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神様は、明日を知らない』 ――全知全能の神が、人間になった理由――  作者: 亀


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第261章 識別番号

翌朝、森川は三件の照会記録を机に並べた。


五〇二号室の相談記録。


連絡先の照合に問題が生じた住民の記録。


そして、別の管理区分で更新された記録。


管理番号も担当部署も異なる。


それぞれの経緯も違っていた。


共通しているのは、本人確認の完了を示す表示が、実際に確認できた内容とは別に追加されていたことだった。


森川は、三件に記載された識別番号を高瀬に渡した。


「この番号を使っている部署があるか、確認してくれ」


「通常の組織一覧にはありませんでした」


「組織一覧以外は?」


「システム管理用の一覧を調べています」


高瀬は端末を操作した。


しばらくして、画面に一件の結果が表示された。


「ありました」


森川は画面に近づいた。


識別番号は、現在の組織一覧には存在しなかった。


しかし、旧システムから新システムへの移行時に使用された、内部処理の識別番号一覧には登録されていた。


登録名称は、短いものだった。


『0000』


「部署名ではないな」


「はい。担当部署を示す番号でもありません」


高瀬は詳細を開いた。


登録区分には『共通処理』と記載されていた。


対象となる管理区分は複数。


処理内容は、本人情報の照合、参照先の設定、状態の更新。


ただし、個別の処理条件については、現在の一覧から確認できなかった。


森川は尋ねた。


「この処理は、移行時だけ使われたものなのか?」


「一覧には、利用期間が記載されていません。現在も使用されているかどうかは、別途確認が必要です」


「実際の実行履歴は?」


「それも調べています」


森川は、画面に表示された四桁の数字を見た。


0000。


番号そのものから、何かを判断することはできない。


ただし、これまで別々に扱われていた三件の記録に、同じ識別番号が現れた。


これは、新しく確認できた事実だった。


「まず、実行履歴を取得しよう。登録されていることと、実際に動いていることは別だ」


高瀬は記録を保存した。


     *


午前中、山本は五〇二号室の住民と連絡を取った。


「以前の記録について、参照先に関する番号が見つかりました」


電話の向こうで、相手はすぐには答えなかった。


「それは、私の記録が見つかったということですか」


「現時点では、そこまでは確認できていません。番号が別の管理区分にある記録と一致していることは分かりました。ただ、その記録の内容と、現在の保管先はまだ確認できていません」


「そうですか」


「確認できたことと、まだ分からないことを分けてお伝えしています」


「ありがとうございます」


相手は静かに言った。


「私は、記録があるかどうかだけでなく、どこにあるのかを知りたいんです。それから、内容を見るかどうかは、自分で決めたいです」


「その希望は、引き続き記録に残します」


「お願いします」


通話はそれで終わった。


山本は、相談記録を開いた。


以前の欄には、参照先の設定を確認したと記載されていた。


その下に、本人の希望を改めて追記した。


『記録の所在を確認したい。内容の閲覧については、所在と内容を確認した後、本人が判断する』


保存すると、画面に確認メッセージが表示された。


『本人意思確認:完了』


山本は手を止めた。


今、本人が確認したのは、自分の希望を伝えたということだった。


記録の所在は、まだ確認できていない。


山本は画面の表示を保存し、処理履歴の確認を依頼した。


     *


昼過ぎ、アポロンは携帯の問い合わせ画面を開いた。


状態は『調査中』のままだった。


ただし、詳細欄に新しい項目が追加されていた。


『参照先照合:完了』


アポロンは、連絡先一覧を開いた。


消えた名前は戻っていない。


過去のメッセージは残っている。


相手から届いた文章も、自分が送った文章も、そのままだった。


アポロンは一つ前の画面に戻った。


『参照先照合:完了』


この表示が、何を照合した結果なのかは分からない。


問い合わせ窓口に再び電話をかけることも考えたが、昨日と同じ質問を繰り返しても、確認できる情報が増えるとは限らなかった。


彼は画面を保存し、調査の更新を待つことにした。


携帯をしまい、仕事に戻る。


その日の午後、店では注文の伝票が一枚見当たらなくなった。


健一が厨房と客席を確認し、アポロンは注文を受けた時刻と料理の内容を思い出した。


結局、伝票は会計用の書類に紛れ込んでいた。


「見つかってよかったな」


健一が言った。


「うん」


アポロンは伝票を元の場所に戻した。


紙が見つかったことで、注文の内容も確認できた。


ただし、それは今回の伝票についての話だった。


別の場所にある記録も、同じように見つかるとは限らない。


     *


夕方、高瀬から森川に連絡が入った。


0000の実行履歴の一部が見つかったという。


森川は、すぐに画面を開いた。


そこには、異なる管理区分に属する複数の処理が、同じ内部識別番号によって実行された記録が並んでいた。


実行時刻は、五〇二号室の記録に『本人確認:完了』が追加された時刻と近かった。


別の住民の連絡先情報が更新された時刻とも重なっていた。


さらに、現在の管理区分では対象外とされていた記録にも、同じ番号による処理が行われていた。


森川は履歴を確認した。


処理の開始時刻は残っている。


処理結果も、一部は残っている。


しかし、なぜその記録が対象になったのかを示す条件は見当たらなかった。


「実行元は分かるか?」


「0000という内部識別番号を使った処理が実行されたことまでは確認できます。ただし、誰が処理を開始したのか、何を条件に対象を選んだのかは、この履歴からは分かりません」


「処理の設定資料は?」


「旧システムの資料を探しています。現行の管理画面からは参照できません」


森川は、三件の履歴をもう一度見た。


これまで、彼らは個別の案件として、それぞれの記録を調べていた。


今は、その一部が同じ内部処理を経由していたことが分かった。


ただし、すべての異常が0000によって引き起こされたと判断できるわけではない。


記録が欠けている理由も、まだ分からない。


森川は調査記録に追記した。


『複数の管理区分において、共通処理番号0000による実行履歴を確認。対象選定の条件および実行元は未確認』


保存した直後、画面の隅に新しい通知が現れた。


『処理対象の再照合:完了』


対象番号は、今調べていた三件とは異なっていた。


森川は通知を開いた。


記録の詳細には、対象となった理由が表示されていなかった。


そして、その処理の実行時刻は、つい数秒前だった。

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