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深層に眠るもの

古代飛竜種との戦いから、三日後。


獣人の国は、まだ騒然としていた。


当然だ。


空を覆うほどの古代種。


それを止めた姫と騎士団。


噂は、すでに国境を越え始めている。


「“空の王ですら姫様に跪いた”らしい」

「いや、“姫様が空を飛んだ”」

「古代竜を従魔にしたという話も――」


「違うわよ」


レシティアは、小さくため息を吐いた。


王女の屋敷の一室。


テーブルには茶器が並び、穏やかな空気が流れている。


……はずだった。


「でも飛んでたよ?」


猫の王女が即座に言い返す。


「飛んでないわ。跳んだだけ」


「いや飛んでたって」


「跳躍よ」


「飛行だった」


「違うわ」


真顔で否定する姫。


王女は、じーっと見つめる。


(かわいい)


だめだった。


何をしても好きになってしまう。


完全に重症である。


騎士たちは、静かに紅茶を飲んでいた。


慣れている。


そのとき。


コンコン、と扉が鳴る。


空気が変わった。


入ってきた騎士の表情が、わずかに硬い。


「姫様」


短い声。


それだけで、レシティアの空気が切り替わる。


「何かあったのね」


「はい」


騎士は、一枚の紙を差し出した。


そこには、地図が描かれている。


獣人国東部。


さらに奥。


未開区域。


「《深層の牙》の研究施設を発見しました」


王女の耳が、ぴくりと動く。


「まだあったの?」


「複数あります」


静かな返答。


だが、その内容は重い。


「飛竜種は、その一部に過ぎません」


沈黙。


レシティアは、地図を見つめる。


印が、複数ある。


つまり。


古代生物は、一体ではない。


「……どこまで掘り起こしているのかしら」


ぽつりと、呟く。


そのとき。


別の騎士が、低く言った。


「問題は、そこではありません」


空気が、さらに重くなる。


「施設の最深部に、“巨大な空洞”があります」


「空洞?」


王女が首をかしげる。


騎士は頷いた。


「まるで、何かを収容するためのような」


レシティアの目が、細くなる。


嫌な予感。


今までの古代種ですら、災害級だった。


だが。


もし。


“収容されていたもの”が、さらに上なら。


そのときだった。


――ズン。


地面が、揺れた。


茶器が震える。


王女が、即座に立ち上がる。


「今の……!」


騎士たちも、一瞬で警戒態勢へ入る。


だが。


揺れは、一度では終わらなかった。


ズン。


ズン。


ズン。


まるで。


何か巨大なものが、歩いている。


しかも――


近づいている。


「……外ね」


レシティアが、静かに窓を見る。


次の瞬間。


遠くで、悲鳴が上がった。


「来たぞ!!」

「森が――!!」


轟音。


木々が、一斉になぎ倒される。


王女が窓を開く。


そして――固まった。


森の奥。


木々よりも高い影。


いや。


“山”そのものが動いているように見えた。


四本脚。


異常に長い尾。


巨大な背。


そして。


首。


空へ届きそうなほど長い、超巨大な首。


「……なに、あれ」


声が、震える。


今までで最大。


比較にならない。


あまりに巨大すぎて、生物に見えない。


その怪物が。


ゆっくりと、こちらを向いた。


「……まさか」


レシティアが、小さく呟く。


騎士たちの空気が、完全に変わる。


今までで、最も鋭い。


「姫様」


一人が、静かに言う。


「これは、“都市級”です」


つまり。


放置すれば、国が消える。


その瞬間。


森の奥から、魔力反応。


複数。


研究者たち。


彼らは、逃げていない。


むしろ。


歓喜していた。


「成功だ……」

「ついに……」

「ついに目覚めた!!」


狂気。


完全に。


そして。


超巨大古代種が――咆哮した。


空気が、砕ける。


森が、吹き飛ぶ。


王女は、本能的に理解した。


これは。


“災害”だ。


だが。


その隣で。


レシティアだけは、静かだった。


むしろ。


ほんの少しだけ、目を細める。


「……なるほど」


観察している。


分析している。


恐怖ではなく。


“攻略法”を考えている目。


王女の心臓が、大きく跳ねた。


(この人、本当に何なの……)


そのとき。


姫が、静かに前へ出る。


「皆」


その一言で。


騎士たちの空気が、揃う。


完全な統一。


絶対の信頼。


そして。


レシティアは、超巨大古代種を見上げながら。


静かに、笑った。


「少しだけ、本気でいきましょうか」


その瞬間。


騎士団の魔力が、一斉に解放された。


森が――震えた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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