第259章 照会対象外
翌朝、森川は前夜に届いた照会結果を、もう一度確認した。
五〇二号室の記録について、参照先の設定に使われた番号と、別の管理区分に保管されている番号が一致していた。
しかし、その番号には『対象記録:照会対象外』という表示が付いていた。
森川は高瀬を呼んだ。
「この番号が一致したことは、確認できたんだな」
「はい。旧管理区分の番号と、別の管理区分で使われている番号が一致しています」
「その別の管理区分では、何を管理している?」
「管理区分の名称からは、関連資料を保管する領域だと考えられます。ただ、具体的に何が保管されているのかは、まだ確認できていません」
森川は、画面の表示を指した。
「照会対象外になっている理由は?」
「記載されていません。照会対象から外れた日時も、現在の画面では確認できません」
「では、まず対象外にする処理の条件を調べよう。番号が一致したことと、記録の内容を確認できることは別だからな」
高瀬は、照会対象外という表示が使われている管理区分の運用資料を探すことになった。
森川は、これまでの調査記録を確認した。
参照先の設定は確認できた。
番号の一致も確認できた。
それでも、相談記録の内容には到達できていない。
一つずつ確認できることが増えても、知りたいことに近づいているとは限らなかった。
*
午前中、山本は別の住民からの照会について、担当部署に確認を取っていた。
その住民は、以前提出した申請の回答を待っていた。
管理画面には『対応完了』と表示されていたが、回答文書は届いていなかった。
担当部署からの説明によると、申請の受付処理と、回答を作成する処理は別の工程だった。
受付側の処理は完了していたものの、回答を作成する担当部署には、申請内容が送られていなかったという。
山本は確認した。
「では、対応完了という表示は、受付側の処理が終わったという意味だったのですね」
「はい。回答そのものが完了したという意味ではありませんでした」
「今後は、回答を作成する担当部署に申請内容を送る必要がありますね」
「そのとおりです。こちらで送付処理を行います」
山本は、回答を記録した。
今回については、申請内容が送られていなかったことが確認できた。
ただし、別の案件でも同じことが起きているかどうかは、まだ分からない。
山本は、その案件の記録だけを更新した。
*
昼休み、アポロンは店の外に出た。
携帯を開くと、連絡先情報の問い合わせに新しい通知が届いていた。
『調査状況:確認中』
前日に表示されていた『確認処理:完了』とは異なる表示だった。
アポロンは、問い合わせの詳細を開いた。
そこには、調査対象の情報を確認していると記載されていたが、具体的な内容は書かれていなかった。
彼は、通知を保存した。
昨日と今日で、表示が変わった。
しかし、何が確認されたのかは分からない。
アポロンは携帯をしまい、店に戻った。
*
午後、森川は照会対象外という表示について、追加の資料を受け取った。
その管理区分では、一定の条件に該当する記録を、通常の照会画面に表示しない運用があった。
対象者の情報を保護する場合や、別の担当部署で管理する場合などが、その例として挙げられていた。
ただし、対象外にする際には、通常、理由と管理責任部署を記録することになっていた。
森川は資料を確認した。
「五〇二号室の記録について、理由と管理責任部署は確認できるか?」
高瀬は照会結果を調べた。
「理由の欄は空白です。管理責任部署についても、現在の画面では確認できません」
「対象外にする処理の履歴は?」
「まだ見つかっていません」
森川は、資料を机に置いた。
「対象外にする運用自体は存在していた。ただし、この記録がその運用に従って対象外になったのか、必要な記録が欠けているのかは、まだ判断できない」
高瀬は頷いた。
照会対象外という表示は、記録の内容が存在しないことを意味するとは限らない。
一方で、表示があるからといって、正しい手順で対象外にされたとも限らなかった。
森川は、次の照会先を確認した。
対象外の処理を管理していた部署について、組織改編前後の記録を調べる必要があった。
*
夕方、アポロンが帰宅すると、美咲はテーブルで書類を整理していた。
「今日は何か返事があった?」
美咲が尋ねた。
「調査中という表示に変わった」
「何か分かったの?」
「表示が変わったことは分かった。何を確認したのかは、まだ分からない」
美咲は頷いた。
「それなら、昨日より調査が進んだのかどうかも、まだ分からないんだね」
「そうだな」
アポロンは携帯をテーブルに置いた。
美咲は、書類を一枚ずつ確認しながら言った。
「仕事の書類でも、受付済みと回答済みは違うものね。途中の処理が終わっても、相手が知りたいことに答えられたとは限らない」
「うん」
「だから、何が終わったのかを確認しないといけないんだね」
アポロンは、少し考えた。
神だった頃は、言葉と実際の状態が食い違うことを、気にする必要がなかった。
今は、画面に表示された一つの言葉から、どこまでのことが分かるのかを考えなければならない。
それは面倒だった。
しかし、面倒だからといって、表示された言葉だけを答えにすることはできなかった。
二人は夕食の準備を始めた。
*
その夜、森川の端末に、五〇二号室の記録について新しい照会結果が届いた。
対象外の処理を管理していた部署からの回答だった。
その部署では、該当する番号を現在の管理対象として確認できなかったという。
ただし、旧管理区分の番号を受け取った記録は残っていた。
森川は回答を開いた。
受領日時は記録されている。
しかし、受領した資料の内容を確認した記録はなかった。
森川は、しばらく画面を見ていた。
番号は一致している。
受領した記録も残っている。
だが、その番号に対応する相談記録が何であり、どこに保管されているのかは、まだ分からない。
森川は、照会結果を保存した。
そして、調査記録に一行を追加した。
『旧管理区分の番号を受領した記録あり。受領資料の内容および現在の保管先は未確認』
彼は画面を閉じた。
まだ、答えには届いていなかった。




