第五十二章 乾くまでの時間
朝。
アポロンは洗濯物を見ていた。
シャツ。
ズボン。
靴下。
少しずつ増えている。
「洗濯する?」
美咲が聞いた。
「できる」
「本当に?」
「知識はある」
美咲が笑った。
「それならお願いします」
アポロンは洗濯機の前に立った。
洗剤を入れる。
服を入れる。
蓋を閉める。
ボタンを押す。
機械が動き始めた。
「これで終わり?」
「洗濯はね」
「乾かす必要がある」
「そうです」
アポロンは洗濯物を見た。
水に濡れた服。
まだ着られない。
「乾くまで待つのか」
「そうですよ」
それからしばらく。
アポロンは別のことをしていた。
本を読む。
スマートフォンを見る。
窓の外を見る。
それでも。
洗濯物はまだ濡れている。
「……時間がかかるな」
美咲が笑う。
「洗濯って、そういうものですよ」
昼過ぎ。
アポロンは洗濯物を取り出した。
干す。
シャツを広げる。
風が入る。
布が少し揺れる。
「これでいい?」
「はい」
「いつ乾く?」
「天気によりますね」
アポロンは空を見る。
晴れている。
「今日は晴れている」
「じゃあ、夕方には乾くかもしれません」
「かもしれない?」
「絶対じゃないです」
アポロンは少し黙った。
天気も。
洗濯物が乾く時間も。
自分には分かる。
それでも。
実際に乾くまで待つしかない。
夕方。
洗濯物を触る。
乾いていた。
「乾いた」
「よかったですね」
アポロンはシャツを畳む。
一枚ずつ。
丁寧に。
「洗濯って、面白いですね」
美咲が少し驚いた顔をする。
「面白いですか?」
「洗っている時は、まだ何もできない」
「はい」
「乾くまで待つ」
「はい」
「でも、待っていれば使えるようになる」
美咲は笑った。
「それ、洗濯の話ですよね?」
「そうだ」
「なんだか難しく聞こえます」
アポロンも少し笑った。
夜。
畳んだ服を箪笥に入れる。
明日着るシャツも決めた。
けれど。
明日になれば。
また汚れる。
また洗う。
また乾くまで待つ。
同じことを繰り返す。
それでも。
その繰り返しの中に生活がある。
アポロンは明日のシャツを見た。
「明日は、これを着よう」
そう決めて。
部屋の明かりを消した。




