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天使を名乗る少女

その日の朝。


レシティアは珍しく一人だった。


本当に珍しく。


騎士団は王都各地で警戒任務。


姫暗殺計画の情報が入ってからというもの、全員が忙しくなっていた。


そのため。


「少しだけなら大丈夫でしょう」


ということで。


レシティアは王都郊外へ出ていた。


もちろん変装している。


簡単な旅装束。


目立たない服装。


普通の貴族にしか見えない。


本人はそう思っていた。


なお。


周囲から見ると全然普通ではない。


歩き方からして育ちが良すぎた。


王都近郊の森。


木漏れ日が揺れている。


静かだった。


小鳥の鳴き声。


風。


心地よい。


レシティアは少しだけ微笑む。


「たまにはこういうのも良いわね」


会議もない。


報告書もない。


騎士たちもいない。


平和だった。


本当に。


そのときだった。


「お姉ちゃん」


声。


小さな声。


レシティアが振り返る。


そこにいたのは。


十歳くらいの少女だった。


白い髪。


透き通るような銀色の瞳。


そして。


背中には――


羽が生えていた。


白い羽。


まるで。


天使のような。


少女は真顔で言った。


「私は天使です」


沈黙。


レシティアは数秒考えた。


そして。


「そうなの」


普通に受け入れた。


少女が少し驚く。


「信じるんですか?」


「羽があるもの」


確かに。


少女は少し困った顔をした。


もっと疑われると思っていたらしい。


「名前は?」


レシティアが聞く。


少女は少し考える。


そして。


答えた。


「セラフィナ」


レシティアは小さく頷く。


綺麗な名前だった。


「私はレシティア」


「知ってます」


即答。


姫が固まる。


少女も固まる。


沈黙。


「あら」


「言っちゃった」


言ってしまった。


その瞬間。


セラフィナの表情が変わった。


「伏せて!」


レシティアが動く。


ほぼ同時。


森の奥から。


ヒュン――


何かが飛来した。


矢。


いや違う。


もっと速い。


もっと鋭い。


殺意そのもの。


レシティアが身体を捻る。


髪をかすめる。


直後。


背後の巨木が爆散した。


轟音。


木片が飛び散る。


普通なら即死。


完全な狙撃だった。


森の奥。


数キロ先。


岩山。


そこに男がいた。


巨大な長弓。


特殊魔導狙撃兵。


姫暗殺計画の切り札。


「外した……?」


男の顔が引きつる。


ありえない。


今の距離。


見えてすらいないはず。


それなのに。


避けた。


一方。


レシティアは森を見つめていた。


「遠いわね」


静かな声。


セラフィナが驚く。


「位置わかるんですか?」


「だいたい」


だいたいではない。


完全に把握していた。


二射目。


放たれる。


音速を超える魔力矢。


だが。


レシティアは半歩だけ動く。


避ける。


また外れる。


狙撃兵が青ざめる。


「何なんだ……!」


セラフィナは。


初めて気付いた。


姫直属騎士団が異常なのではない。


もちろん異常だが。


根本的に。


もっとおかしい存在がいた。


目の前に。


「さて」


レシティアが小さくため息を吐く。


「騎士たちに怒られる前に終わらせましょう」


セラフィナが首を傾げる。


「怒られる?」


「一人で危険なことをすると怒られるの」


なぜか保護者目線の騎士団だった。


三射目。


放たれる。


今度は三本同時。


普通なら回避不可能。


だが。


レシティアは指を一本上げた。


小さく。


本当に小さく。


パチン、と鳴らす。


その瞬間。


三本の矢が。


空中で粉々になった。


沈黙。


森も。


セラフィナも。


遠くの狙撃兵も。


全部固まった。


レシティアは首を傾げる。


「あら?」


そして。


少し困ったように笑う。


「やりすぎたかしら」


その頃。


王都では。


騎士団が異変に気付いていた。


「姫様の位置付近で魔力反応」


沈黙。


全員の顔色が変わる。


そして。


剣士騎士が静かに言った。


「……急ぐぞ」


遠く離れた森で。


姫様がまた何かやらかしている予感しかしなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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