神代最後の王
目が、開いた。
それだけで。
世界が軋んだ。
ドクン――と。
空間そのものが脈打つ。
巨大な黒い扉が、ゆっくりと震え始める。
猫の王女が、思わず後退した。
「っ……!」
呼吸が、苦しい。
立っているだけで、本能が叫ぶ。
逃げろ、と。
近づくな、と。
だが。
レシティアだけは、動かなかった。
静かに。
ただ、“奥”を見ている。
研究官は、恍惚とした笑みを浮かべた。
「感じますか?」
両腕を広げる。
「これこそ究極」
「神代を終わらせた王」
「空も、大地も、海も支配した生命」
声が、震えている。
恐怖ではない。
歓喜。
完全に、魅入られていた。
「竜王は、世界そのものだった」
その瞬間。
扉の隙間から、“赤”が見えた。
瞳。
巨大すぎる。
山ほどもある扉の向こうから、なお巨大だとわかるほど。
その視線が――こちらを向く。
ズンッ!!
空間が、沈んだ。
騎士たちが、一斉に前へ出る。
防御。
結界。
魔力障壁。
瞬時に何重もの防御が展開される。
だが。
ヒビが入った。
「……は?」
王女が、凍りつく。
今まで。
騎士たちの防御が崩れたことなど、一度もなかった。
それなのに。
視線だけで。
研究官が、笑う。
「素晴らしい」
うっとりと。
「まだ完全には目覚めていないのに、この力」
レシティアは、静かに問う。
「……あなた、自分で制御できると思っているの?」
研究官が、ぴたりと止まる。
「当然でしょう」
即答。
だが。
その目の奥には、焦りがあった。
レシティアは、見逃さない。
「違うわね」
一歩、前へ。
「あなたはもう、“これ”を止められない」
沈黙。
研究官の笑みが、わずかに歪む。
その瞬間。
扉の奥から、“息”が漏れた。
熱風。
ただの呼吸。
それだけで、壁が溶ける。
王女の顔から、血の気が引いた。
「……冗談でしょ」
騎士たちの空気が、さらに鋭くなる。
今までとは違う。
これは、本当に危険だ。
レシティアは、静かに目を閉じた。
考える。
観察する。
扉。
杭。
封印。
魔力の流れ。
そして――
(……不完全)
気づく。
「まだ、出られないのね」
研究官が、目を見開いた。
レシティアは、扉を見つめたまま続ける。
「封印は壊れかけている。でも、完全ではない」
「だからあなたたちは、“外から”補助していた」
沈黙。
それが、答えだった。
研究官の声が、低くなる。
「……さすがですね」
「ですが、もう遅い」
両手を広げる。
「竜王は目覚める!」
「この世界は、神代へ回帰するのです!」
狂気。
その瞬間。
研究官の足元に、巨大な魔法陣が展開された。
血のような赤。
不吉な紋様。
騎士の一人が、即座に動く。
「姫様!」
「ええ」
理解していた。
あれは。
“鍵”だ。
研究官自身を、生贄にする術式。
「止めるわよ」
次の瞬間。
騎士たちが、一斉に駆けた。
だが――
遅い。
研究官が、笑った。
「栄光を!!」
術式が、完成する。
赤い光が、扉へ流れ込む。
そして。
黒い扉に――ヒビが入った。
空間が、悲鳴を上げる。
ズガァァァァン!!
轟音。
巨大な爪が、扉を内側から叩き割った。
猫の王女が、息を止める。
見えた。
黒い鱗。
山脈のような腕。
そして。
絶望そのもののような圧力。
研究官は、笑っていた。
涙を流しながら。
「美しい……」
だが。
次の瞬間。
その笑みが、凍りつく。
竜王の瞳が。
研究官を見た。
そこに。
感謝も、知性もなかった。
あるのは――
“捕食者”の目。
「……え?」
研究官が、後退する。
ようやく理解した。
自分たちは。
神を復活させたのではない。
ただ。
災厄の封印を、解いただけだと。
レシティアが、小さく呟く。
「だから、言ったでしょう」
その瞬間。
竜王が――動いた。
世界が、砕けた。
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それでは、次の物語でまたお会いしましょう。
姫様、御覚悟を──




