ハッピーエンドへの布石
コツコツと靴の音がして現れたのは、マーガレットの母である“先読みの魔女”と一人の中年の男だった。
僕達がこんな状態にあるのは、きっとこの二人のせいでそしてこれからどうなるのだろうと僕は思う。
そこで、ルイが震える声でその中年の男を呼んだ。
「スノーホワイト公爵様」
「ルイ、マーガレットを狙って魔物を放ったそうだな」
「……はい」
「私が命じたのは、マーガレットと恋仲になりそうな男を邪魔する事だ。なのになぜマーガレットを狙った」
その怒気を含む声に、ルイがびくっと震えながらも、
「……僕が、我慢できなくて……」
「お前のいた孤児院の援助を、減額する」
「! それは……」
「当然だろう。我々の命にも従わず、マーガレットに攻撃を加えて、しかもそこにいる自分に似た協力者を呼びこむなど……まさか同じような姿の一般人がこの世界にいたとは知らなかった。しかも我々のすきを突いて接触をはかっていたとは思わなんだ」
どうやらこの人は僕がい世界のルイだとは知らないようだ。
もしかしたなら、これはとても特別な魔法だったのかもしれない。
そう僕が思っているとそこで先読みの魔女が、
「それで、貴方の命を握っても邪魔をされるのが分かったから、別の方法を取ろうと思うの。例えばもう一人の“貴方”とかね」
笑うように僕の方を見る。
それが怖いと思うと同時に、許せないと思う。だって、
「どうして全く関係のないルイをこんな酷い目に合わせるのですか?」
「関係なくはないわ。だって王子はこの子の事しか見ていないもの」
「だったら諦めればいいでしょう」
「残念ね、それは出来ないわ。私達にも目的があるもの」
「自分達の娘であるマーガレットを、王子に嫁がせたいという目的ですよね」
僕がそれを告げると、先読みの魔女とスノーホワイト公爵は表情を消す。
そう、僕は知っていたのだ。
そしてだからこそマーガレットをレオ王子に嫁がせたいと願っていた事を。
先読みの魔女は僕を値踏みするように見てから、
「貴方、私と同じような力があるの?」
「いいえ、でも僕は知っています。そして、マーガレットはレオ王子と結ばれない事も」
「……そんな未来、私には見えないわ」
「貴方の力が弱まっているのでは?」
つい言い返してしまったのは、僕の怒りだ。
無理やり不幸な未来を彼らの望みで捻じ曲げようとしている。
それはこの二人の復讐だ。
「貴方方二人は、貴族と平民、だから結婚はできなかった。古い習慣に縛られて、けれど、二人の間にはこっそり産んだマーガレットという娘がいた」
「スノーホワイト侯爵は独身で通っているわ。何故貴方はそう思ったのかしら」
今更ながら誤魔化そうとする先読みの魔女に僕ははっきりとした言葉で伝える。
「僕はそれを知っているからです」
ゲーム内の設定で僕はしっていた。
本当はマーガレットも巻き込まれた被害者なのだ。
けれどそれでも彼女は自分で大切な人を掴みとっていた。
そしてこの世界でも僕はほんの少し背中を押したけれど、彼女は自分の大切な人を見つけて、一緒に歩む相手を見つけていた。
それはかけがえのない幸せな時間だろうと僕は思う。
「マーガレットが選んだ、掴んだ幸せを貴方方は奪うのですか?」
「……だまりなさい」
「それはあなた方がされて一番辛かったことではないのですか?」
「だまりなさい! ああ、鬱陶しい。そこのルイと同じ顔なのに、もっと不愉快だわ。……やはり捕まえた当初の予定通り、この生意気なこちらの方にしましょう」
先読みの魔女が僕にそういった。
今更ながら言い過ぎたという後悔が僕に浮かんできたけれど、そこでルイが、
「止めてください、彼は関係ない! 罰を受けるなら僕が……」
ルイが焦ったようにそう叫ぶけれど、それに先読みの魔女はようやく笑みを浮かべて、
「あら、駄目よ? だって貴方……自分よりも自分の大切な人が傷つくのを恐れるタイプでしょう?」
「何をする気なんですか! 彼に手出しをするな!」
「貴方が全部悪いのよ。私とスノーホワイト侯爵の“夢”を潰そうとしているのですものね」
先読みの魔女がそうやって笑い、指を鳴らす。
同時に僕の直ぐ側にぼとりと何かが落ちてきたのだった。
それは虎の様な獣のでこちらの方をじっと見ている。
それが怖くて、僕はガタガタ震えている。
けれどそれでもその怪物のような猛獣のような何かは牙をむき出しにして、一歩一歩近づいてきて……。
そこで何かが倒される音と走る誰かの足音が聞こえる。
同時に、僕達の捕らえられた牢の壁に大きな穴が空く。
それは壁自体がサラサラと砂粒になって消え失せたのだ。
ここは1階にある場所であったらしい。
穴から地面が見える。
同時に、その穴から姿を現れたのは、レオ王子、のように見えたけれど……。
そのレオ王子が僕を襲っていた触手を一瞬にして消滅させた。
更に真っ直ぐに先読みの魔女とスノーホワイト侯爵を見据えて、
「“猛き風よ、歌え”」
まっすぐに手を伸ばして、風の魔法を使う。
その威力に僕達は呆然としてしまう。
それに先読みの魔女とスノーホワイト侯爵はなんとか耐えているようだが、吹き飛ばされるのは時間の問題だった。
そして吹き飛ばされたなら、彼らはどうなってしまうのだろうと気付いて僕は、
「レオ王子、それ以上やったら死んじゃうかもしれない!」
「それがどうした? 俺の瑠伊を酷い目に合わせようとしたのだから、当然の報いだ」
淡々と告げるそれは、幼馴染の伶音が怒って、周りが見えなくなっている時そのもので。
それに今彼は、自分のことを僕ではなく、俺と言わなかったか?
僕はいまめの前にいて僕を助けようとして誰かを傷つけようとしているのが誰なのかに気付いた。
「伶音、止めて、それ以上はしないで! 僕は……伶音にそんな人になって欲しくない!」
その僕の言葉に、ようやく伶音はぴくっと反応して、その先読みの魔女たちを睨みつけたまま魔法を徐々に弱めていく。
と、声が聞こえた。
「伶音、無茶をするな!」
「……レオが遅いのが悪い」
「マーガレット達が手助けしてくれるというから、少し話していただけだろう。僕だって今すぐ助けに行きたいのを抑えていたというのに……」
新たに現れたレオ王子が、そうもう一人の彼に言う。
そしてそれから少し送れてから、
「まさかこの私が二人に遅れを取るなんて思わなかったわ。そして……まさか裏で糸を引いているのが母さんだったなんてね」
皮肉げに笑うマーガレット。
それに先読みの魔女は、
「貴方が駄々をこねなければこんな事にはならなかったわ」
「あら、聞き分けがいいふりをして、裏でこんな無関係の人達まで巻き込んでやらかしているとは思いもしませんでしたわ」
「私はいつだって貴方の幸せを願っているの」
「私の幸せは押し付けられるものではなくて、自分で掴み取れるわ」
そこで二人は黙って睨み合う。
けれどそこで、スノーホワイト侯爵が動いた。
「これを見ろ! この、ルイの生命の契約書がどうなってもいいのか!」
取り出したのは、茶色い紙に魔法陣の描かれた……ルイのベッドの下に隠されれていたものにそっくりな、一枚の紙だったのだった。
それを手にしたスノーホワイト侯爵だけれど、そんな彼にレオ王子は、
「それで、僕のルイの命の契約書をどうする気なのかな?」
「……しまった」
「何をやっているのよ! 隠しておけば見つからなかったのに……しか無いわ、こうなったら力づくで言うことを聞かせるわ。まずは全員気絶させて、記憶操作させてやる! 手伝って!」
レオ王子のその言葉に自分の失敗に気づいたスノーホワイト侯爵。
恐らくは先ほどのレオ……伶音の攻撃に焦ったのだと思うけれど、それはこちらにとっても好都合だった。
だって、隠された場所をわざわざ探さなくてもいいのだから。
ただ先読みの魔女が即座に動いた点は、予想外だったけれど。
それでも今僕の側にはゲームのヒロインのマーガレットがいるので、
「させないわ! いいわ、ここで決着をつけましょう! 母さん!」
「ええ、わがまま娘にも、この世の摂理を教えてあげるわ!」
とのことで二人が激突した。
とりあえずは現状ではマーガレットに先読みの魔女の相手をさせればいい。
それはゲームの終盤のイベントの一つだったけれど、それでいい。
そう僕が思っている所で僕とルイの枷をレオ王子と伶音が魔法で壊してくれる。
僕を優しく見つめる伶音が、
「大丈夫だったか?」
「うん、助けに来てくれてありがとう。あ、もしかしてあのペンダントで?」
「ああ、まさか瑠伊がここに来ているとは思わなかったから、初めて会った時は驚いた」
「そうなんだ、どの時点で気づいたのかな?」
「廊下を走って逃げ出そうとしている時かな。あの二人が何かをやっていた時だと思う」
それはきっと、この世界ではじめて伶音に会った時だ。
何かが違うような変な感覚を僕は覚えたけれど、伶音はすぐに僕だと分かってくれたらしい。
それに僕は罪悪感を覚えながらも、今更だけれど、“好き”だと思う。
だから助けだされたのもあって僕は、伶音に抱きついてしまう。
と、そんな僕達にレオ王子が、
「そうやって仲がいいのは分かるが、スノーホワイト侯爵を捕まえるのを手うだってくれ。今逃げ出した」
「……分かっている」
「それとさっきのような手加減した魔法ではなく、もっと強力なものにしてくれ」
「……瑠伊にきついものは見せたくない。実際に止めてきたし……」
といった伶音の話を聞きながら僕はといえば、
「あれ? あの魔法は結構強力に見えたけれど」
「あの程度の魔法ではかすり傷ひとつ付けられない。その程度の威力しか無いのは、分かっているから……その点は心配しなくていい」
「う、うん……」
どうやらこの世界の人間は体が丈夫であるらしい。
でも伶音はやけに詳しい気がする。
何でだろうと僕が思っているとそこで、
「それで追いかけるぞ」
レオ王子がそう僕達に告げて走りだし、僕達もそれに習って走りだしたのだった。
「うばえるものならば、奪ってみろ」
そうスノーホワイト侯爵が挑発する。
何でも彼は魔法使いとしても一流らしい。
ゲーム内ではマーガレットのレベルが高かったので瞬殺できたけれど、こちらではそんな風にはうまくいかない。
「“雷よ、舞え”」
「“氷よ、刃となれ”」
次々と魔法を繰り出して行くレオ王子とルイ、そして伶音。
やがて建物の行き止まりのような場所に、どうにかスノーホワイト侯爵を追い詰めはしたのだけれど、そんな彼にレオ王子とルイも混じっての魔法攻撃が炸裂する。が、
「そんなことをして許されると思っているのか!」
叫んだスノーホワイト侯爵は、時折ルイの誓約書を盾にする。
そんなことをして更にレオ王子の不興を買ってどうするのだろうと思っていたけれど、なんとか僕達を倒して記憶を操作してしまえば終わりだと思っているのだと僕は気づく。
嫌なタイプの敵だなと思う。
マーガレットのためとはいえ、手段を選ばない彼。
一方的にボコられてくれる敵じゃないところがリアルだなと僕は思ってしまう。
そしてその誓約書によって、僕たちは、手出しできないことが何度もあって決定打を与えられない。
そして僕は、魔法がほぼ使えないので邪魔するわけにもいかず、ただ見ていることしか出来なかった。
でも、ある時、ルイの炎の塊が偶然にもその盾にした誓約書に当たりそうになって、それを止める間もなくて……時間よ止まれと僕は思う。
僕は思っただけだった。
「あれ?」
そこで……僕以外の見える範囲内の全てが、凍りついたのだった。
「え?」
突然“世界”の動きが止まる。
風や声や人の動きはおろか、全てが止まってしまった。
僕以外何一つ動いていない静寂の世界。
試しに一歩踏みだそうと僕は思うと、いつもの様に僕は動ける。
時間を止める能力。
それが僕の持っている“チート”だったのだろうか?
皆が動けない間に僕は動ける。
悪用すれば恐ろしい力だけれど……。
「今ならきっと、皆の役に立てるね」
幸せな結末のためにはこの力が必要だったのかもしれない。
そう思いながら僕は走りだして、スノーホワイト侯爵の元に向かう。
そして火の塊が迫るなか、誓約書をヒョイッと取り上げる。
手に入れた僕はそのまま先ほどの場所まで戻ってきて、ここなら安全だよねと思ってから、
「どうやって時間を解除すればいいんだろう。えっと……時間よ動け、むむむむ」
そう僕が念じてみると同時に、音が戻る。
炎の塊が向かっていくそれに悲鳴を上げるルイ達だったけれど、その炎が爆砕した所でとりあえずはレオ王子に、
「あの~、取ってきたのですが、これはどうしましょうか」
「! それはルイの誓約書! 一体何をした?」
「えーと、時間を止めて、取ってきました」
そう僕が答えると、レオ王子は少し考えてから、
「やはり異世界から呼ぶと、強くて危険な力を持つな」
「え、えっとあの……」
「だが今は、礼を言う、君の力のお陰で、ルイは助かったのだから」
レオ王子はそう伶音に似た優しい笑みを浮かべる。
こんな所も同じなんだなと僕は思う。
そこでレオ王子はルイの誓約書に指を触れる。
そのまま指でなぞるようにその魔法陣の一部に触れて、
「契約を解除する」
そう告げると同時に髪が白く光り、描かれた文字が黒い霧のようなものとなり消えていく。
それが全て消え失せてから、レオ王子はルイに、
「これでルイを縛るものはもう何もない。後は……あそこにいるあの男を倒せばいいだけだ」
そのレオ王子が告げた一言が合図だった。
もう容赦する必要はないと、僕が真っ青になるくらい三人は攻撃を仕掛けてスノーホワイト侯爵に攻撃を仕掛けて気絶させる。
そして全てが終わった後、ルイが僕に抱きついてきた。
「ありがとう、瑠伊! やっぱり瑠伊を呼んでよかった!」
「うん、まさかこんな力が僕にあるなんて思わなかったよ。でもルイが自由になれて良かった」
心の底からそう思って僕はそう告げるとルイが微笑む。
そんな、まだ全部は片付いていないけれど、一つは上手く言って喜んでいる僕達だけれど、そこでレオ王子がやってきて、
「ちなみに別世界の自分を呼べるのは、王族だけに秘され、そしてある程度魔法の素養がなければ使えない魔法なのだと、ルイは知っていたか?」
「「え?」」
僕とルイは間の抜けた声を上げてしまう。
それにレオ王子は微笑みながら、
「ちなみにこの魔法は特別なものだから、知っている時点で、危険人物認定……王族の一員でなければ、一生幽閉かな」
「……え?」
ルイが不思議そうに声を上げる。そんなルイに更にレオ王子が楽しそうに、
「そしてそれを呼び出せるだけの才能を持つ君は、放置できないな。しかも呼び出した相手はこの世界の時間を止めて色々出来る人物。それだけでもルイは、僕達にとって危険な存在だ」
「で、でもこの魔法を教えてくれたのはレオ王子で……」
「そう、教えたのは僕、だって、ルイを何処にも逃すつもりがなかったからね」
笑うレオ王子にようやく僕も含めて、皆が気付いたようだ。
つまり、初めからレオ王子はルイを逃すつもりなんて全くなかったという事実を、である。
そこでレオ王子がルイを抱きしめる。
「だからもう僕はルイを逃さないよ、覚悟をしておいてね」
「……はい」
「それが僕から逃げた罰だ」
「はい、レオが望むなら何でもします」
それに珍しくレオ王子がちょっと意地悪に笑って、
「今、何でもするっていったよね?」
「う……はい」
「これからは僕の傍から離れてはいけないからね」
「はい!」
それにルイが幸せそうに頷いたのだった。
ルイ達が幸せそうになっているのを見て、僕もほのぼのとしてくる。
とりあえず僕は当初の目的を果たしたのだ。
そして次に気になることといえば、
「まさか伶音まで呼ばれていると思わなかったよ。何時からこちらに来ていたの?」
「もともとレオが王族だから、平行世界の自分を呼んでいたんだ。呼ばれた俺達は特別な力が使えるから」
「あ、僕は時間を止める力だったね。伶音はどうなの?」
「全ての“害”となる魔法の無効化かな」
「あれ、というと、攻撃してもその魔法は伶音を傷つけない?」
「そうだな、他にも惑わすような魔法は全部無効化だ」
笑う伶音を見ながら僕は何かが引っかかつた。
その力は確かに凄いと思う。
けれど僕の中で何かが引っかかる。
そこで僕を見ながら伶音が、
「何かが引っかかった、みたいな顔だな」
「う、そんなに顔に出ているかな?」
「幼馴染の俺だから分かるんだ、という事にしておく」
「うぐ、それって僕の考えていることが表情でバレバレだってことじゃないか」
「見たくない現実をつきつけるのは可愛そうだと思ったんだが、自分で行ってしまう辺り……いつもの俺のよく知っている瑠伊だな」
「く……そ、それで僕が一体何に引っかかっているのだと伶音は思う?」
試しに聞いてみる僕。
そもそも伶音は僕よりもずっと頭がいいので、何か分かるかな、と思ったのだ。
それにレオが、意地悪そうな笑みを浮かべて、
「教えて欲しいのか?」
「う、うん」
「俺には魔法は効かない。つまり、ルイが透明人間になる魔法を使っても俺には全く効かなかったということだ」
そう僕は言われて、何を言われているのかはじめはよく分からなかった。
次に僕は、今まで透明な感じになって何度も伶音に会っているのかと思って、
「まさか、僕達の部屋を見に来た時も僕に気付いていたの?」
「もちろん、まじまじと瑠伊の顔を見ただろう?」
「……それであんな独り言を?」
「さあ何のことだろうな。ただ、それもあって俺はレオ王子に出来る限り協力しようと思ったのは事実だ。……この世界の瑠伊がそんな目に合うのも、俺は許せなかったから」
「……手伝ってくれてありがとうね。やっぱり伶音は優しいね」
「瑠伊相手だからかもしれないぞ?」
そう言って僕の頭を撫ぜる。
それが心地よくてぽやんとなっていた僕は、そこで気付いた。
「まって、確か透明人間の時に、僕、伶音に頭を触られたような……」
「ああ、見えないからばれないと思っているようだから、ついい悪戯を」
「……」
「そうやって可愛い顔をしていると、もっと凄いことをしてしまうかもしれないぞ? 俺はもう、我慢できないと伝えたはずだ」
「……キスの意味を考えて欲しい、だったはず」
「それはそういう意味だ。それで、どうする?」
「それは……今答えなくちゃ駄目?」
「俺は既に追い詰められているから今のほうがいいな」
微笑む伶音に僕は、何もこんな時にと思いながらも、
「……何度も伶音がここで助けてくれていたのも知っているし、好きなのは本当だし……でもそういった事までする勇気はないけれど……好きです」
「……仕方がない、今はそこまででいい」
そう伶音が答えてくれて僕は安堵して……そこで爆音が聞こえたのだった。
その音の聞こえた場所に行くと、先読みの魔女とマーガレットが戦っていた。
ゲーム内では真っ黒な画面で声や爆音が響き仕様だったのだが、
「これは、とてもではないがお見せできない光景……」
僕達がそれを見ていると、ベリオールが少し離れた場所で真っ青になって棒立ちになっている。
そんな反応も当然だと思っている僕達の前で、マーガレットが、
「これで終わりよぉおおおお」
魔法を炸裂させた。
先読みの魔女が倒された。
気絶しているらしくピクピクいっている。
それを見てマーガレットが、
「全くしぶといわね……あら、そちらは終わったの?」
「はい、なんとかルイの契約書も解除しました」
「そう、良かったわ。それでレオ王子お願いがあるのだけれど」
そうマーガレットが切り出したのは、こんな話だった。
つまり、この先読みの魔女とスノーホワイト侯爵に罰を与えるのを見逃して欲しい、と。
「一応私の親だからね。その代わり……レオ王子、貴方の手伝いにこの私が回ってあげるわ」
「それは、僕に使われてくれる、ということかな?」
「……限度はあるわよ」
「それは、ルイ次第だな。ルイはどうする?」
そこで話を振られたルイは、少し考えてから、
「マーガレットには、僕、嫌な思いをさせてしまったから……それでいいよ」
「……僕のルイがそう言っているから、それで許してやる」
そう、ルイを抱きしめながらレオ王子はマーガレットに告げたのだった。
それから何だかんだで先読みの魔女やスノーホワイト侯爵は、レオ王子の支配下に収まった。
そしてマーガレットもベリオールと仲良くやっており、エウいとレオ王子の関係も良好だ。
つまり全てがハッピーエンドの状態なわけで、
「僕達の役目は終わりかな?」
「そうだろうな」
伶音が答えるが、それもちょっとさみしいような気もする。
短い間だけれど、一緒にいたので愛着があったりするのだけれど、僕はもう用済みだったりする。
そこでくるりと僕の方を向いたルイが、僕の方に走り寄って来て抱きついた。
「ル、ルイ?」
「これで終わりなんて言わないで、もう少し一緒にいてよ。友達もここにはいないし」
「あ、はい……呼び出してもらえれば何時でも遊びに来るから安心してね」
「わーい、瑠伊、大好き」
そう言って抱きついてきたルイに僕は慕われているなと思いながらまた会いに来る約束をする。
そうしてなんやかんやで、そこそこのエンディングを迎えた僕たちは、元の世界に戻された。
また会う約束をして。
「……あれ?」
気づけば僕は元の部屋に戻ってきていた。
白昼夢か何かだったのかと思うくらいに、僕の部屋はいつも通り。
そこですぐ側で、スマホがが音を立てた。
見るとメッセージが送られてきている。
伶音からだ。
「えっと、『今から会えないか?』……まだ明るいというか土曜日だし…… 伶音の部屋に行くと」
メールで送信して、僕はすぐに伶音の家に向かう。
そして、いつもの伶音に部屋に迎え入れられる。
温かい紅茶を出されて、甘いクッキーがお茶請けに出される。
相変わらず伶音は優しげに僕を見ている。
何から聞こうかと思ってまず真っ先に僕が聞いたのは、
「あっちの世界では髪の色も瞳の色が違いすぎるよ」
「そうしないと影武者の意味も兼ねているから、困るだろう?」
「そうなんだ」
「うん、もともと王家の人間は異世界からもう一人の自分を呼んで手伝ってもらうこと前提で交流をするから、影武者もこなせないといけないんだそうだ」
「伶音はいつからそれを?」
「子供の時からだな。色々なものに釣られたのも有るが、レオ王子とは気があっていたし、それに今回はあちらの世界のルイが酷い目にあっているのが俺も許せなかったから」
「そ、そうなんだ。伶音はやっぱり優しいね」
「……どうだろうな」
そう答えて伶音は沈黙する。
また話がなくなったと僕は思って、他に気になることは何かあったっけと僕が思って思いついた。
「そういえば子供の頃から入るのに何であの世界があるんだろう」
「乙女ゲームの、か? そういえば、どの世界でもそうだが、たまに異世界の物語や情報が、そうとは気づかずに受け取ってしまう人がいる、と聞いたことがある。その影響かもしれない」
「へぇ~、面白いね」
そこまで会話してまたも会話が止まる。
ど、どうしよう、そう僕が思っているとそこで、
「それで、俺のことは愛しているのか?」
「さ、さっき答えたじゃないか」
もう一度言わせられるかもと思って僕は焦ってそう答えると
「もう一度言って欲しい。夢でないといいと俺は思っている」
「う、うう……伶音が好きです」
僕は恥ずかしい気持ちになりながらも必死に答えた。
すると伶音が立ち上がり、しかも僕を抱き上げてベッドにのせた。
何でと思っているとおおおいかぶさってきた伶音にキスされる。
触れるだけの軽いキスをされて、幸せをかみしめたのだった。
それから休みの度に、あちらの世界のルイ達に会いに行く。
気づけば厄介なフラグがルイにも発生していて、それの回避のために僕も頑張りました。
マーガレット達とも、ルイは仲良くなっていたらしい。
しかも僕達の世界では実はルイを主人公にしたBLゲームも発売していたらしく、しかもルイ達の世界でも危険なフラグが立っていたりして大変なことになっていたが、僕達の総力を上げてそのフラグをへし折りました。
そもそもこのレオ王子自身がとてもとても嫉妬深いので、このまま行くと監禁ルートに行きそうだったので、ルイをそんな目に合わせたくなかったので僕は色々と手を打ちました。
伶音にももちろん手伝ってもらって、情報収集にはマーガレットの手を借りたりと、それはそれで大変だけれど楽しい時間だった気がする。
ちなみにこの世界のレオ王子と伶音は同じような存在なので、同じくらい嫉妬深いらしい。が、
「? 伶音はそこまで僕を束縛したりしないよ?」
「……」
沈黙したマーガレットとルイに僕は肩を叩かれた。
伶音を見ると微笑んでいるだけで、よく分からない。
なのでうーうー僕が唸っているとそこで、
「そろそろ出ないと、ベリオールとの待ち合わせに遅れるわ」
マーガレットに僕は言われてしまう。
今日は僕達とマーガレットの六人でトリプルデートの約束をしたのだ。
今の時期に見れるきれいな花があるらしい。
なので僕達はマーガレットに急かされて歩き出す。
そこで僕の手が伶音に握られる。
見上げると伶音が微笑んでいた。
それが嬉しくて、幸せで僕は自然に微笑んでしまう。
こうしてその公園でもまたフラグが立ちかけたりするのはまた別の話。
けれど僕達は僕達の大切な人と寄り添って、これからも歩き続けるのでした。
「おしまい」
ここまで読んで頂きありがとうございました。




