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剣士は、姫を王にしたくない

剣が、夜を裂く。


轟音。


火花。


王都西区の屋根が、一撃ごとに崩れていく。


元弟子の剣は速かった。


重い。


鋭い。


普通の騎士なら、一瞬で斬り伏せられている。


だが。


「チッ……!」


元弟子が舌打ちする。


当たらない。


全部。


紙一重で躱される。


昔なら、もっと力任せだった。


もっと暴力的だった。


だが今の騎士は違う。


静かだ。


最小限で避け。


最小限で斬る。


無駄がない。


まるで――


「……王国の騎士みてぇな剣だな」


元弟子が、低く笑う。


騎士は、静かに返す。


「騎士だからな」


「ハッ」


次の瞬間。


元弟子の剣圧が、一気に増した。


地面が砕ける。


連撃。


連撃。


連撃。


嵐のような斬撃。


だが。


騎士は、全部捌く。


「なんでだよ!!」


元弟子が叫ぶ。


怒り。


悔しさ。


悲鳴みたいな声だった。


「なんでアンタだけ救われてんだ!!」


空気が、震える。


騎士の目が、わずかに細くなる。


元弟子は、さらに叫ぶ。


「俺たちは捨てられた!!」


「国に!!」

「戦場に!!」

「誰にも救われなかった!!」


剣が振るわれる。


重い。


悲しい剣だった。


「なのにアンタだけ……!」


その瞬間。


騎士が、初めて強く踏み込んだ。


ギィン!!


剣が弾かれる。


元弟子の身体が、大きく後退する。


「っ……!?」


騎士は、静かに立っていた。


そして。


低く言う。


「救われたわけじゃない」


炎が揺れる。


「救われ続けている」


元弟子が、目を見開く。


騎士は、ゆっくりと剣を構える。


「姫様は、誰かを勝手に救ったりしない」


その声は、静かだった。


だが。


確かな熱があった。


「ただ、手を伸ばされる」


昔を思い出す。


幼い姫。


血まみれの戦場。


小さな手。


ぎこちない包帯。


『そんな顔で、剣を振らないで』


あの瞬間から。


騎士は、変わってしまった。


「だから」


騎士が、一歩踏み込む。


空気が、変わる。


元弟子が、本能で理解する。


来る。


「今の俺は――お前が知っている頃より強い」


次の瞬間。


視界から消えた。


「――っ!?」


遅い。


認識した時には、もう剣が首元へ来ていた。


元弟子が、無理やり身体を捻る。


それでも。


斬られる。


肩から血が舞った。


「ぐっ……!」


膝をつく。


速い。


今の一撃。


まったく見えなかった。


騎士は、静かに剣を下ろす。


「終わりだ」


元弟子が、悔しそうに歯を食いしばる。


「……殺さねぇのか」


「必要ない」


即答。


騎士は、昔と同じ目をしていなかった。


血に飢えた目じゃない。


だからこそ。


元弟子は、理解してしまう。


(……本当に)


変わったのだと。


そのとき。


カツン、と。


後ろから足音が響いた。


騎士が、わずかに目を見開く。


そこには――


レシティアが立っていた。


月明かりの中。


静かに。


「姫様」


騎士が、すぐに膝をつく。


元弟子が、固まる。


(……この人が)


第三王女。


騎士を変えた人間。


レシティアは、怪我をした元弟子を見る。


数秒。


静かに観察して――


そして。


小さくため息を吐いた。


「……また無茶して」


騎士へ向けた言葉だった。


元弟子が、目を瞬かせる。


怒らないのか?


責めないのか?


だが。


姫は、騎士の肩に手を置くだけだった。


「怪我は?」


「問題ありません」


「そう」


レシティアは、小さく頷く。


そして。


元弟子へ視線を向けた。


その瞳は、静かだった。


怖いほど。


「あなた」


元弟子の身体が、無意識に強張る。


だが。


姫は、穏やかに言った。


「この人を慕っていたのね」


「…………」


否定できなかった。


レシティアは、ほんの少しだけ笑う。


「なら、見る目はあるわ」


その瞬間。


元弟子の思考が止まった。


騎士も、わずかに固まる。


姫は、気づいていない。


何気なく言っただけ。


だが。


その言葉は、昔と同じだった。


人を。


壊れたまま終わらせない言葉。


元弟子は、しばらく黙り――


やがて。


小さく笑った。


「……なるほどな」


敗北だった。


完全に。


剣ではなく。


もっと別の何かで。


その夜。


王都西区の戦いは終わる。


だが同時に。


別の場所では。


諜報騎士と“裏の過去”がぶつかり始めていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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