古代は眠っていない2
森の奥へ進むほど、空気は重くなっていった。
木々は折れ。
地面は抉れ。
まるで“何か巨大なもの”が無理やり通ったような痕跡が続いている。
その中央を、レシティアたちは駆けていた。
騎士たちは音もなく周囲を警戒し、猫の王女は枝の上を軽やかに移動する。
そして――
「止まって」
姫が、静かに言った。
全員が止まる。
その瞬間。
地面が、震えた。
ドン。
ドン。
ドン。
一定の間隔。
重い。
まるで山そのものが歩いているような振動。
猫の王女の耳が、ぴたりと伏せられる。
「……近い」
騎士たちの気配が、一気に鋭くなる。
レシティアは、ゆっくりと前を見る。
その先。
木々の向こうに――“壁”があった。
最初、そう見えた。
だが違う。
それは。
生きていた。
巨大な脚。
黒緑色の鱗。
木々より高い体躯。
そして、ゆっくりと持ち上がる長い首。
「……嘘」
猫の王女が、呆然と呟く。
それは、巨大だった。
今までの個体とは比較にならない。
十数メートル。
いや、もっとある。
存在感だけで森が沈む。
そして。
その眼が――こちらを向いた。
圧。
空気が、凍る。
生物としての格が違う。
ただそこにいるだけで、本能が警鐘を鳴らす。
「……これが、“山を食べる獣”」
王女の声が、わずかに震える。
だが。
姫だけは、静かだった。
観察している。
目。
皮膚。
動き。
呼吸。
そのすべてを。
(……おかしい)
違和感。
決定的な何か。
そして、気づく。
「あれ」
小さく呟く。
「首輪?」
猫の王女が目を見開く。
よく見ると。
巨大生物の首元には、黒い金属のようなものが埋め込まれていた。
しかも。
そこから、魔力が流れている。
(……制御装置)
その瞬間。
森の奥から、笑い声が響いた。
「素晴らしい」
低い男の声。
木々の間から、人影が現れる。
黒い外套。
奇妙な紋章。
そして、狂気じみた目。
「さすがは第三姫」
男は、ゆっくりと拍手した。
「ここまで早く辿り着くとは思いませんでした」
騎士たちが、一斉に前へ出る。
だが。
男は笑ったまま。
「警戒しなくて結構」
その視線は、巨大生物へ向いている。
まるで、愛おしい作品を見るように。
「美しいでしょう?」
狂っている。
誰もが、そう理解した。
「古代生命」
「失われた時代の支配者」
男は両手を広げる。
「魔物などではない。“本物”です」
誇るように。
酔うように。
「我々は掘り起こしたのです」
「神話の時代を」
レシティアは、静かに目を細めた。
「……我々?」
男は、にやりと笑う。
「古代研究機関《深層の牙》」
その名を口にした瞬間。
騎士たちの空気が変わる。
知っている。
あるいは――記録にある。
禁忌に触れた集団。
古代遺跡。
失われた技術。
危険思想。
「あなたたちが、これを?」
「ええ」
男は、嬉しそうに頷いた。
「素晴らしいでしょう」
巨大生物を見上げる。
「ああ……完璧だ」
「この力こそ、世界を変える」
猫の王女が、吐き捨てるように言う。
「頭おかしいよ」
「理解できぬ者には、そう見えるでしょう」
男は平然と返した。
そして。
レシティアへ視線を向ける。
「ですが、姫」
笑う。
「あなたなら、わかるはずだ」
「この存在の価値が」
沈黙。
森が、揺れる。
巨大生物が低く唸る。
だが。
レシティアは、ただ静かに答えた。
「ええ」
男の目が、わずかに輝く。
しかし。
次の言葉で、凍りついた。
「だからこそ、放置できないわ」
空気が、変わる。
騎士たちの殺気が、一斉に解放される。
森が震える。
猫の王女ですら、息を呑むほどの圧。
男の笑みが、わずかに歪んだ。
「……なるほど」
だが。
それでも笑う。
「では、試してみましょう」
ゆっくりと手を上げる。
その瞬間。
巨大生物の目が、赤く染まった。
咆哮。
森そのものが揺れる。
大地が裂ける。
超巨大な恐竜型生物が――動き出した。
「――来るわよ」
姫の声。
それと同時に。
騎士団が、一斉に駆けた。
古代。
禁忌。
そして、怪物。
王国最強の騎士団と姫が――
真正面から、それを迎え撃つ。
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姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。
それでは、次の物語でまたお会いしましょう。
姫様、御覚悟を──




