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閑話 五人の姫と人狼ゲーム

その夜。


レシティアは珍しく早く眠っていた。


騎士団との会議も終わり。


書類も片付き。


平和な夜。


窓から月明かりが差し込む。


そして。


静かに夢を見る。


懐かしい匂いだった。


甘い菓子。


花。


楽器の音。


笑い声。


目を開くと。


豪華な大広間が見えた。


「……あら」


レシティアは少し驚く。


知っている。


昔の記憶だ。


数年前。


まだ各国との交流が始まったばかりの頃。


王族たちが集まる交流会。


その中でも珍しく、


年齢の近い姫だけを集めた小規模な催しだった。


そして。


目の前には――


問題児が四人いた。


「完成したわ!!」


最初に叫んだのは、


金髪の姫だった。


机の上には謎の設計図。


目が輝いている。


「これが理想の原子兵器よ!!」


周囲が静かになる。


レシティアは頭を押さえた。


「まだ始まって五分よね?」


「うん」


返事をしたのは、


歌姫だった。


銀色の髪。


歌声で有名な国の王女。


穏やか。


優しい。


だが。


天然。


「原子兵器って何?」


「素晴らしいものよ!」


「へぇー」


理解していない。


「祭りにしよう!!」


今度は別の姫が立ち上がる。


赤髪。


元気。


声が大きい。


祭りが大好き。


何でも祭りにしたがる。


「人狼ゲーム大会祭り!!」


「それただの人狼では?」


レシティアが突っ込む。


「祭りだよ!!」


意味が分からない。


「暑いわねぇ」


今度は南国の姫。


ゆるい。


とにかくゆるい。


常に眠そう。


果物を食べている。


「誰か扇いで」


「自分でやりなさい」


「やだ」


即答だった。


そして最後。


紫色の髪をした少女。


サキュバスと人間のハーフ。


少し小悪魔っぽい。


でも意外と常識人。


「……どうして毎回こうなるの?」


レシティアと同じ感想だった。


二人は目を合わせる。


深く頷く。


「それで」


歌姫が首を傾げる。


「今日は何をするの?」


すると。


祭り姫が立ち上がる。


満面の笑み。


「人狼ゲーム!!」


会場が盛り上がる。


なぜか。


原子兵器姫も立ち上がる。


「心理戦ね!!」


「違うと思う」


サキュバス姫が言う。


こうして。


五人の姫による人狼ゲームが始まった。


そして。


後に各国の外交官たちが、


「あの会合が一番疲れた」


と語る伝説の夜になる。


第一回戦。


役職配布。


全員がカードを受け取る。


レシティアは確認する。


【村人】


普通だった。


一安心。


その瞬間。


原子兵器姫が立ち上がる。


「私は村人よ!!」


全員が顔を上げる。


まだ開始三秒。


サキュバス姫が頭を抱える。


「絶対違う」


「なんで!?」


「村人なら黙ってて」


「なるほど!!」


全然なるほどではない。


その時。


レシティアは気づいた。


このメンバー。


まともに人狼できる人が少ない。


そして。


もっと大変なことに。


この中に――


とんでもない人狼役が混じっていた。


「では第一回戦を開始します!」


祭り姫が立ち上がる。


なぜか司会を始めた。


誰も頼んでいない。


「人狼祭り開幕だー!!」


「祭りじゃないわよ」


レシティアが即座に突っ込む。


しかし誰も聞いていない。


参加者は五人。


・レシティア

・原子兵器姫

・歌姫

・祭り姫

・サキュバス姫


配役は少人数用。


人狼一人。


占い師一人。


村人三人。


シンプル。


のはずだった。


「それじゃ議論開始!!」


祭り姫が叫ぶ。


すると。


原子兵器姫が立ち上がる。


「私は村人よ!!」


開始五秒。


レシティアが頭を押さえた。


「まだ何も始まってないでしょう」


「先手必勝よ!」


「何の?」


「心理戦!」


違う。


絶対違う。


サキュバス姫が静かに手を挙げる。


「吊りましょう」


「えっ!?」


原子兵器姫が固まる。


「なぜ!?」


「村人ならそんなこと言わない」


「なるほど!」


納得するな。


歌姫が首を傾げる。


「でも本当に村人かもしれないよ?」


「それもそうね」


レシティアが頷く。


すると。


サキュバス姫がじっと歌姫を見る。


「……歌姫様」


「うん?」


「人狼ですか?」


「違うよ?」


即答。


だが。


目が泳いでいた。


全員が見る。


歌姫が慌てる。


「ち、違うの!」


「怪しい」


レシティアが言う。


「ええっ!?」


そこから十分後。


議論は崩壊していた。


祭り姫が言う。


「人狼見つけたら血祭りにしよう!」


「どういう祭りよ」


「人狼討伐祭り!」


「普通では?」


「祭りだよ!」


違いがわからない。


南国姫はいない。


なぜなら。


寝ていた。


机に突っ伏して。


開始からずっと。


「……起きて」


レシティアが揺する。


「んー」


起きない。


人狼ゲーム向いてなかった。


議論終了。


投票。


結果。


原子兵器姫。


満場一致。


「なんでぇぇぇ!?」


泣きそうだった。


カード公開。


【村人】


全員。


固まる。


「え」


「え」


「え」


レシティアが頭を抱える。


「やってしまったわね」


サキュバス姫も少し困った顔をする。


「やらかしたわね」


原子兵器姫は机を叩いた。


「だから言ったじゃない!」


「村人だって!」


「最初に言うからよ!」


夜。


人狼ターン。


全員目を閉じる。


人狼だけが目を開く。


そして。


翌朝。


脱落者発表。


司会役の侍女が言う。


「襲撃されたのは……」


全員が注目する。


「歌姫様です」


沈黙。


歌姫が目を丸くする。


「私!?」


「はい」


「えー」


本人が一番驚いていた。


これで残り三人。


レシティア。


祭り姫。


サキュバス姫。


そして寝ている南国姫。


いや四人か。


一応。


ここで。


サキュバス姫の目が変わる。


今までとは違う。


鋭い。


レシティアが気づく。


(あら)


頭が良い。


かなり。


もしかすると。


この中で一番。


そして。


サキュバス姫が静かに言った。


「わかりました」


祭り姫が立ち上がる。


「ほんと!?」


「ええ」


サキュバス姫は微笑む。


「人狼が誰か」


レシティアが目を細める。


面白くなってきた。


だが。


次の瞬間。


南国姫が寝言で言った。


「人狼はぁ……」


全員が振り返る。


「祭り姫ぃ……」


静寂。


祭り姫が固まる。


サキュバス姫も固まる。


レシティアも固まる。


そして。


祭り姫が叫んだ。


「なんで寝ながら当てるのぉぉぉ!?」


実は。


祭り姫が人狼だった。


サキュバス姫が推理を披露する前に。


寝ていた南国姫が当ててしまったのである。


こうして第一回戦は終了した。


しかし。


本当の地獄はここからだった。


第二回戦。


カードを確認したレシティアは思う。


(あら)


少しだけ驚く。


珍しい役職だった。


その時。


向かいのサキュバス姫が微笑んだ。


そして。


原子兵器姫が言った。


「今回は絶対勝つわ!!」


全員が不安になった。


第二回戦。


カードが配られる。


全員が自分の役職を確認する。


そして。


レシティアは少しだけ目を見開いた。


(あら)


珍しい。


今回の役職は――


占い師。


村人側の要。


重要役職。


レシティアは静かにカードを伏せた。


表情は変わらない。


だが。


向かいのサキュバス姫がじっと見ていた。


怖い。


「今度こそ勝つわ!」


原子兵器姫が立ち上がる。


開始一秒。


全員が嫌な予感しかしない。


「今回は理論で行く!」


「前回もそう言ってたわよね」


レシティアが言う。


「今回は違うわ!」


本当にだろうか。


誰も信じていなかった。


夜。


占いタイム。


レシティアは静かに占う。


選んだ相手は――


サキュバス姫。


結果。


【村人】


レシティアは少し安心した。


一番怖い相手が味方だった。


翌朝。


議論開始。


そして。


開始五秒で。


原子兵器姫が立ち上がった。


「わかったわ!」


全員が顔を上げる。


嫌な予感。


「人狼は歌姫よ!」


歌姫が紅茶を吹きそうになる。


「えぇ!?」


「証拠は?」


サキュバス姫が聞く。


原子兵器姫は胸を張った。


「勘よ!」


全員。


頭を抱えた。


歌姫は慌てる。


「違うよ!」


「怪しい!」


「違うって!」


「怪しい!」


「同じことしか言ってないわよ」


レシティアが突っ込む。


すると。


祭り姫が立ち上がった。


「提案があります!」


嫌な予感しかしない。


「人狼祭りを開催しよう!」


「まだ言うの?」


レシティアが聞く。


「大事なことだよ!」


「どこが」


「祭りだから!」


意味がわからない。


その頃。


南国姫は。


寝ていた。


完全に。


誰も驚かない。


議論が進む。


いや。


進んでいない。


カオスだった。


そんな中。


サキュバス姫だけが静かだった。


観察している。


全員を。


そして。


レシティアも気づく。


(鋭いわね)


たぶん。


全部見えている。


すると。


歌姫が手を挙げた。


「ねぇ」


全員が見る。


「私、人狼わかったかも」


静寂。


サキュバス姫が少し驚く。


レシティアも見る。


歌姫が言う。


「祭り姫じゃない?」


祭り姫が固まった。


全員が見る。


祭り姫が汗をかく。


「な、なんで?」


「だって前回も人狼だったから」


「それ理由になる!?」


ならない。


絶対ならない。


だが。


そこでサキュバス姫が微笑んだ。


「面白いですね」


祭り姫の顔色が変わる。


レシティアが気づく。


(あら)


当たりだ。


サキュバス姫が指を組む。


「祭り姫様」


「な、なに?」


「先ほどから発言数が減っています」


「そ、そんなことないよ!」


「あります」


即答。


怖い。


「さらに」


サキュバス姫が続ける。


「歌姫様が疑った瞬間から、焦っています」


祭り姫が固まる。


レシティアが少し感心する。


鋭い。


本当に鋭い。


そのとき。


原子兵器姫が叫んだ。


「つまり!」


全員が嫌な予感を覚える。


「人狼は南国姫!」


南国姫。


寝ている。


完全に。


机に突っ伏して。


「どうして!?」


レシティアが聞く。


「怪しいから!」


「寝てるだけよ!」


「人狼だから寝たふりしてるのよ!」


「器用すぎるでしょう」


結局。


投票。


祭り姫。


満場一致。


「ひどいよぉぉぉ!!」


祭り姫が泣く。


カード公開。


【人狼】


正解。


村人勝利。


「やったー!」


歌姫が喜ぶ。


「勝ったね!」


「勝ったわね」


レシティアも微笑む。


すると。


サキュバス姫が言う。


「実は」


全員が見る。


「最初からわかってました」


静寂。


祭り姫が叫ぶ。


「もっと早く言ってよ!」


「面白かったので」


悪い顔だった。


サキュバス姫。


意外と性格が悪い。


その後。


第三回戦。


第四回戦。


第五回戦。


深夜まで続いた。


原子兵器姫は毎回初日に吊られ。


祭り姫は毎回騒ぎ。


歌姫は天然で盤面を壊し。


南国姫は途中から半分寝ながら参加し。


サキュバス姫は全勝した。


そして。


レシティアはずっとツッコミ役だった。


夢の終わり。


若い頃の五人が笑っている。


他愛もない会話。


平和な時間。


誰もまだ国を背負い切れていない頃。


レシティアは、その光景を見つめる。


懐かしい。


少しだけ。


寂しい。


そのとき。


夢の中の歌姫が言った。


「また集まろうね」


祭り姫も頷く。


「次は祭りだ!」


「絶対祭り言うわね」


サキュバス姫が苦笑する。


南国姫は寝ている。


いつも通りだった。


そして。


朝。


レシティアは目を覚ました。


窓の外から光が差し込んでいる。


しばらく天井を見つめ。


小さく笑った。


「……懐かしい夢を見たわね」


その日。


朝食の席で騎士たちが見たものは。


少しだけ機嫌の良い姫様だった。


理由を聞いても。


レシティアは教えてくれなかったが。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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