「そんなことないのだけど。」
騎士たちは誰も反論しなかった。
老人の声はさらに続く。
『第二段階へ移行する。』
『"天使"を回収せよ。』
その瞬間。
森の空気が凍った。
全員の視線が、一斉にセラフィナへ向く。
少女はきょとんとしていた。
「……私?」
老人は映像の中で笑う。
『実験体番号AE―001。』
『通称《天使》。』
セラフィナの顔から血の気が引く。
「違う……。」
小さく首を振る。
「違う……。」
レシティアはすぐ隣へ歩いた。
「セラフィナ。」
少女は震えていた。
「私は……天使じゃ……。」
映像が続く。
『人工翼計画唯一の成功例。』
『神代遺物と人間を融合した生命体。』
『必ず回収しろ。』
映像が途切れた。
静寂。
風だけが森を吹き抜ける。
セラフィナは膝をついた。
「……知らなかった。」
涙が落ちる。
「本当に……知らなかった。」
「目を覚ました時には、羽があって……。」
「だから……。」
「自分は天使なんだって……。」
誰も責めなかった。
責められるはずがない。
騎士たちも静かだった。
レシティアは、ゆっくりと少女の前へしゃがむ。
「セラフィナ。」
少女は顔を上げる。
涙で滲んだ瞳。
「あなたは何者でもいいわ。」
優しい声だった。
「天使でも。」
「人でも。」
「実験体でもない。」
「あなたは、あなたでしょう?」
その一言で。
セラフィナの涙が止まらなくなった。
「……はい。」
小さく頷く。
レシティアは微笑む。
「それなら十分よ。」
剣士騎士がその様子を見ながら、小さく息を吐いた。
「また……。」
諜報騎士が苦笑する。
「増えますね。」
女性騎士も微笑む。
「姫様に救われる人が。」
レシティアは首を傾げる。
「何の話?」
全員が黙る。
やっぱり。
本人だけが気づいていない。
その時。
諜報騎士が森の奥を見つめた。
「……誰かいます。」
騎士団全員が武器を構える。
だが現れたのは敵ではなかった。
純白の翼を持つ、一人の女性。
背中の翼はセラフィナよりも大きく、神々しい光をまとっている。
その女性はセラフィナを見つめ、静かに微笑んだ。
「やっと見つけました。」
セラフィナが目を見開く。
「あなたは……?」
女性はゆっくりと一礼する。
「私は、あなたを探していた者です。」
「そして――」
その視線がレシティアへ移る。
一瞬だけ、驚きが浮かんだ。
「……なるほど。」
「あなたが、レシティア王女なのですね。」
騎士団の空気が一変する。
敵か。
味方か。
誰も判断できない。
だがレシティアだけは穏やかに微笑んだ。
「はじめまして。」
その出会いが、新たな物語の幕開けになることを、この場の誰もまだ知らなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。
それでは、次の物語でまたお会いしましょう。
姫様、御覚悟を──




