最強騎士団、狙われる
王都の夜は、静かだった。
夜風が石畳を撫で、王宮の灯りがゆらゆらと揺れている。
平和。
少なくとも、表向きには。
「……妙ですね」
王宮屋根の上。
騎士の一人が、夜の街を見下ろしていた。
その視線の先。
王都外周。
人影。
一つではない。
複数。
「動きが統一されています」
別の騎士が、低く呟く。
「軍勢か?」
「違うな」
短い否定。
「“慣れている”」
その瞬間だった。
――ドォン!!
爆発。
王都西区で炎が上がる。
同時。
東区。
南区。
さらに北門付近。
連続爆発。
完全な同時襲撃。
騎士たちの目が、一瞬で変わった。
「王都全域に展開」
「目的は?」
「……誘導か」
普通の襲撃ではない。
タイミングが完璧すぎる。
そして。
その直後。
騎士の一人が、静かに目を細めた。
「……来るぞ」
気配。
強い。
しかも。
“知っている”気配。
屋根の上へ、黒い影が降り立つ。
一人。
剣を持った男。
古傷だらけ。
そして。
騎士を見て、笑った。
「久しぶりだな」
空気が、止まる。
騎士の視線が、わずかに細くなる。
「……生きていたか」
男は、肩を竦めた。
「勝手に殺すなよ、師匠」
その瞬間。
別の場所でも、異変が起きていた。
⸻
地下区画。
諜報騎士が、静かに歩いている。
闇。
静寂。
だが。
「お前、本当に変わらねぇな」
背後から声。
短刀が、喉元へ突きつけられていた。
普通なら、死んでいる距離。
だが。
諜報騎士は動かない。
「……まだ生きていたんですか」
振り返る。
そこにいたのは。
仮面の男。
昔。
諜報騎士が所属していた暗殺組織の幹部。
「裏切り者」
男が、笑う。
「迎えに来てやったぞ」
⸻
そして。
王宮正門。
女性騎士が、一人立っていた。
その前には。
奴隷商人たち。
いや。
かつて奴隷商をしていた武装組織。
男が、にやにやと笑う。
「懐かしいなぁ、“商品”」
空気が、凍った。
女性騎士の目から、感情が消える。
男は、さらに笑う。
「王族ごっこは楽しかったか?」
沈黙。
だが。
その手に握られた剣だけが、わずかに震えていた。
怒り。
殺意。
そして――
昔の記憶。
⸻
同時刻。
王宮内。
レシティアは、静かに窓の外を見ていた。
遠くで、炎が上がっている。
騒がしい。
だが。
焦りはない。
その代わり。
ほんの少しだけ、目を細める。
(……嫌なやり方ね)
騎士たちを狙っている。
それも。
“過去”を知る者たち。
そのとき。
騎士の一人が現れる。
「姫様」
「ええ」
レシティアは、振り返る。
「始まったのね」
騎士は、静かに頷いた。
「敵の目的は、我々です」
「でしょうね」
短い返答。
だが。
その瞳には、静かな怒りが宿っていた。
レシティアは、ゆっくりと立ち上がる。
「……本当に」
小さく、呟く。
「私の騎士たちに、随分好き勝手してくれるじゃない」
その声は、穏やかだった。
だが。
騎士は知っている。
姫が今――かなり怒っていることを。
そして。
王都の各地で。
“騎士たちの過去”が、動き出す。
王都西区。
燃え上がる炎の中。
剣士の騎士と、その元弟子は向かい合っていた。
夜風が、火の粉を運ぶ。
「随分、立派になったじゃねぇか」
元弟子が笑う。
だが、その目には怒りがあった。
憎悪すら。
「……お前ほどではない」
騎士は、静かに返す。
剣を構える。
隙がない。
昔と同じ。
いや――
昔より、遥かに静かだった。
元弟子が、吐き捨てる。
「昔はもっと、“化け物”みたいな目してたくせによ」
次の瞬間。
地面を蹴る。
爆発的加速。
斬撃。
一直線。
普通なら見えない速度。
だが。
騎士は、片手で受け止めた。
ギィン!!
火花。
空気が裂ける。
元弟子が、目を細めた。
「……やっぱ化け物だな」
騎士は、答えない。
ただ。
静かに剣を振るう。
一閃。
元弟子が、飛び退く。
背後の壁が、音もなく斬れて崩れた。
沈黙。
そして。
元弟子が、小さく笑った。
「なぁ、師匠」
その声には、昔の響きが混ざっていた。
「なんで消えた」
空気が、少し変わる。
「アンタがいなくなってから、国は終わった」
「皆死んだ」
「俺たちも捨てられた」
怒り。
悲しみ。
全部混ざっていた。
騎士は、静かに目を閉じる。
そして。
昔を思い出す。
⸻
戦場。
血の臭い。
焼ける街。
剣士だった頃の彼は、“王国殺し”と呼ばれていた。
敵も。
味方も。
関係なく恐れた。
勝つ。
ただ勝つ。
命令されるまま、人を斬る。
感情は、もうほとんど死んでいた。
ある日の戦場。
血だまりの中で、騎士は座り込んでいた。
剣は折れ。
鎧は砕け。
周囲には死体だけ。
そこへ。
小さな足音が近づく。
「……だれ?」
幼い少女の声。
騎士が、ゆっくり顔を上げる。
紫色の髪。
まだ幼い王女。
レシティアだった。
護衛も連れず、一人で戦場跡へ迷い込んでいた。
騎士は、ぼんやりと思った。
(……帰れ)
だが。
声が出なかった。
レシティアは、そんな騎士を見て――
小さく眉を下げた。
「そんな顔で、剣を振らないで」
騎士の目が、わずかに揺れる。
少女は、近づいてくる。
怖がらない。
血まみれの男を見ても。
ただ。
困ったように見つめていた。
「痛いのでしょう?」
騎士は、何も答えない。
すると。
レシティアは、自分の服を破った。
そして。
騎士の腕へ、ぎこちなく巻き始める。
「…………」
騎士は、初めて理解できなかった。
なぜ、この少女はこんなことをする?
戦場だ。
自分は、人殺しだ。
だが。
レシティアは、包帯を巻きながら言った。
「誰かのために剣を振るう人が、そんな顔しちゃだめよ」
その瞬間。
騎士の中で、何かが止まった。
いや。
壊れかけていたものが、繋がった。
小さく。
本当に小さく。
騎士は、笑った。
それが。
レシティアが初めて見た、彼の笑顔だった。
⸻
現在。
炎の中。
元弟子が、低く言う。
「……変わったよな」
騎士は、静かに剣を構える。
「そうかもしれんな」
「姫のせいか」
沈黙。
そして。
ほんの少しだけ。
騎士の口元が緩んだ。
「そうだ」
迷いのない返答だった。
元弟子が、目を見開く。
「……は」
笑う。
呆れたように。
「本当に変わっちまったんだな」
その瞬間。
元弟子の殺気が、一気に跳ね上がる。
「だったら見せろよ」
地面が砕ける。
「その姫に救われたアンタが、どれだけ強くなったか!!」
激突。
剣と剣がぶつかる。
火花。
轟音。
夜空へ衝撃が走る。
だが。
騎士の目は、昔と違った。
血に濁っていない。
静かで。
まっすぐだった。
なぜなら。
守るものがあるから。
そして――
そのすべての中心に、姫がいる。
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姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。
それでは、次の物語でまたお会いしましょう。
姫様、御覚悟を──




