第266章 継続条件
森川は、昨夜保存した実行履歴を、高瀬と一緒に確認していた。
『対象範囲:全体』
『処理状態:実行中』
『次回処理:継続』
これまでの記録にはなかった項目だった。
高瀬は、個別の実行番号を検索した。
「この番号は、共通照合処理の実行ごとに付けられているようです。ただし、番号を発行する仕組みについては、資料が見つかっていません」
「次回処理という項目は、いつから使われている?」
「現行の履歴では、昨日の記録が最初です。旧システムの履歴には、同じ項目が見当たりません」
森川は画面を見た。
「昨日から新しい処理が始まったのか。それとも、以前からあった処理の記録方法が変わったのか」
「どちらとも判断できません」
「その二つを分けて調べよう。項目が新しくなったことと、処理そのものが新しく始まったことは別だ」
高瀬は、調査項目を追加した。
その直後、別の画面に新しい実行履歴が表示された。
対象範囲は『全体』。
処理状態は『実行中』。
次回処理は『継続』。
実行時刻は、数分前だった。
森川は、履歴を保存した。
処理が続いていることは確認できる。
しかし、何を条件に続いているのかは分からなかった。
*
午前中、山本は五〇二号室の記録について、追加の照会を行っていた。
前日に追加された『記録所在確認:完了』という表示は、今朝も残っていた。
しかし、保管先を示す欄は空白のままだった。
山本は、管理画面を操作して、参照先の設定履歴を確認した。
設定日時は記録されている。
設定を行った担当者は記載されていない。
設定の目的も分からない。
そして、記録の所在を確認したとする根拠も見つからなかった。
山本は、照会先に電話をかけた。
「昨日、記録所在確認が完了したという表示が追加されました。実際の保管先を確認できる資料はありますか」
担当者は、番号を確認した。
「現在の管理画面では、保管先を確認できません」
「では、所在確認が完了したという表示は、何を根拠に付けられたのでしょうか」
「その処理の詳細については、こちらでは確認できません」
山本は回答を記録した。
表示はある。
根拠は確認できない。
それでも、住民が求めている記録の所在は分からないままだった。
山本は、森川に報告した。
森川は、その内容を共通照合処理の調査記録に追加した。
*
昼過ぎ、アポロンは携帯に保存した通知を整理していた。
これまでの通知には、共通する名称が表示されていた。
『共通照合処理』
『対象範囲更新』
『対象情報の再照合』
どれも、何らかの処理が行われたことを示していた。
しかし、送信元や処理の詳細は確認できていない。
彼は、通知の配信履歴を確認するため、情報管理部門に問い合わせた。
担当者は、端末の種類と通知が届いた時刻を確認した。
「通知の表示履歴は確認できました。ただし、通常の通知配信記録には該当する送信元がありません」
「通知が送信された記録自体がないということですか」
「通常の配信記録では、確認できないということです。別の仕組みから表示された可能性については、こちらでは判断できません」
「その仕組みを調べることはできますか」
「関連するシステム管理部門に照会する必要があります」
アポロンは、照会番号を控えた。
通知が届いたことは確認できた。
通常の配信記録には残っていない。
その二つが、今分かっていることだった。
電話を切った後、アポロンは携帯をしまった。
*
午後、森川は高瀬から、共通照合処理の実行履歴に関する追加報告を受けた。
過去の履歴を調べたところ、個別の記録を対象とする処理は、以前から存在していた。
しかし、対象範囲が『全体』となり、次回処理が『継続』と表示された履歴は、現在確認できる範囲では、最近になって現れていた。
「では、対象範囲が全体になったのは最近なのか?」
「その可能性はあります。ただし、過去の履歴が全て残っているとは限りません。古い記録が欠けている可能性もあります」
「分かった。現時点では、確認できる最初の日時として記録しよう」
高瀬は、該当する履歴を保存した。
森川は、続いて実行条件の欄を確認した。
そこには、以前から同じ短い文字列が残されていた。
『条件判定:不要』
森川は、画面を拡大した。
「これは、条件が設定されていないという意味か?」
「分かりません。条件を判定する必要がないという意味なのか、別の場所で判定が行われるという意味なのか、資料がありません」
「では、設定資料の所在を調べる必要があるな」
「はい」
森川は、これまでの調査結果をまとめた。
共通照合処理は、現在も実行されている。
複数の管理区分に属する記録が対象となっている。
一部の処理では、本人確認や参照先確認が完了したと表示されている。
しかし、対象を選定する条件と、その表示を付ける根拠は確認できていない。
そして、最近の履歴には、対象範囲を『全体』とし、処理を継続する記録が現れていた。
森川は、報告書を保存した。
*
夕方、情報管理部門から、新しい回答が届いた。
共通照合処理の設定資料について、旧システムの保管記録を確認したところ、資料の存在を示す登録番号が見つかったという。
森川は、すぐに詳細を開いた。
登録番号は存在していた。
登録日は、旧システムの移行前。
管理区分は、共通処理。
しかし、資料本体の所在欄は空白だった。
さらに、備考欄には、短い記載が残っていた。
『設定資料は別管理』
森川は、その一文を読み直した。
別管理。
どの部署が管理していたのか。
現在も資料が残っているのか。
その資料に、対象選定の条件が記載されているのか。
まだ分からない。
しかし、これまで所在が確認できなかった設定資料について、少なくとも別管理として扱われていた記録が見つかった。
森川は高瀬を呼んだ。
「この登録番号を起点に、別管理の資料を探そう。移行時の資料だけでなく、その後の管理記録も確認してくれ」
「分かりました」
高瀬は、追加の照会を登録した。
*
夜、森川の端末に新しい実行履歴が表示された。
『共通照合処理:実行中』
対象範囲は『全体』。
次回処理は『継続』。
その下に、新しい項目が追加されていた。
『対象選定条件:適用済み』
森川は画面を見た。
これまで、対象を選ぶ条件は確認できていなかった。
今度は、条件が適用されたと表示されている。
しかし、どの条件が適用されたのかを示す欄は空白だった。
森川は、すぐに実行履歴を保存した。
そして、高瀬に連絡した。
「新しい表示が追加された。対象選定条件が適用済みとなっているが、条件の内容が記載されていない」
「確認します」
森川は画面を閉じなかった。
条件が存在するのか。
何を基準に対象を選んでいるのか。
そして、その条件が誰によって設定されたのか。
これまでの調査では分からなかったことが、まだ残っていた。
数分後、次の実行履歴が表示された。
対象範囲は、引き続き『全体』だった。
処理状態も、変わっていなかった。
『実行中』
『次回処理:継続』
森川は、二つの履歴を保存した。
処理は続いている。
そして、今まで確認できなかった条件が、適用されたと表示され始めていた。




