↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/285

第五十三章 教えられること

午後。


店はいつもより少し忙しかった。


注文が重なる。


料理を運ぶ。


皿を下げる。


アポロンはいつものように動いていた。


食器を重ねる。


一度に多く運ぼうとする。


「アポロンさん」


後ろから声がした。


振り返る。


最近入った、少し年下のアルバイトだった。


「それ、あまり重ねないほうがいいですよ」


「なぜ?」


「落としやすいので」


アポロンは皿を見る。


確かに。


上に重ねた皿が少し揺れている。


「なるほど」


一枚減らす。


「こう?」


「はい。そのほうが安全です」


アポロンは残った皿を見る。


「君は、いつもそうしている?」


「そうですね」


「分かった」


そのまま運ぶ。


厨房に戻る。


健一がそれを見ていた。


「教えてもらったな」


「うん」


「珍しいな」


「何が?」


「お前が人に教えられてるところ」


アポロンは少し考えた。


「知らないことなら、教えてもらう」


「まあ、そうだな」


仕事が続く。


しばらくして。


今度は別の作業で手が止まった。


「これ、先にこっちです」


また声がする。


アポロンは手を止めた。


「そうなのか?」


「はい。こっちを先にやったほうが、あとが楽です」


「分かった」


言われた通りにする。


確かに。


少しだけ作業が楽になった。


「ありがとう」


「いえ」


その人はすぐに自分の仕事へ戻った。


アポロンも作業を続ける。


休憩時間。


アポロンは水を飲みながら考えていた。


神だった頃。


誰かに何かを教えてもらう必要はなかった。


世界の仕組みを知っていた。


知らないものがなかった。


けれど。


今は違う。


料理の盛り付け。


皿の運び方。


洗濯物の干し方。


髪の切り方。


電車の乗り方。


人との話し方。


知らないことは。


まだいくらでもある。


そして。


知らないことを知っている人は。


自分より年下でも。


自分より経験が少なく見えても。


自分に教えることができる。


午後の仕事が終わる。


「今日、助かったよ」


健一が言った。


「こちらこそ」


「何か教えてもらったみたいだな」


「うん」


アポロンは少し笑った。


「知らないことを教えてもらうのは、悪くない」


健一は何も言わずに笑った。


帰宅する。


美咲が夕食の準備をしていた。


「今日はどうでした?」


「仕事で教えてもらった」


「誰に?」


「年下の人」


「へえ」


「最初は、少し意外だった」


「どうして?」


「年齢は関係ないんだなと思った」


美咲は料理を皿に盛る。


「そうですね」


「知っていることは、人によって違う」


「はい」


「だから、年齢だけでは決まらない」


「その通りです」


アポロンはテーブルにつく。


今日教えてもらったことを思い出す。


ほんの小さなことだった。


けれど。


その小さなことのおかげで。


仕事が少し楽になった。


「明日も、何か教えてもらうかもしれない」


美咲が笑う。


「今度は私が教えるかもしれませんよ」


「何を?」


「それは明日になってから」


アポロンは少し考えた。


「分からないのか」


「分かりません」


「そうか」


明日のことは。


美咲にも分からない。


そのことが。


なぜか少し嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。