姫を殺せ
王都から遠く離れた山岳地帯。
忘れられた古城。
そこに人が集まっていた。
敵国残党。
奴隷商組織残党。
暗殺組織残党。
古代研究残党。
本来なら決して協力しない者たち。
だが。
今だけは目的が一致していた。
長机を囲みながら、一人の男が言う。
「確認する」
空気が張り詰める。
「我々の敵は誰だ」
沈黙。
そして。
古代研究者が口を開いた。
「姫直属騎士団」
奴隷商人が頷く。
暗殺者も頷く。
だが。
奥に座る老人だけは首を振った。
「違う」
全員が老人を見る。
老人は静かに言った。
「騎士団ではない」
空気が変わる。
「騎士団を殺しても意味はない」
「第二第三の騎士団ができる」
「なぜなら」
老人の目が細くなる。
「原因は姫だ」
沈黙。
誰も反論できない。
実際。
調べれば調べるほど異常だった。
敵国の剣聖。
暗殺組織の怪物。
奴隷闘技場の生還者。
どれも普通なら王国に従わない。
なのに。
全員がレシティアへ忠誠を誓っている。
「姫がいる限り」
老人が続ける。
「騎士団は何度でも生まれる」
だから。
答えは一つ。
「姫を殺せ」
その言葉で。
会議は終わった。
同時刻。
王宮。
レシティアは紅茶を飲んでいた。
平和だった。
非常に平和だった。
「今日の予定は?」
侍女が答える。
「午前は会議です」
「はい」
「午後は会議です」
「はい」
「夕方も会議です」
レシティアが黙る。
「……会議しかないの?」
「会議しかありません」
姫は遠い目をした。
戦争の方が楽かもしれない。
少しだけ思った。
その瞬間。
王宮の扉が開く。
騎士の一人だった。
だが。
表情が少し硬い。
レシティアは気付く。
「何かあったのね」
騎士は頷いた。
「報告があります」
空気が変わる。
「複数の組織が同時に動き始めました」
レシティアの目が細くなる。
「どの規模?」
「かなり大規模です」
嫌な予感がした。
騎士は続ける。
「敵国残党」
「暗殺組織残党」
「奴隷商残党」
「古代研究残党」
並ぶ名前。
どれも最近戦った相手だった。
レシティアは小さくため息を吐く。
「仲良くなったのね」
普通は仲良くならない。
むしろ敵同士である。
だからこそ異常だった。
騎士も頷く。
「はい」
そして。
最後の報告。
「目的も判明しています」
レシティアは静かに紅茶を置いた。
騎士が言う。
「姫様です」
沈黙。
部屋が静まり返る。
侍女たちも固まる。
だが。
レシティアは。
「そう」
としか言わなかった。
騎士が少し困った顔をする。
「驚かれませんか」
「私ならそうなるでしょうね」
本当に他人事みたいだった。
騎士は頭を抱えたくなる。
姫様である。
いつものことだった。
だが。
その瞬間。
部屋の空気が変わった。
騎士たち。
全員の目が変わる。
静かな怒り。
殺気。
敵が騎士団を狙うならまだいい。
だが。
姫を狙う。
それだけは別だった。
レシティアは、その空気に気付いて苦笑する。
「怒らないの」
誰も答えない。
答える必要がない。
怒っているからだ。
かなり。
レシティアは小さくため息を吐いた。
そして。
窓の外を見る。
青空だった。
平和な空。
だが。
嵐は近い。
敵は知らない。
自分たちが触れてはいけないものへ手を伸ばしたことを。
そして。
王国最強。
いや。
大陸最強の騎士団が、
本気で怒った時どうなるのかを。




