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姫様は休めない

「姫様」


朝。


書類の山を前にしていたレシティアは、静かに顔を上げた。


騎士の一人が、一通の封筒を差し出している。


「獣人の国より」


その瞬間。


姫は、ほんの少しだけ目を細めた。


(……早いわね)


封を切る。


中身を見る。


そして。


「……ふふ」


小さく、笑った。


珍しい反応だった。


騎士たちの視線が、わずかに集まる。


「何か問題でも?」


「いいえ」


姫は、静かに手紙を閉じる。


「少し、賑やかなだけよ」


だが。


耳は、ほんの少しだけ赤かった。


一方その頃。


獣人の国。


猫の王女は、机に突っ伏していた。


「返事まだかな……」


完全に重症である。


侍女たちは、もはや何も言わない。


言っても無駄だと学習した。


そのとき。


「王女様!」


兵士が駆け込んでくる。


慌てた様子。


空気が変わる。


王女は、すぐに顔を上げた。


「どうしたの?」


「東部森林地帯にて、異常な地鳴りが発生!」


その一言で。


場の空気が、一気に張り詰める。


「……また?」


王女の顔から、笑みが消える。


兵士は頷いた。


「しかも今回は、“地下”からです」


沈黙。


嫌な予感しかしない。


「確認できた生物は?」


「まだ……ですが」


兵士の声が、わずかに震える。


「森そのものが、動いているようだと」


その瞬間。


王女は立ち上がっていた。


「場所は!?」


数時間後。


レシティアたちは再び、獣人の国へ到着していた。


異常な速さだった。


王女は、思わず固まる。


「……来るの早くない?」


姫は、少しだけ首をかしげる。


「呼ばれたから」


さらりと言う。


だが。


王女の心臓には致命傷だった。


(だめだ好き)


顔を逸らす。


耳が赤い。


騎士たちは、静かに目を逸らした。


慣れている。


「状況は?」


姫が問う。


王女は、すぐに切り替える。


「東部森林の奥。近づいた部隊が、何人か戻ってない」


「地面が崩れてる。森の動物も全部逃げてる」


「……嫌な感じ」


レシティアは、静かに頷く。


そして。


騎士の一人が、地面に手を触れた。


数秒。


その表情が、わずかに変わる。


「姫様」


「ええ」


「地下に、“空洞”があります」


王女が、目を見開く。


「地下……?」


「かなり大規模です」


さらに別の騎士が、低く言う。


「人工的な痕跡も」


空気が、凍る。


つまり。


誰かが。


地下で。


何かをしている。


「《深層の牙》ね」


姫が、静かに呟いた。


あの研究機関。


終わっていなかった。


むしろ――


本番は、ここから。


「行きましょう」


その一言で、全員が動く。


森の奥へ。


さらに深く。


やがて。


地面が、大きく裂けている場所へ辿り着く。


巨大な穴。


その奥から、熱気が吹き上がっている。


そして。


聞こえる。


低い。


重い。


呼吸音。


ドクン。


ドクン。


まるで、大地そのものが脈打っているような音。


王女の耳が、ぴたりと伏せられる。


「……下にいる」


姫は、穴の奥を見つめる。


暗闇。


だが。


そのさらに奥で――


“巨大な瞳”が開いた。


ゾッ――と空気が震える。


今までとは違う。


格が違う。


そこにいたのは。


巨大な翼を持つ、古代の怪物だった。


竜のような頭部。


岩山のような身体。


そして。


折り畳まれた翼だけで、周囲の壁面を埋め尽くしている。


猫の王女が、息を呑む。


「……飛ぶの?」


その瞬間。


奥から、笑い声が響いた。


「ええ」


現れたのは、《深層の牙》の研究者たち。


その中央に立つ、白衣の男が笑う。


「ついに完成したのですよ」


恍惚とした目。


狂気に満ちた顔。


「空の支配者――古代飛竜種」


その言葉と同時に。


巨大な翼が、ゆっくりと開いた。


洞窟全体が揺れる。


風圧。


轟音。


そして。


赤い瞳が、姫たちを捉えた。


研究者が、笑う。


「さあ」


両手を広げる。


「見せてください、姫」


「あなた方は、“神話”を超えられるのかを」


次の瞬間。


古代飛竜種が――咆哮を上げた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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