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神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


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第三十四章 待っているもの

朝。


アポロンは目を覚ました。


身体が少し重かった。


昨日の仕事で疲れたのかもしれない。


起き上がろうとしたが、いつもより時間がかかった。


「……疲れている」


それは、以前にも経験したことだった。


けれど今日は、少し違った。


身体が休みたいと言っている。


アポロンは無理に起きなかった。


そのまま布団の中にいた。


しばらくすると、部屋の外から物音が聞こえた。


美咲が起きたらしい。


「アポロンさん?」


ドアが少し開いた。


「起きてますか?」


「ああ」


「どうしました?」


「少し疲れている」


美咲は部屋の中に入ってきた。


「熱は?」


「ない」


「本当に?」


「ああ」


美咲は少し安心したように頷いた。


「じゃあ、今日はゆっくりしてください」


「仕事がある」


「今日は休んでもいいんじゃないですか?」


アポロンは黙った。


休む。


それだけのことなのに、少し抵抗があった。


「昨日も普通に働いた」


「でも、今日は疲れてるんですよね?」


「ああ」


「じゃあ、休みましょう」


美咲はそう言って部屋を出た。


しばらくして戻ってくる。


手には水と、小さなゼリーがあった。


「これ、置いておきます」


「ありがとう」


「食べられそうなら食べてください」


「分かった」


美咲はそれ以上何も言わなかった。


部屋を出ていく。


アポロンは水を見た。


そして、ゼリーを見る。


「……」


誰かに世話をされる。


以前にも病気になった時、美咲に助けてもらった。


けれど今日は、病気ですらない。


ただ疲れているだけ。


それでも。


美咲は何も言わずに水を持ってきた。


アポロンは少しだけ目を閉じた。


しばらく休む。


時計を見る。


午前九時。


いつもなら、もう仕事をしている時間だった。


今日は何もしない。


十時。


まだ布団の中。


十一時。


少し身体が軽くなってきた。


昼頃。


アポロンは起き上がった。


台所へ行く。


美咲が昼食を作っていた。


「もう大丈夫ですか?」


「ああ」


「無理しないでくださいね」


「分かった」


テーブルには、温かいスープがあった。


「食べてください」


アポロンは椅子に座った。


「ありがとう」


スープを飲む。


温かい。


昨日までなら、ただ温度を感じるだけだったかもしれない。


今日は違った。


自分のために作られたものだと分かる。


それだけで、味が少し違って感じられた。


「美味しい」


「よかった」


食事をしながら、美咲が言った。


「今日は午後も休んでください」


「分かった」


「珍しく素直ですね」


「休むことも覚えた」


美咲は笑った。


「それなら安心です」


午後。


アポロンはソファに座っていた。


テレビをつける。


何となく見る。


途中で眠くなる。


そのまま眠った。


目を覚ますと、夕方だった。


部屋には誰もいない。


美咲は仕事に出ている。


アポロンは時計を見た。


少しだけ眠った。


身体はかなり楽になっていた。


冷蔵庫を開ける。


朝に美咲が置いてくれたゼリーが残っている。


手に取る。


食べる。


甘い。


それほど特別な味ではない。


それでも。


アポロンは、なぜか嬉しかった。


朝、自分がここで休んでいる間。


美咲は仕事に行った。


そして、帰ってくる。


その間に、自分のために用意されたものがここにある。


待っているものがある。


そう考えると、少し不思議だった。


夜。


美咲が帰ってきた。


「ただいま」


「おかえり」


「体調どうですか?」


「もう大丈夫だ」


「本当?」


「ああ」


美咲は少し安心した。


「よかったです」


アポロンは言った。


「今日は、何もしなかった」


「それでいいんですよ」


「でも、何もしていない時間が、前より嫌ではなくなった」


美咲は笑った。


「休むのも大事ですから」


「ああ」


アポロンは頷いた。


そして、少し考えてから言った。


「今日は、待っていた」


「何を?」


「君が帰ってくるのを」


美咲は一瞬だけ黙った。


「……そうですか」


「なぜか、帰ってくると思うと安心した」


美咲は小さく笑った。


「じゃあ、帰ってきてよかったです」


「ああ」


アポロンも笑った。


神だった頃。


誰かが帰ってくるのを待つ必要などなかった。


未来はすべて知っていた。


けれど今は。


誰かが帰ってくるまでの時間を過ごす。


そして、帰ってきたことを嬉しいと思う。


その時間を。


アポロンは、悪くないと思った。

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