猫の王女は姫様を選ぶ
「私、ついていくね」
その一言で、空気が止まった。
レシティアは、わずかに目を瞬かせる。
(……え?)
予想外すぎた。
隣で、騎士たちは無言。
止めない。
助けない。
(……こういうとき、何か言いなさいよ)
内心でだけ、そう思う。
猫の少女は、じっと姫を見つめている。
冗談ではない。
本気の目。
だが。
「……それは、難しいわね」
姫は、やさしく言った。
拒絶ではない。
否定でもない。
ただ、事実として。
少女の耳が、ぴくりと動く。
「どうして?」
少しだけ、不満そうな声。
姫は、ゆっくりと視線を周囲へ向ける。
森。
大地。
そして――この国。
「あなたには、守るべき場所があるでしょう?」
その一言で。
少女の表情が、変わった。
「……」
言葉に詰まる。
だが、否定はしない。
できない。
「ここは、あなたの国よ」
静かに、続ける。
「あなたがいなくなれば、困る人がいる」
猫の少女は、黙り込む。
その様子を見て、姫は少しだけ微笑んだ。
「だから」
一歩、近づく。
「ついてくる必要はないわ」
やさしく。
けれど、はっきりと。
その代わりに――
「必要なときは、力を貸して」
まっすぐ、目を見て言う。
「私も、あなたに協力する」
対等な言葉。
命令でも、お願いでもない。
約束。
少女の瞳が、揺れる。
(……ずるい)
胸の奥が、ぎゅっとなる。
ついていきたい。
ずっと近くにいたい。
そう思ってしまう。
でも。
「……ほんとに?」
小さく、確認する。
姫は、迷わず頷いた。
「ええ」
それだけで、十分だった。
少女は、ふっと息を吐いて――
「……じゃあ、いいや」
少しだけ、照れたように笑う。
「その代わり、ちゃんと来てよね」
指を向ける。
「呼んだら、すぐ」
(……強気ね)
だが、嫌ではない。
むしろ――
「ええ、約束するわ」
姫は、静かに頷いた。
その瞬間。
猫の少女の顔が、ぱっと明るくなる。
「よし!」
くるりと振り返る。
その動きは、やはり軽やかで。
「じゃあ、案内するよ」
森の奥へ、歩き出す。
「うちの国、ちゃんと見てって」
当然のように。
その言葉に、姫は一瞬だけ目を細めた。
(……歓迎、ということね)
しばらく進むと。
景色が、大きく変わった。
木々の間に、建造物が見え始める。
自然と一体化したような構造。
石と木とが組み合わさり、どこかしなやかで、無駄がない。
そして――
気配。
無数の視線。
だが今度は、敵意はない。
むしろ――
「……姫様」
「ええ」
わかる。
歓迎されている。
猫の少女が、胸を張る。
「ここが、私の国」
振り返る。
少しだけ誇らしげに。
「獣人の国――その中でも、猫の一族の領域」
そして。
当然のように言った。
「私は、その王女」
(……やっぱりね)
姫は、内心で頷く。
ただの案内役ではないとは思っていた。
だが。
「そう」
それだけを、受け入れる。
特別扱いはしない。
それが、少女には心地よかった。
「驚かないんだ」
少しだけ、不満そうに言う。
「想像はしていたもの」
姫は、微笑む。
その態度に。
また、胸がざわつく。
(……やっぱり、好きだなこの人)
自覚する。
はっきりと。
だが――
それを口にはしない。
代わりに。
「ねえ、レシティア」
名前で呼ぶ。
自然に。
「これから、どうするの?」
姫は、少しだけ空を見上げた。
そして。
「そうね」
視線を戻す。
その瞳は、静かに鋭い。
「今回の件、まだ終わっていないわ」
あの生物。
あれは、自然発生ではない。
「原因を突き止める必要がある」
猫の王女の耳が、ぴくりと動く。
「……やっぱり?」
「ええ」
短く、頷く。
「あなたの国にも関わることになるかもしれない」
沈黙。
だが――
次の瞬間。
王女は、にやりと笑った。
「いいね」
楽しそうに。
「面白くなってきた」
そして。
一歩、前に出る。
「じゃあ、手伝うよ」
当然のように。
「約束でしょ?」
姫は、ほんの少しだけ笑った。
「ええ」
その言葉で、決まる。
新たな協力者。
猫の王女。
そして。
まだ見えない“敵”。
物語は、さらに広がっていく。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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姫様も、たぶん紅茶片手に「ありがとうございますわ♪」と微笑んでくれるはずです。
それでは、次の物語でまたお会いしましょう。
姫様、御覚悟を──




