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深層に眠るもの2

騎士団の魔力が解放された瞬間。


森の空気が、一変した。


圧。


見えない何かが、大地そのものを押さえつける。


猫の王女ですら、息を呑んだ。


(……なに、これ)


知っている。


彼らが強いことは。


異常なほど強いことは。


何度も見てきた。


だが――


「今まで、本気じゃなかったの……?」


ぽつりと、漏れる。


その答えのように。


騎士たちが、一斉に動いた。


消える。


そうとしか見えない。


次の瞬間には、超巨大古代種の周囲へ展開していた。


だが。


怪物もまた、異常だった。


咆哮。


空気の砲撃。


衝撃波だけで森が吹き飛ぶ。


木々が宙を舞い、地面が裂ける。


一人の騎士が正面から受け止める。


轟音。


地面が沈む。


だが――止まった。


「……うそ」


王女が、完全に固まる。


都市を消し飛ばせそうな一撃。


それを。


人が、止めた。


しかも。


「押し返してる……?」


騎士は、そのまま踏み込んだ。


地面が砕ける。


超巨大古代種の脚へ、一撃。


今までの個体なら、それで終わっていた。


だが。


今回は違う。


硬すぎる。


山を殴っているような感覚。


それでも。


「左脚、微損確認」


「重心移動開始」


「第二段階へ」


騎士たちは、冷静だった。


すでに分析している。


攻略に移っている。


レシティアは、その中心で静かに立っていた。


視線だけで、戦場を制御している。


(大きい)


(重い)


(でも――)


見えている。


筋肉の動き。


骨格。


魔力の流れ。


そして。


「首の下」


小さく、呟く。


「あそこだけ、少し薄いわね」


その一言。


騎士たちが、即座に反応する。


超巨大古代種が、咆哮。


巨大な尾が振り下ろされる。


空間が歪むほどの一撃。


だが。


騎士たちは止まらない。


一人が跳び。


一人が受け流し。


一人が軌道を逸らす。


連携。


完璧。


その隙に。


レシティアが、動いた。


「――っ!」


王女の目が、見開かれる。


速い。


今までで、一番。


地面を蹴った瞬間、衝撃で周囲が吹き飛ぶ。


空へ。


超巨大古代種の首元へ。


だが。


怪物も反応した。


巨大な顎が、姫へ噛みつく。


「危な――!」


叫びかけた、その瞬間。


ギィン!!


金属音。


騎士の一人が、顎を止めていた。


人間が。


超巨大古代種の噛みつきを。


真正面から。


止めている。


「姫様」


静かな声。


「道は開いております」


レシティアは、小さく頷いた。


「ありがとう」


そして。


さらに加速する。


超巨大古代種の首元。


そこに――


黒い杭のようなものが、埋め込まれていた。


今までの制御装置とは違う。


もっと巨大。


もっと深い。


まるで。


“心臓”に食い込んでいるような。


(……酷い)


姫の目が、わずかに細くなる。


これは制御ではない。


拷問だ。


生命そのものを、無理やり縛っている。


その瞬間。


研究者たちが、叫んだ。


「止めろ!!」

「それは失敗作ではない!!」

「神だぞ!!」


狂気。


完全に。


レシティアは、静かに振り返った。


そして。


「違うわ」


その声は、小さい。


だが。


戦場全体へ届いた。


「生き物よ」


次の瞬間。


姫の魔力が、解放された。


眩い光。


空気が震える。


王女が、息を呑む。


(綺麗……)


思わず、見惚れる。


レシティアは、そのまま杭へ手を伸ばした。


超巨大古代種が、暴れる。


世界が揺れる。


だが。


騎士たちが、押さえる。


支える。


守る。


完全な信頼。


そして――


「もう、終わり」


杭を、砕いた。


轟音。


黒い杭が、粉々になる。


その瞬間。


超巨大古代種の赤い瞳から、光が消えた。


咆哮。


今までとは違う。


怒りでも、破壊でもない。


解放。


長い長い苦痛から、ようやく解き放たれた叫び。


超巨大古代種は、ゆっくりと姫を見る。


そして。


膝をついた。


森が揺れる。


誰も、声を出せなかった。


王女も。


獣人たちも。


研究者たちですら。


ただ。


月光の中に立つ姫を見ていた。


騎士たちに守られながら。


巨大な古代種の前に立つ、その姿を。


まるで。


神話だった。


研究者の一人が、震える声で呟く。


「……姫、ではない」


恐怖に染まった目。


「なんだ、あれは……」


レシティアは、その言葉を聞きながら。


少しだけ困ったように笑った。


「……失礼ね」


本当に。


少ししか、やっていないのだけど。


そのとき。


超巨大古代種が、ゆっくりと空を見上げる。


そして。


静かに、森の奥へ歩き出した。


もう暴れることはない。


大地を揺らしながら。


本来眠るべき場所へ、帰っていく。


静寂。


そして――


歓声が、上がった。


「姫様だ!!」

「姫様が止めた!!」

「古代の神を従わせたぞ!!」


完全な誤解。


だが。


否定できる者はいなかった。


王女は、そんな姫を見ながら。


顔を覆う。


「……もうだめ」


小さく呟く。


「好きすぎる……」


騎士たちは、静かに視線を逸らした。


本当に慣れている。


そして。


《深層の牙》。


その壊滅した研究施設のさらに奥で――


誰も知らない“最後の扉”が、ゆっくりと開き始めていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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