第263章 停止権限
翌朝、森川は管理者向けの資料を確認するため、情報管理部門に連絡した。
0000という内部識別番号による処理が、現在も実行されている。
その処理は、過去の記録だけでなく、現在の管理区分に属する記録にも影響していた。
一方で、実行元の部署名も、対象を選定する条件も確認できていない。
森川は、確認した事実を伝えたうえで尋ねた。
「この処理を管理している責任部署は、どこになりますか」
担当者は、識別番号を確認した。
「通常の業務処理として登録されている番号ではありませんね」
「内部処理の一覧には登録されています」
「管理者向けの資料を確認します。少々お待ちください」
しばらくして、担当者が戻ってきた。
「旧システムの共通処理に関係する番号であることは確認できました。ただ、現在の管理責任部署を特定できる資料は、こちらでは見つかりません」
「停止権限についても分かりませんか」
「はい。通常の管理者権限では、個別の処理を停止する項目はありません」
森川は回答を記録した。
管理する部署が確認できない。
停止する方法も分からない。
だからといって、0000が停止不能な仕組みだと決まったわけではなかった。
「旧システムの移行資料と、共通処理の設定変更記録を確認していただけますか。管理責任部署が分からない場合は、そのことも含めて回答をお願いします」
「承知しました」
通話を終えた森川は、照会記録に追記した。
『現行の管理責任部署および停止権限は未確認』
その下に、別の確認事項を追加した。
『現在も実行されている処理の範囲』
*
午前中、山本は五〇二号室の記録について、以前の管理区分で使用されていた資料を調べていた。
受領した番号は分かっている。
しかし、資料の名称も、内容も、現在の保管先も分からない。
山本は、旧管理区分の運用資料を確認した。
資料が別の管理区分に移管された場合、通常は移管元、移管先、受領担当者を記録することになっていた。
ところが、五〇二号室の記録には、受領した日時しか残っていなかった。
山本は、森川に連絡した。
「受領記録と、資料の内容を確認した記録が分かれていることは、運用資料からも確認できました。ただ、この案件では、内容確認の記録が見つかっていません」
「受領した時点で、内容まで確認したと扱われている可能性は?」
「その可能性は否定できません。ただ、そう扱うことを認める規定は見つかっていません」
「分かった。受領したという記録は、そのまま受領した事実として扱おう」
山本は、調査記録を更新した。
五〇二号室の住民が求めているのは、記録が受領されたという説明だけではない。
どこに保管されているのか。
どのような内容なのか。
そして、それを読むかどうかは自分で決めたい。
その希望に答えるためには、まだ確認すべきことが残っていた。
*
昼過ぎ、アポロンは携帯に保存していた画面を整理していた。
問い合わせの状態は『調査中』。
詳細欄には『対象情報の再照合:完了』。
さらに、過去の画面には『本人情報照合:完了』と『参照先照合:完了』が残っている。
彼は、問い合わせ窓口に連絡した。
「これまでの表示について、確認をお願いしたいことがあります」
担当者が問い合わせ番号を確認した。
「はい、どうぞ」
「本人情報の照合や参照先の照合が完了したと表示されています。ただ、私の連絡先が消えた理由は分かっていません。これらの処理で、何が確認されたのでしょうか」
担当者は、画面を確認した。
「申し訳ありません。現在、問い合わせ自体は調査中となっています。個々の処理については、こちらから詳細を確認できない状態です」
「では、照合が完了したという表示はありますが、私の連絡先が正しいかどうかは、まだ確認できていないということですか」
「はい。現時点では、そのようにご案内することになります」
アポロンは、担当者の説明を記録した。
「分かりました。では、調査が終わった際には、連絡先が消えた理由と、照合処理の内容を分けて回答してください」
「承知しました。ご要望として記録いたします」
通話を終えた後、アポロンは携帯をしまった。
表示が間違っていると、今の時点で断定することはできない。
しかし、表示だけでは、確認した内容が分からない。
彼は、その違いを記録に残しておくことにした。
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午後、森川の端末に、情報管理部門から追加の資料が届いた。
旧システムの移行時に作成された、共通処理の一覧だった。
その中には、0000という番号が記載されていた。
処理名称は『共通照合』。
説明欄には、複数の管理区分にまたがる情報を照合し、所定の条件に従って参照先と処理状態を更新すると書かれていた。
しかし、具体的な条件を記載した資料番号は空欄だった。
森川は、移行資料を確認した。
旧システムから新システムへの移行時、共通処理の一部は新システムに引き継がれていた。
その際、処理名称と識別番号は移行されていたが、設定資料の参照先については、別途確認することになっていた。
森川は、資料の作成日を確認した。
移行から数年が経過している。
それでも、設定資料の参照先は空欄のままだった。
「高瀬、この資料に記載されている設定資料番号を、別の管理台帳から探してくれ」
「分かりました」
「それから、共通照合が現在も実行されている理由も確認しよう。移行されたことと、現在も動作していることは別だ」
高瀬は、二つの照会を登録した。
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夕方、高瀬から最初の回答が届いた。
設定資料番号に該当する資料は、通常の管理台帳には見つからなかった。
ただし、資料番号そのものが登録されていないのか、別の管理区分に移されているのかは、まだ分からない。
森川は、その結果を記録した。
続いて、二つ目の照会結果を開いた。
共通照合の処理履歴には、直近の実行記録が残っていた。
その実行時刻は、数分前だった。
森川は画面を見つめた。
0000は、現在も動作している。
しかし、誰が管理しているのかは分からない。
何を条件に対象を選んでいるのかも分からない。
停止する方法も、まだ確認できていなかった。
森川は、これまでの調査記録を一つの文書にまとめた。
『共通照合処理は現在も実行されている。管理責任部署、対象選定条件、設定資料の所在および停止権限は未確認』
保存した直後、端末に新しい通知が現れた。
『共通照合処理:実行中』
森川は通知を開いた。
今回の対象は、これまでの調査案件ではなかった。
対象番号の欄には、番号ではなく、文字列が表示されていた。
『全体』
森川は、その表示を見たまま動かなかった。
これまで確認してきた処理は、個別の記録を対象としていた。
今回の画面には、個別の番号がない。
処理対象の欄には、ただ『全体』と記載されていた。
森川は画面を保存し、高瀬に連絡した。
「今の実行履歴を確認してくれ。対象番号が『全体』になっている」
「全体、ですか?」
「そうだ。まずは表示された事実と、実際の処理範囲を分けて確認しよう」
高瀬は、すぐに履歴の取得を始めた。
森川は画面を閉じなかった。
対象が何を意味しているのか。
実際にどこまでの記録が含まれているのか。
まだ、何も分かっていなかった。




