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空の支配者

咆哮。


洞窟が、揺れた。


古代飛竜種の叫びは、ただの音ではない。


衝撃そのものだった。


岩壁が砕け。


天井から無数の石が落下する。


猫の王女が、とっさに耳を押さえる。


「っ……!!」


痛い。


鼓膜が震える。


本能が理解してしまう。


“勝てない”。


あれは、生物として完成しすぎている。


だが。


「落ち着いて」


静かな声。


レシティアだった。


それだけで、不思議と呼吸が戻る。


王女は、思わず姫を見る。


その横顔は――


いつも通りだった。


恐怖も、焦りもない。


ただ、静かに敵を見ている。


(……なんでそんな平然としてるの)


胸が、熱くなる。


研究者が、愉快そうに笑った。


「素晴らしいでしょう!」


両手を広げる。


「これこそ究極!」


「大地を支配した獣! 空を支配した竜!」


「次は海です!」


完全に狂っていた。


「古代こそ完成された時代なのです!」


レシティアは、静かに目を細める。


「なるほど」


小さく、頷く。


「つまり、あなたたちは」


一歩、前へ。


「世界を滅ぼしたいのね」


空気が、変わった。


研究者の笑みが、わずかに歪む。


「理解できぬ者には――」


「理解しているわ」


遮る。


その声は、静かだった。


だが。


騎士たちの空気が、一瞬で変わる。


殺気。


洞窟の温度が、下がったように錯覚するほどの圧。


研究者が、一歩下がる。


本能だった。


「だからこそ、止めるの」


次の瞬間。


飛竜種が、動いた。


巨大な翼が広がる。


轟音。


暴風。


それだけで木々なら吹き飛ぶ。


だが――


騎士たちは、動じない。


「右翼へ集中」


「視界を切ります」


「足場崩壊に注意」


短い言葉。


次の瞬間。


全員が、同時に動いた。


速い。


王女の視界から、完全に消える。


飛竜種の爪が振り下ろされる。


地面が砕ける。


だが、その瞬間には、騎士たちは別位置へ移動している。


一人が翼を斬る。


一人が脚を削る。


一人が飛行を阻害。


完璧な連携。


「……うそでしょ」


王女が、呆然と呟く。


相手は古代の怪物だ。


それなのに。


押している。


しかも――


「まだ余裕ある……?」


見えてしまった。


騎士たちが、“本気ではない”。


完全に制御している。


そのとき。


飛竜種の目が、赤く染まった。


魔力暴走。


洞窟内の空気が、一気に膨れ上がる。


研究者が、歓喜した。


「来る!!」


次の瞬間。


飛竜種が――飛んだ。


洞窟を突き破りながら。


轟音。


天井が崩壊する。


空が見える。


そして。


巨大な影が、夜空へ躍り出た。


「まずい!」


王女が叫ぶ。


「あれが外に出たら――」


被害は、国単位。


だが。


姫は、静かだった。


空を見上げる。


巨大な飛竜。


月を覆うほどの影。


その姿を見て――


「……綺麗ね」


ぽつりと、そう言った。


王女が、固まる。


(この状況で!?)


だが。


次の瞬間。


姫が、空へ飛んだ。


「は?」


意味がわからない。


地面を蹴っただけ。


それだけで。


人間が届く高さではない。


なのに。


夜空へ。


飛竜種へ。


一直線。


騎士たちも、同時に動く。


魔法。


跳躍。


崩れた岩を足場に、次々と上空へ。


空中戦。


常識外れ。


飛竜種が咆哮し、炎を吐く。


空が赤く染まる。


だが。


姫は、その炎の中を突き抜けた。


「――そこ」


一瞬。


飛竜種の首元。


以前の個体と同じ。


黒い制御装置。


そこへ――


手を伸ばす。


飛竜種が暴れる。


空気が裂ける。


普通なら、触れる前に吹き飛ぶ。


だが。


騎士たちが、道を作った。


一人が翼を止め。


一人が視線を引き。


一人が魔力の流れを断つ。


完全な補助。


完全な信頼。


そして。


レシティアが――制御装置へ触れた。


「もう、終わりよ」


魔力が、流れる。


分解。


破壊。


黒い装置が、砕け散った。


その瞬間。


飛竜種の赤い瞳が、ゆっくりと元へ戻る。


咆哮。


だが、それは怒りではない。


解放。


長い苦痛から解き放たれた、生物の叫び。


飛竜種は、静かに姫を見る。


そして。


巨大な翼を、一度だけ広げた。


まるで――礼をするように。


そのまま。


夜空の彼方へ飛び去っていく。


静寂。


誰も、動けなかった。


研究者だけが、呆然と空を見ている。


「……ありえない」


震える声。


「古代種を……従わせた……?」


違う。


実際には、解放しただけ。


だが。


そんなことを理解できる者はいない。


猫の王女も。


獣人たちも。


研究者たちですら。


ただ――


夜空に立つ姫だけを見ていた。


月を背に。


騎士たちに囲まれながら。


静かに立つ、その姿を。


王女の心臓が、大きく跳ねる。


(……だめ)


思ってしまう。


(好きすぎる)


完全に、終わっていた。


そのとき。


姫が、ゆっくりと振り返る。


王女と、目が合う。


そして。


いつものように、やさしく笑った。


「怪我はない?」


その一言で。


王女は、顔を覆った。


「むり……」


小さな声。


「かっこよすぎ……」


騎士たちは、静かに目を逸らした。


慣れている。


一方。


《深層の牙》の研究者たちは、崩壊していた。


古代生命を支配するはずだった。


だが現実は。


“姫”に、すべてを奪われた。


そして。


彼らは、まだ知らない。


世界のさらに奥底で――


もっと危険な“古代”が目覚め始めていることを。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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