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古代は眠っていない3

咆哮。


空気が、裂けた。


超巨大な恐竜型生物――古代生命は、大地を揺らしながら前進する。


その一歩だけで、木々が倒れる。


圧倒的な質量。


圧倒的な暴力。


だが。


「――散開」


姫の一言で、騎士たちが消えた。


本当に、“消えた”ように見えた。


速すぎる。


巨大生物が反応するより先に、騎士たちはすでに周囲へ展開している。


一人が脚部へ。


一人が背後へ。


一人が首元へ。


そして。


「……っ!!」


金属音。


騎士の斬撃が、硬質な鱗へ叩き込まれる。


だが――浅い。


火花だけが散る。


「硬いわね」


レシティアが、静かに呟く。


通常の魔物とは構造そのものが違う。


筋肉密度。


骨格。


皮膚。


どれも異常。


まさしく、“生態系の王”。


そのとき。


巨大生物の尾が、薙ぎ払われた。


轟音。


森が吹き飛ぶ。


騎士の一人が跳躍し回避するが、その余波だけで地面が砕ける。


猫の王女が、思わず叫んだ。


「ちょ、待って、何あれ!?」


速い。


巨大なのに。


ありえない速度。


だが。


騎士たちは、止まらない。


むしろ――


動きが、洗練されていく。


「右脚、負荷集中」


「視界誘導開始」


「首元の制御装置を確認」


短い言葉。


最小限。


それだけで、全員が理解する。


次の瞬間。


一人が正面へ飛び出した。


囮。


巨大生物の視線を引きつける。


同時に、左右から別の騎士たちが脚部を攻撃。


バランスが、わずかに崩れる。


そこへ。


さらに追撃。


完璧な連携。


「……うそ」


猫の王女が、呆然と呟く。


強い。


では済まない。


これはもう――


「軍隊じゃん……」


いや。


軍隊以上だ。


全員が、一騎で戦場を変えられる。


それが連携している。


しかも。


中心には――


姫がいる。


レシティアは、静かに戦場を見ていた。


騎士たちの位置。


巨大生物の重心。


筋肉の動き。


制御装置の魔力流。


そのすべてを、一瞬で把握する。


(……見えた)


突破口。


「左へ誘導して」


短く告げる。


騎士たちが即座に動く。


巨大生物の向きが、変わる。


その瞬間。


姫が、踏み込んだ。


速い。


猫の王女ですら、視界から消える速度。


地面を蹴る。


空気を裂く。


一直線。


巨大生物の懐へ。


「――っ!!」


古代生命が咆哮を上げる。


迎撃。


巨大な爪が振り下ろされる。


だが。


姫は止まらない。


半歩。


紙一重で避ける。


さらに踏み込む。


その動きは、恐ろしく静かだった。


無駄がない。


恐れがない。


ただ、最適。


(……綺麗)


猫の王女が、思わず見惚れる。


戦っているのに。


なぜこんなにも、美しいのか。


レシティアは、そのまま跳躍した。


視線の先。


首元。


埋め込まれた黒い制御装置。


(あれを壊す)


だが。


その瞬間。


「させませんよ」


男の声。


古代研究機関《深層の牙》の研究者。


魔法陣が展開される。


無数の鎖。


姫を拘束するための魔術。


空中では避けられない。


――はずだった。


「……遅いわ」


姫が、静かに言った。


次の瞬間。


鎖が、切断される。


研究者の目が、見開かれる。


いつの間にか。


騎士の一人が、すでに背後へ回っていた。


「な――」


最後まで言えない。


首元へ、一撃。


研究者が崩れ落ちる。


同時に。


姫が、制御装置へ到達した。


掌を当てる。


魔力を流す。


解析。


分解。


そして――


「壊れなさい」


一撃。


衝撃。


黒い装置が、砕け散る。


その瞬間。


巨大生物の動きが、止まった。


赤かった瞳が、ゆっくりと色を失う。


咆哮。


だがそれは、怒りではない。


苦しみ。


長い間、無理やり縛られていた存在の悲鳴。


レシティアの目が、わずかに細くなる。


(……そう)


「あなたも、被害者なのね」


その声は、小さかった。


だが。


巨大生物は、確かに姫を見た。


そして。


ゆっくりと、膝をつく。


森が揺れる。


静寂。


猫の王女が、息を呑む。


「……え」


ありえない。


古代の怪物が。


あの存在が。


姫の前で、頭を垂れている。


「う、そ……」


胸が、苦しい。


さっきからずっと。


目が離せない。


強い。


綺麗。


優しい。


しかも、本人は無自覚。


(……好き)


完全に、落ちていた。


そのとき。


巨大生物が、静かに空を見上げる。


そして――


森の奥へ、ゆっくりと歩き出した。


もう、暴れる気配はない。


猫の王女が、呆然と呟く。


「帰る……?」


レシティアは、静かに頷く。


「ええ」


「本来、眠っているべき場所へ」


その背後で。


騎士たちが静かに立っている。


戦闘は、終わった。


完全勝利。


だが。


兵も、獣人たちも、誰一人として詳細を理解できていなかった。


だから。


残るのは、ただ一つの“結果”。


「姫様が……」

「古代の怪物を従わせた……」


ざわめき。


畏怖。


伝説。


そして。


猫の王女は、そんな姫を見つめながら。


小さく笑った。


「……ほんと、ずるいなあ」


誰にも聞こえない声。


だが。


その瞳は、完全にレシティアだけを映していた。


そして――


古代研究機関《深層の牙》。


その残党は、まだどこかにいる。


世界の奥底で。


さらに危険な“何か”を目覚めさせながら。


物語は、まだ終わらない。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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