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古代は眠っていない

獣人の国の夜は、人の国とは違っていた。


風が近い。


森の呼吸が聞こえる。


王族用に用意された部屋の窓を開けながら、レシティアは静かに目を細めた。


(……妙ね)


違和感が、残っている。


昼に討伐した“あの生物”。


あれは、ただ強いだけではなかった。


「レシティア」


背後から声。


振り返ると、猫の王女が窓枠に座っていた。


いつの間に入ったのか、まるで気配がない。


月明かりを受けた金色の瞳が、じっと姫を見つめている。


「……普通に扉から入りなさい」


「開いてなかった」


悪びれない。


姫は小さく息を吐いた。


「それで?」


王女は、少しだけ真面目な顔になる。


「森が騒がしい」


その一言で、空気が変わる。


「騒がしい?」


「うん。獣たちが落ち着いてない」


窓から外を見る。


暗い森。


だが、その奥に“何か”がいる。


そんな感覚。


「昼のやつだけじゃないよ」


王女の耳が、ぴくりと動く。


「もっといる」


沈黙。


レシティアは、静かに目を閉じた。


感覚を広げる。


魔力の流れ。


地面の震え。


森の呼吸。


そして――


(……本当にいるわね)


一つではない。


複数。


しかも。


「移動している……?」


ただ暴れているだけではない。


何かを探すように。


あるいは――


「誘導されてる?」


ぽつりと呟く。


その瞬間。


王女の視線が変わった。


「……やっぱり、そう思う?」


「ええ」


レシティアは頷く。


「あの生物たち、“自然”じゃない」


普通の魔物なら、もっと魔力が濁る。


本能的で、荒れている。


だが、あれは違った。


生命として、完成されすぎている。


まるで――


「昔から、そこにいた生き物みたいだった」


王女が、小さく言う。


レシティアは、その言葉に反応した。


「……昔?」


王女は、少しだけ迷うように目を逸らし。


それでも、話し始めた。


「うちの国にね、古い話があるの」


夜風が、静かに吹く。


「昔々、世界が今よりもっと荒れてた頃」


「森には、“山を食べる獣”がいたって」


「空を覆う翼、森を踏み潰す脚、大地を揺らす咆哮」


その声は、どこか昔話を読むようだった。


だが。


「みんな、おとぎ話だと思ってた」


王女は、真っ直ぐ姫を見る。


「今日までは」


静寂。


レシティアは、ゆっくりと考える。


もし本当に。


あれが“古代の生物”だとしたら。


なぜ今、現れた?


なぜ、動いている?


そして――


誰が?


「姫様」


背後から、騎士の声。


振り返る。


そこには、いつの間にか戻っていた騎士たちが立っていた。


そのうちの一人が、静かに報告する。


「森の奥で、大規模な地殻変動を確認しました」


「地下から、何かが出てきています」


空気が、重くなる。


「規模は?」


「……巨大です」


短い返答。


だが、それだけで十分だった。


王女の耳が、ぴたりと止まる。


「……ねえ」


少しだけ、硬い声。


「それって」


次の瞬間。


――ドォン!!


大地が、揺れた。


窓が震える。


遠くで、木々が一斉に倒れる音。


そして。


空気を裂くような咆哮。


今までの個体とは、比べものにならない。


圧力。


本能が理解する。


“格”が違う。


レシティアは、静かに立ち上がった。


「……来たわね」


その瞳に、鋭い光が宿る。


王女も、すでに戦う顔になっていた。


「森の奥だ」


騎士の一人が言う。


「急ぐ必要があります」


「ええ」


姫は、短く頷く。


そのとき。


別の騎士が、静かに口を開いた。


「ただ――妙です」


「何が?」


「その咆哮と同時に、“人の魔力反応”を確認しました」


沈黙。


姫の目が、細くなる。


「……人?」


「はい」


つまり。


あの生物は、偶然現れたのではない。


誰かが、いる。


誰かが――


“古代”を掘り起こしている。


レシティアは、ゆっくりと森の奥を見つめた。


暗い闇。


その奥で。


何かが、目覚めている。


「行きましょう」


静かな声。


だが、その一言だけで。


騎士たちの空気が、変わる。


王女も、口元を吊り上げた。


「ふふ」


楽しそうに。


「ほんと、退屈しないね」


そして。


姫と騎士団。


猫の王女。


彼らは、森の最深部へ向かう。


そこには――


“この時代に存在してはいけないもの”が待っていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、感想やフォロー、SNSでの応援など大歓迎です!

姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。


それでは、次の物語でまたお会いしましょう。

姫様、御覚悟を──

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