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神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


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第284章 神侍従の記録

森川たちが次に確認したのは、0000の初期設定資料だった。


提供資源の集約処理と、創造主の人間化支援。


この二つが、どのような手順で結びつけられたのか。


それを確認するためには、共通処理が始まった時点の記録が必要だった。


照会を重ねた結果、旧システムの設定一覧から、一つの資料が見つかった。


「初期処理設定・実行主体」


そこには、処理を実行する主体として、0000が登録されていた。


その登録時期は、最初の人間化支援契約が作成された時期と近かった。


しかし、設定者の欄は空白だった。


高瀬は資料を確認した。


「システムが最初から自動的に存在していたわけではない、ということでしょうか」


「この記録だけでは、そこまでは言えません」


森川は答えた。


「ただし、少なくとも、初期設定の段階で実行主体として登録されたことは確認できます」


山本は別の資料を開いた。


そこには、実行主体の登録に必要な項目が記されていた。


設定者。


登録目的。


実行範囲。


終了条件。


そのうち、登録目的には「創造主の人間化支援」とあった。


実行範囲には「契約関連記録」。


終了条件には「支援目標の達成」と記されていた。


そして、設定者の欄だけが空白だった。


「この設定を誰が行ったのか、別の記録に残っている可能性はありますね」


高瀬が言った。


「ええ。登録者と実際の設定者が同一だったとも限りません」


森川は、その点も照会事項に加えた。


昼過ぎ、別管理の資料から回答が届いた。


初期設定の登録申請には、申請者の役割が記されていた。


「神侍従」


三人は顔を見合わせた。


これまで契約書の中で確認していた役割と一致していた。


ただし、個人名はなかった。


申請者の署名欄には、役割を示す印が残されていた。


森川は、記録の真正性と管理履歴を確認したうえで、初期契約と設定申請を並べた。


契約の目的は、創造主の人間化支援。


協力者は複数の人間。


支援を実行する者は、神侍従。


その後、0000が共通処理の実行主体として登録されていた。


一連の流れは、記録上つながっていた。


だが、まだ足りないものがある。


神侍従が、なぜ人間たちと契約を結び、なぜその契約を実行する仕組みを作ったのか。


そして、現在の処理範囲が、なぜ当初の契約を超えているのか。


それを説明する記録は、見つかっていなかった。


森川は、アポロンに連絡した。


「初期設定の申請者が、神侍従だったことを確認しました」


「神侍従……」


アポロンは、その言葉を繰り返した。


「契約を実行する仕組みを登録したのも、その者なのか」


「申請記録は残っています。ただし、設定者本人が誰だったのか、現在も存在するのかは確認できていません」


アポロンは黙った。


その役割を知っている。


自分のそばにいた者。


自分の言葉を聞き、自分の望みを知っていた者。


だが、その姿を思い出そうとすると、記憶の中にあるはずの輪郭が曖昧になった。


「アポロンさん?」


森川の声が聞こえた。


「すまない。少し考えていた」


「何か思い出したことがありますか」


「神侍従がいたことは覚えている。だが、契約について話した記憶はない」


「分かりました。そのまま記録します」


森川は、余計な解釈を加えなかった。


「こちらでも、初期設定の申請記録を基に調査を続けます」


電話が切れた。


その夜、アポロンは美咲と一緒に夕食を食べていた。


「神侍従のこと、思い出せそう?」


美咲が尋ねた。


「存在していたことは覚えている」


「どんな人だったの?」


「人間ではない。私に仕える者だった」


「アポロンのことを、よく知っていた?」


「そうだと思う」


アポロンは箸を置いた。


「私が人間になりたいと思っていたことも、知っていたはずだ」


美咲は頷いた。


「その人が、アポロンを助けようとしたのかもしれないね」


「そうかもしれない」


「でも、まだ分からないんだよね」


「ああ」


美咲は、それ以上は尋ねなかった。


食事のあと、アポロンは古い記憶をたどろうとした。


神殿。


長い回廊。


自分の言葉を待つ者たち。


その中に、いつも自分の近くにいた者がいた。


しかし、その者の顔も、声も、名前も、はっきりとは浮かばなかった。


記憶を失ったのか。


神性が失われたことで、思い出せなくなったのか。


それとも、別の理由があるのか。


今は判断できなかった。


翌日、森川たちは初期設定資料の関連記録をさらに調べた。


その結果、神侍従の申請に付随する文書が一件、別管理の一覧に残っていることが分かった。


文書名は、次のとおりだった。


「支援実行に関する説明資料」


内容は、まだ確認できていない。


森川は閲覧手続きを進めた。


初期契約と、0000の設定。


それらを結びつけた人物が、神侍従だった可能性は高まった。


だが、その者が何を考え、何を説明し、どこまで知っていたのかは、まだ分からない。


森川は、資料の閲覧許可が下りるのを待った。


アポロンもまた、答えを待っていた。


かつて自分に仕えた者が、自分の願いのために何をしたのか。


それを知ることが、今度は自分の役目になっていた。

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