第258章 完了したもの
アポロンは、携帯に届いた通知をもう一度開いた。
『連絡先情報の再確認について、処理状態が更新されました』
『確認処理:完了』
それだけだった。
調査結果へのリンクはない。
回答文書もない。
受付番号を開いても、表示されるのは同じ状態だった。
アポロンは問い合わせ画面から、詳細情報を確認した。
調査状態は『調査中』のままだった。
彼は二つの画面を見比べた。
一方には、確認処理が完了したと表示されている。
もう一方には、調査中と表示されている。
どちらかが間違っていると、今すぐ決めることはできなかった。
確認処理と調査が別の工程なら、二つの表示は両立する。
しかし、何を確認したのかが分からなければ、その違いも判断できない。
アポロンは、通知の画面を保存した。
*
翌朝、森川は山本から報告を受けた。
五〇二号室の記録について、新しい回答は届いていなかった。
一方、別の住民からの照会では、画面上の表示が更新されていた。
以前は『回答待ち』だった項目が、『対応完了』に変わっている。
しかし、実際の回答文書は届いていなかった。
山本は、担当部署に確認していた。
「回答を送付した記録はありますか」
「現時点では、送付記録を確認できていません」
「では、対応完了という表示は、何をもって更新されたのでしょうか」
「その点は、システム担当に確認しています」
森川は報告を聞いた。
「表示が変わったことと、回答が送られたことは分けて記録しよう。回答が届いていないという本人の申告も、消さずに残しておいてくれ」
山本は頷いた。
画面の表示は更新された。
しかし、本人が求めていた回答は届いていない。
その事実を、別々に記録することになった。
*
午後、高瀬は旧管理区分の運用記録について、追加の回答を受け取った。
参照先の設定後に行う確認処理は、対象記録を開き、参照先の登録状態を確認するためのものだったという。
記録の内容そのものを確認したかどうかは、別の作業として扱われていた。
高瀬は、森川に説明した。
「これで、以前の手順書にある『確認』の意味が分かりました。少なくとも、その手順では参照先の登録状態を確認することになっています」
「対象記録の内容を確認する作業とは違うのか」
「はい。内容の確認は別工程でした」
森川は、資料を見直した。
「五〇二号室の記録について、参照先の確認が完了していたとしても、相談記録そのものを確認した証拠にはならないわけだな」
「そのとおりです」
「では、そこを明確にしておこう」
高瀬は調査記録を更新した。
参照先の設定後に行う確認処理は、登録状態の確認を目的としていた。
個別の相談記録を確認したかどうかは、別途確認が必要だった。
これまで曖昧だった『確認』という言葉の意味が、一つ明らかになった。
ただし、五〇二号室の記録が、実際にどこへ保管されているのかは、まだ分からないままだった。
*
仕事の帰り、アポロンは携帯の問い合わせ窓口に電話をかけた。
受付番号を伝え、前日に届いた通知について尋ねた。
担当者は、内容を確認した。
「こちらでは、確認処理が完了したという状態までは確認できます。ただ、調査結果については、まだ回答できる状態になっておりません」
「では、確認処理というのは、何を確認したのでしょうか」
担当者は少し間を置いた。
「申し訳ありません。現在の窓口では、その詳細までは確認できません」
「調査自体は、まだ続いているのですか」
「はい。調査中という表示になっております」
アポロンは、二つの表示が別の工程を示している可能性を考えた。
「確認処理が完了したことと、調査が終わったことは、別なのですね」
「はい。現時点では、そのようにご案内しております」
「分かりました」
電話を切ると、アポロンは手帳を開いた。
『確認処理:完了』
『調査:継続中』
その二つを書き分けた。
何を確認したのかは、まだ分からない。
しかし、調査そのものが終わっていないことは確認できた。
*
家に帰ると、美咲が食卓で携帯を操作していた。
「昨日の連絡、ちゃんと残っているよ」
美咲は、アポロンに画面を見せた。
前日に送ったメッセージは、送信履歴にも残っていた。
「今日は消えていない」
「そうだな」
「でも、前に消えた理由は、まだ分からないんだよね」
「うん」
美咲は画面を閉じた。
「じゃあ、今は、消えていないことだけ確認できたんだね」
アポロンは頷いた。
「そういうことだ」
二人は夕食の準備を始めた。
美咲が野菜を切り、アポロンが鍋に水を入れる。
しばらくして、鍋が温まり始めた。
アポロンは火加減を確認した。
何も問題は起きていなかった。
だからといって、昨日起きたことの理由が分かったわけではない。
彼は、鍋の蓋を少しずらした。
*
その夜、森川は一日の調査記録を整理していた。
新たに分かったことは、三つあった。
参照先の確認処理と、記録内容の確認は別の工程であること。
画面上の対応完了という表示だけでは、回答が本人に届いたことを確認できないこと。
そして、五〇二号室の相談記録については、現在も保管先が特定できていないこと。
森川は、最後の項目を確認した。
調査は続いている。
分かったことが増えるたびに、以前は一つに見えていた問題が、いくつかの異なる問題に分かれていく。
それぞれの原因は、まだ明らかになっていない。
森川は資料を閉じた。
その直後、端末に新しい照会結果が届いた。
五〇二号室の記録について、参照先の設定に使われた番号と、別の管理区分で保管されている番号が一致したという。
森川は画面を開いた。
一致した番号の横には、短い表示が付いていた。
『対象記録:照会対象外』
森川は、その表示を見つめた。
番号は一致している。
しかし、対象記録は照会対象から外されている。
なぜ、その番号が対象外になっているのか。
その理由は、まだ表示されていなかった。




