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閑話 騎士たちの夜勤は静かに終わらない

閑話 騎士たちの夜勤は静かに終わらない(前編)


王宮の夜は静かだ。


昼間の喧騒が嘘のように、人の気配が消える。


廊下には最低限の灯りだけが残り、巡回兵たちの足音だけが一定の間隔で響いていた。


そして。


その静寂を守る者たちがいる。


姫直属騎士団。


今夜は、そのうち数名が夜間警備を担当していた。


「異常なし」


短い報告。


「東棟も問題ありません」


「地下区画、変化なし」


淡々としたやり取り。


実に平和。


……のはずだった。


そのとき。


「……ん?」


一人の騎士が、足を止める。


廊下の奥。


窓際。


何かが、“いた”。


白い。


小さい。


ふわふわしている。


「…………」


騎士が沈黙する。


相手も沈黙する。


じっと見つめ合う。


そして。


「にゃ」


鳴いた。


猫だった。


騎士たちが、静かに顔を見合わせる。


「……なぜ王宮内に猫が?」


「迷い込んだかと」


「巡回記録にはありません」


猫は、王宮の窓へちょこんと座ったまま、こちらを見ている。


妙に堂々としていた。


そのとき。


猫が、立ち上がる。


そして――


歩き出した。


「……追うか?」


「念のため」


騎士たちが、静かについていく。


猫は、迷いなく廊下を進む。


曲がる。


階段を降りる。


また曲がる。


「……地下?」


騎士の一人が、わずかに目を細める。


王宮地下。


普段は使われない、古い区画。


数年前から封鎖されている場所。


猫は、そこへ向かっていた。


「偶然ではないな」


空気が変わる。


騎士たちの警戒が、一段上がった。


猫は、古い扉の前で止まる。


そして。


振り返った。


「にゃー」


「…………」


数秒の沈黙。


「案内している?」


「そのように見えます」


意味がわからない。


だが。


姫直属騎士団は、こういう“意味がわからない状況”に慣れていた。


騎士の一人が、静かに扉へ手を触れる。


埃が厚い。


だが――


「最近、開いた痕跡があります」


空気が、変わる。


別の騎士が、即座に周囲を警戒。


「誰かいるな」


その瞬間。


地下の奥から、“音”がした。


ガコン。


重い金属音。


続けて。


ギギギギ……。


何か巨大なものが動く音。


騎士たちの視線が、鋭くなる。


「……行くぞ」


静かに扉を開く。


暗闇。


冷たい空気。


そして――


地下通路の奥で。


“何か”が動いた。


巨大な影。


赤い光。


さらに。


「侵入者ヲ確認」


機械音声。


騎士たちが、一瞬だけ止まる。


「……機械?」


次の瞬間。


地下通路の奥から、鋼鉄の腕が飛び出した。


轟音。


壁が吹き飛ぶ。


騎士が即座に回避する。


だが。


現れた“それ”を見て、全員がわずかに沈黙した。


巨大な鎧。


全身が金属。


赤い単眼。


そして、異常な質量。


「…………」


騎士たちが、静かに分析する。


「古代兵器か?」


「王宮地下に?」


「なぜ今まで発見されなかった」


そのとき。


猫が、騎士たちの後ろへ避難した。


完全に守られる気である。


騎士の一人が、小さく息を吐く。


「……姫様が寝ている時間に限って」


面倒事が起きる。


だが。


起きてしまったものは仕方ない。


古代兵器が、ゆっくりと腕を上げる。


赤い光が強くなる。


「対象排除ヲ開始」


騎士たちが、一斉に武器を抜いた。


静かな夜勤は――終わった。



「対象排除ヲ開始」


赤い単眼が、不気味に光る。


次の瞬間。


古代兵器の腕が、騎士たちへ振り下ろされた。


轟音――


……になるはずだった。


「静かに」


騎士の一人が、低く言う。


同時に。


別の騎士が、剣を差し込む。


衝撃を逸らす。


床へ流す。


ドゴォッ!! という破壊音が、ゴッ……くらいまで抑え込まれた。


異常技術である。


猫が、ぽかんとしていた。


(なにこれ)


騎士たちは、本気だった。


敵ではなく。


“騒音対策”に。


「姫様は、お休み中だ」


「絶対に起こすな」


「上階への振動を抑えろ」


会話がおかしい。


だが、全員真剣だった。


古代兵器が、再び腕を展開。


今度は胸部装甲が開く。


赤い光。


魔力砲。


「高出力反応」


「撃たせるな」


瞬間。


騎士たちが消える。


一人が砲口へ剣を突き刺す。


一人が関節を破壊。


さらに別の騎士が、本体を壁へ押し込む。


ドゴォン!!!!


……という衝撃を。


魔法障壁で包み込み、外へ漏らさない。


猫が、完全に引いていた。


(この人たち怖……)


古代兵器が、赤い光を明滅させる。


「理解不能」

「理解不能」


「対象戦闘能力修正」


すると。


地下通路の奥。


さらに複数の赤い光が点灯した。


騎士たちが、無言で見る。


一体。


二体。


三体。


ぞろぞろ出てくる。


猫が、小さく鳴いた。


「にゃ……」


完全に「やばい」を理解していた。


騎士の一人が、小さくため息を吐く。


「増えたな」


「面倒ですね」


「ですが」


全員が、静かに武器を構える。


「姫様は起こせない」


優先順位がおかしい。


次の瞬間。


地下空間で、超高速戦闘が始まった。


剣閃。


衝撃。


魔力。


本来なら王宮が吹き飛ぶレベルの戦闘。


だが――


異様に静かだった。


騎士たちは。


壁へ衝撃を逃がし。


魔力を吸収し。


振動を相殺しながら戦っている。


もはや職人芸だった。


猫は、騎士たちの後ろで完全に観客になっている。


(……意味わかんない)


古代兵器の腕が飛ぶ。


騎士が斬る。


別個体が突撃。


カウンター。


壁へ叩き込む。


しかし。


音は最小限。


「右から来ます」


「確認」


「魔力炉を潰せ」


「静かにな」


「当然です」


会話が全部おかしい。


だが。


問題が起きた。


地下奥。


さらに巨大な扉が開く。


ゴゴゴゴ……。


騎士たちが、わずかに止まる。


そして。


奥から現れたのは――


今までの倍以上ある、超大型古代兵器だった。


猫の毛が、ぶわっと逆立つ。


「にゃぁ!?」


大きい。


明らかに大きい。


しかも。


「殲滅形態起動」


嫌な単語が聞こえた。


超大型兵器の胸部が展開。


内部に、とんでもない量の魔力が集まる。


騎士たちの空気が、変わった。


「……まずいな」


「この出力は抑えきれません」


「上階が吹き飛びます」


つまり。


姫が起きる。


騎士たちが、初めて本気で困った顔をした。


そのとき。


ふわぁ……と。


小さな欠伸が聞こえた。


全員が、固まる。


地下入口。


そこに――


寝間着姿のレシティアが立っていた。


髪も少し乱れている。


眠そう。


猫が、目を見開く。


(姫様!?)


騎士たちが、一斉に膝をつく。


「申し訳ありません」


「起こしてしまいました」


「処理に時間がかかり――」


「……何してるの?」


姫は、眠そうな目で地下を見る。


大量の古代兵器。


ボロボロの地下通路。


騎士団。


そして。


超大型兵器。


数秒、沈黙。


その間にも。


超大型兵器の魔力が膨れ上がっていく。


「殲滅砲、発射――」


その瞬間。


レシティアが、ぱちりと瞬きをした。


「止まりなさい」


静かな声。


次の瞬間。


古代兵器の動きが――完全停止した。


沈黙。


猫が、固まる。


騎士たちも、少しだけ目を瞬かせる。


超大型兵器は、そのまま数秒停止し――


ボン、と煙を出した。


機能停止。


完全沈黙。


地下空間が、静まり返る。


レシティアは、小さく欠伸をする。


「……うるさかったわ」


そのまま踵を返す。


数歩歩き。


ふと止まる。


振り返る。


「あと、地下にこんなの置かないようにして」


「危ないでしょう?」


誰に言っているのかもわからない言葉だった。


そして。


そのまま去っていく。


寝ぼけたまま。


静寂。


猫が、ぽつりと呟いた。


「……え?」


騎士たちは、静かに頭を下げる。


「さすが姫様」


「お見事でした」


「問題解決ですね」


猫は、完全に理解が追いついていなかった。


(いや何したの!?)


一方その頃。


翌朝には。


「姫様が寝起きで古代兵器軍団を停止させた」


という噂が、王宮中へ広がっていた。


なお。


本人は、まったく覚えていない。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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