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神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


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第四十九章 自分から誘う

朝。


アポロンは朝食を食べながら、昨日のことを思い出していた。


健一に誘われた食事。


店の人たち。


何気ない会話。


笑い声。


特別なことはなかった。


それでも。


楽しかった。


「どうしました?」


美咲が聞いた。


「昨日のことを考えていた」


「健一さんとの食事ですか?」


「そう」


「楽しかったんですね」


「うん」


美咲はコーヒーを飲む。


「また誘ってもらえるといいですね」


「そうだな」


アポロンは少し考えた。


そして。


「自分から誘ってもいいのか?」


美咲が顔を上げる。


「もちろん」


「誰かを?」


「はい」


「特に用事がなくても?」


「それが普通ですよ」


アポロンは黙った。


普通。


その言葉を聞くたびに。


自分の知らない人間の習慣が少しずつ増えていく。


仕事が終わる。


アポロンは店を出る前に健一を見る。


何か言おうとして。


一度やめる。


また考える。


「健一」


「ん?」


「今日、仕事が終わったら……」


そこで言葉が止まった。


健一が待つ。


「どうした?」


「食事に行きませんか?」


健一は少し驚いた。


「お前から誘うの、珍しいな」


「昨日、誘ってもらったので」


「なるほど」


健一は笑った。


「いいぞ」


「本当ですか?」


「もちろん」


二人で店を出る。


昨日とは違う店に入った。


駅の近くの定食屋だった。


「何食う?」


「今日は……」


アポロンはメニューを見る。


「これにします」


「珍しく即決だな」


「昨日から決めていた」


健一が笑う。


料理が来る。


二人で食べる。


しばらくして、健一が言った。


「アポロン」


「はい」


「最近、少し変わったな」


「そうですか?」


「最初は、何を考えてるのか分からなかった」


「今も分からない?」


「今も分からない」


健一は笑った。


「でも、前より人間らしくなった」


アポロンは箸を止めた。


「人間らしい?」


「そう」


「具体的には?」


「自分から誘ったりするところ」


アポロンは少し考えた。


「以前は、誘う必要がなかった」


「今は?」


「一緒に食事をしたいと思った」


健一は何も言わなかった。


ただ笑った。


食事が終わる。


店を出る。


「今日はありがとう」


健一が言う。


「こちらこそ」


駅の前で別れる。


アポロンは一人で歩きながら考えた。


誰かに誘われる。


それは嬉しい。


けれど。


自分から誘うのも。


悪くない。


相手が来るかどうかは分からない。


断られるかもしれない。


それでも。


「一緒にいたい」と思った時。


自分から言ってみる。


それが。


人間の関係を作る一つの方法なのかもしれない。


家に帰る。


「おかえりなさい」


美咲が言う。


「ただいま」


「どうでした?」


「楽しかった」


「よかったですね」


「うん」


アポロンは少し笑った。


昨日までは。


誰かに誘われることを楽しみにしていた。


今日は。


自分から誰かを誘った。


そして。


一緒に過ごした。


明日のことは。


まだ決まっていない。


けれど。


明日になれば。


また誰かと話したくなるかもしれない。


そんなことを考えながら。


アポロンはスマートフォンを机の上に置いた。

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