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天使は空から落ちてきた

森の奥。


レシティアの指先一つで。


三本の魔力矢は粉々に砕け散った。


静寂。


セラフィナは固まっていた。


「……え?」


理解が追いつかない。


遠距離狙撃。


超高速魔力弾。


それを。


指を鳴らしただけで消した。


何をされたのかすらわからない。


だが。


レシティア本人は首を傾げていた。


「少し強かったかしら」


少しではない。


かなりである。


その頃。


狙撃兵は震えていた。


岩山の上。


数キロ先。


汗が止まらない。


「なんだあれ……」


今まで何百人も仕留めてきた。


将軍も。


英雄も。


魔導師も。


だが。


こんなのは初めてだった。


避けるならまだわかる。


防ぐなら理解できる。


しかし。


消した。


それも簡単そうに。


「ふざけるな……!」


狙撃兵が歯を食いしばる。


そして。


最後の矢を取り出した。


黒い矢。


禁術級魔導兵装。


本来なら一国の軍が運用するもの。


それを。


たった一人へ向ける。


森。


レシティアがふと空を見る。


セラフィナもつられて見上げた。


雲一つない青空。


平和だった。


なのに。


レシティアだけは眉をひそめる。


「今度は少し大きいわね」


次の瞬間。


空が割れた。


轟音。


黒い光。


巨大な魔力の槍が落ちてくる。


もはや狙撃ではない。


天災だった。


セラフィナの顔が青ざめる。


「っ!!」


死ぬ。


本能がそう叫ぶ。


だが。


レシティアは。


「うーん」


少し考えた。


そして。


手を伸ばす。


まるで。


落ちてくる雪でも受け止めるように。


軽く。


本当に軽く。


その瞬間。


巨大な魔力槍が止まった。


空中で。


ぴたりと。


沈黙。


森が静まり返る。


鳥の声も消えた。


風も止まった。


世界が固まったようだった。


セラフィナは口をぱくぱくさせる。


「え」


それしか言えない。


レシティアは槍を見上げる。


「危ないわね」


そして。


軽く握った。


パリン。


ガラスが割れるような音。


巨大な魔力槍が砕け散る。


空に光が広がる。


まるで花火だった。


遠くの岩山。


狙撃兵は膝をついた。


折れた。


心が。


完全に。


「あれは無理だろ……」


英雄じゃない。


怪物でもない。


もっと違う何かだ。


すると。


背後から声がした。


「ご苦労だった」


狙撃兵が振り返る。


黒い外套。


仮面。


今回の襲撃計画の責任者だった。


「失敗だ」


男は淡々と言う。


狙撃兵が震える。


処刑される。


そう思った。


だが。


男は首を振った。


「いや」


静かな声。


「むしろ収穫だ」


仮面の奥で目が細まる。


「やはり騎士団ではない」


「問題は姫だ」


その言葉に。


狙撃兵は初めて同意した。


一方。


森。


セラフィナはレシティアを見ていた。


じーっと。


ずっと。


レシティアが困るくらい。


「どうしたの?」


セラフィナが聞く。


「本当に人間ですか?」


沈黙。


レシティアが少し困った顔になる。


最近よく聞かれる。


「一応」


「一応なんだ……」


天使を名乗る少女が引いていた。


その時だった。


森の奥。


空気が変わる。


殺気。


今度は近い。


レシティアの目が細くなる。


「まだいるのね」


セラフィナも気づく。


複数。


かなりの数。


包囲されている。


木々の上。


茂みの中。


地面の下。


暗殺者たち。


完全な包囲網。


そして。


一人が姿を現す。


黒衣。


仮面。


異様な圧。


今までの敵とは違う。


強い。


かなり。


男はレシティアを見る。


そして。


静かに言った。


「ようやく会えた」


空気が重くなる。


セラフィナが一歩下がる。


危険だ。


わかる。


目の前の男は。


騎士団クラス。


いや。


それ以上かもしれない。


だが。


レシティアは変わらない。


ただ静かに聞いた。


「誰かしら」


男は仮面の下で笑った。


「昔、お前の騎士が壊した組織の残骸だ」


そして。


剣を抜く。


「だから今日は」


空気が震える。


「お前を殺しに来た」


その瞬間。


王都から飛び出した騎士団も。


森へ到達しようとしていた。


だが。


間に合わない。


敵の方が早い。


そして。


レシティアは小さくため息を吐いた。


「また怒られるわね」


セラフィナは思った。


たぶん。


今心配するところはそこじゃない。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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