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神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


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第三十章 二つの選択

仕事が終わった夕方。


アポロンと美咲は駅の近くを歩いていた。


「今日、何を食べます?」


美咲が聞いた。


アポロンは周りを見た。


ラーメン。


定食。


カレー。


少し先には、小さなうどん店もある。


「ラーメン」


すぐに答えた。


美咲が笑った。


「やっぱりラーメンなんですね」


「好きだからな」


「じゃあ、行きましょう」


二人はラーメン店へ向かった。


しかし、その途中。


アポロンは小さな店の前で足を止めた。


「どうしました?」


「……うどんもある」


美咲が店を見る。


「そうですね」


「今日は、うどんでもいいかもしれない」


「じゃあ、うどんにします?」


アポロンは黙った。


ラーメンも食べたい。


うどんも悪くない。


どちらを選んでも、困ることはない。


健康にも問題はない。


お金も足りる。


時間もある。


「……難しい」


美咲が笑った。


「そんなに悩みます?」


「どちらでもいい」


「じゃあ、好きなほうで」


「どちらも好きだ」


「じゃあ、今食べたいほう」


アポロンは二つの店を見た。


そして。


「ラーメン」


「最初から決まってたんじゃないですか」


「途中で変わった」


二人は笑った。


店に入る。


注文をする。


料理が来る。


アポロンは箸を持った。


一口食べる。


「美味しい」


「よかったですね」


食事をしながら、アポロンは考えていた。


神だった頃。


何かを選ぶ必要はなかった。


未来をすべて知っていたからだ。


どちらを選べば何が起こるのか。


誰を選べばどうなるのか。


どの道が最も合理的なのか。


すべて分かっていた。


だから、選択とは結果を決める作業だと思っていた。


しかし。


人間になってからは違う。


どちらが正しいのか分からない。


だから、選ぶ。


「美咲」


「はい?」


「人間は、どうして選ぶんだ?」


「どうしてって?」


「正しい答えが分からないのに」


美咲は少し考えた。


「分からないからじゃないですか?」


「分からないから?」


「はい。全部分かってたら、選ぶ必要ないと思います」


アポロンは黙った。


「だから、選んだあとで考えるんじゃないですか?」


「選んだあと?」


「この選択でよかったのかなって」


「後悔することもある?」


「ありますよ」


「それでも?」


「それでも、自分で選んだことなら、自分で考えられますから」


アポロンはその言葉を聞いた。


自分で選ぶ。


結果が分からない。


そして、結果が出てから考える。


それは、神だった頃の自分にはなかった。


食事が終わる。


店を出る。


夜の街を歩く。


「今日はラーメンでよかったですか?」


美咲が聞いた。


アポロンは少し考えた。


「分からない」


「え?」


「うどんを食べていたら、うどんでよかったと思ったかもしれない」


美咲は笑った。


「それなら、どっちでもよかったんですね」


「そうかもしれない」


歩きながら、アポロンは思った。


選択には、唯一の正解があるとは限らない。


選んだ道を歩いていくうちに、その道を自分のものにしていく。


それも、人間なのかもしれない。


駅に着く。


信号が青になる。


二人で横断歩道を渡る。


アポロンは前を向いた。


「明日は?」


美咲が聞いた。


「仕事だ」


「そのあと、どうします?」


「まだ決めていない」


「じゃあ、明日決めましょう」


「ああ」


明日のことは、すでに知っている。


それでも。


何をするかは、まだ決めていない。


そして、そのことを少し楽しんでいた。

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